テレビ×デジタル領域でのPDCA“あるある”、どうする?【VR FORUM 2019】
編集部
株式会社ビデオリサーチが2月13日・14日に東京ミッドタウンにて「VR FORUM 2019」を開催。企業のデータ利活用が活発化する現在、データ収集および統合などがますます加速している中、今後重要となってくるのは、データの量や種類ではなく、企業が求める形に応じて各種データをいかに最適化できるかにある。そうした課題点を鑑みた4回目となる同フォーラムのテーマを「Data Orchestration」とし、2日間にわたり同社が考えるテレビの未来、新視聴率計画をはじめ、各種メディアとの取り組み、デジタルマーケティング施策へのソリューションサービス等を紹介する催しとなった。
その中でも14日にHall-Cで行われた、「テレビ×デジタル領域でのPDCA“あるある”、どうする?」の模様をお届けする。

登壇者
・中條裕紀氏(資生堂ジャパン株式会社 メディア統括部 メディアミックスグループ)
・金井統氏(株式会社リクルートネットマーケティング推進室 シニアマネージャー 兼 株式会社リクルートジョブズ 商品本部デジタルマーケティング室 マーケティング部 部長)
・花木綾氏(株式会社ビデオリサーチ ソリューション事業局 データデザイン部)
■テレビ×デジタル領域のPDCAにおける現状&課題とVRが提案する解決案
進行の花木氏より、本セッションのアジェンダが下記のように発表された。
1.「P」~Planning領域での“あるある”
2.「C」+「A」~Check+Action領域での“あるある”
3.From消費者~広告に対しての“あるある”
○1.「P」~Planning領域での“あるある”

花木氏はテレビ×デジタル領域におけるPDCAの定義を、下図のようにまとめた。

そして、①Planningを行う際に重視していること、②Planning時に悩みがちなのはどんなことか、両者に質問した。

金井氏が重視しているのは、「継続的に成長するPDCAである」と発言。「効率化だけを考えていくと短期的に数字は跳ね上がるが、半年後には成長しなくなる」と実体験を語り、「数値から現状の構造を捉え、今後の変化を読み、その上で予算アロケーションと施策開発を行う」と続けた。また、予算のモデリングにもトライしてみたが、予算が自動化できているかと言えばそうでもなく、投資配分の割合を変えて数年間回した結果、現在の配分に落ち着いたという。金井氏は「ある程度戦略のもと行い、PDCAを回しながら柔軟にやっていきたい」と今後の方針を語った。
悩みがちな点として挙げたのは、「適正な実験タイミングと新たな試作開発のコスト」だ。金井氏は「KPIがいい時などは”余裕があるからやってみよう”と実験しがちだが、実は適正な実験のタイミングがある」と言い、「実験は、変化の予兆を捉えたタイミングで行わなければ先行投資にならない。例えば、プラットフォーマーの台頭や新しいプロダクトの出現、テクノロジーの変化に伴って起きるカスタマー行動の変化等を捉えて実験しなければ検証しても意味がない」と伝えた。結論として「年間を通して実験予算を必要コストとして設置し、最適なタイミングで実験すると良い」と述べた。ただ、悩むのは実験に対する投資コストの額で、「実験の際に得られるデータの中で、信用できるデータ数とそのコストは補填できるが、それが全体の何%かまでは把握できていない。最適なところまではできてない」とコメント。それでも、「いろいろなデータ会社がある中、ログ視聴データはVRが一番正確だと思う」と感想を述べた。

中條氏は重視していること、悩みがちなことを下図シートにまとめた。

1の生活者において重視していることは、「資生堂ではパーセプションフローモデルを利用しているが、これに基づいたメディア選定についてはフレームワークを用いて『生活者に最終的にどうなっていてほしい』からプランニングしている」と述べ、「いきなりメディア議論から入らない」ことがポイントと続けた。また、悩みがちなことは、フレームワークであるがゆえに知識・経験による個人差が出てしまうことを挙げ、「我々のような横断的な部署がうまく調整し、カバーする必要がある」とした。
2の実績において重視しているのは、「メッセージ×メディアで効果の高い組み合わせを探す」点をあげ、「例え、結果が悪くても、メディアだけ、クリエイティブだけといった検証はしていない」と伝えた。悩みがちなことは、「データソースによって結果=課題が変わる点」と述べ、どのデータを用いるか悩むとした。
3の予測に関して重視しているのは、態度変容フェーズ毎のリーチボリュームを試算している点を挙げ、「1のパーセプションフローから目標人数○人といったシミユレーションをしている」と伝えた。ただ、その精度は、「複数の広告会社と契約をしているため、メディアの重複、エリア、ターゲットの考え方などが統一されていない」ことが悩みがちな点でもあるとの見解を示した。
4の実行において重視しているのは、「データを活用した新規ソリューションによる効果向上」であるが、「データを取得できるデジタル上のビーグルも限られているので、普通にプランニングするとそれが悩みである」と伝えた。
花木氏は、中條氏の悩みがちな点について「それぞれ媒体の都合があるため、コンディションが揃わなかったり、欠けていたりする」というポイントに共感した。
続いて、中條氏は、全国2万人、10代から60代を対象に実施したテレビ接触頻度調査(ローテレ調査)の結果をスクリーンに提示。

この結果に中條氏は、「本来このデータの意図はいわゆるローテレ層が増えていることを明らかにすることであるが、裏を返すとローテレ層でも6割はテレビCMに接触しているということ」。また、「エリアで見たら結果は違うだろうし、都心部だけの感覚で地方を考えるのも困難である。ただ、こういう結果を踏まえると、生活者にアプローチするのは非常に難しくなっている」と主観を述べた。花木氏は、「話題になったデータなのでチェックしたが、あくまでも一つの結果として受け止めている。この結果から分かるように、生活者はさまざまなスタイルでメディアに接しているので、テレビはテレビ、デジタルはデジタルでプランニングするのではなく、両者を俯瞰することが肝要」と意見し、同社が提案する予算・目標KPI・メインターゲットを入力するだけでテレビとデジタルの予算配分モデル提示する「予算配分Simulator」の事例を提示。

この例でいくと最適配分は93:7とした。

中條氏は、「弊社であれば、商材、例えば化粧品でも口紅と化粧水、あるいは価格帯によって、シミュレーションの精度が異なる。そのため、シミュレーションの仕方自体が試行錯誤に近い」と発言。「個人的な意見だが、シミュレーションも必要だが、実行しながら結果を出すことが重要。今取り組んでいる春夏商材の結果を秋冬に活かすのではなく、今の状況を可視化しながらテレビもデジタルも含めた全体でチューニングしていくのが理想」と中條氏が返答した。金井氏は、過去5年にわたりさまざまなチャレンジを行ったが、なかなかうまくいかなかった実体験を語り、その理由には、「単純に世の中が変化したことが関係している」とコメント。というのも、「当時の状態でモデルを組んでも、時系列やバロメーターが変化するため、そのデータ自体が使えなくなった」と話し、その結果、「やりながら細かくチューニングするのが望ましい」という結論に至った。
花木氏はそうした2人の意見から、「シミュレーターは方針を決めるために使えるが、その後のチューニングが大切である」とまとめた。
○2.「C」+「A」~Check+Action領域での“あるある”
Planning同様、花木氏からCheck+Action領域での重視していること、悩みがちなことについて両者に質問がなされた。
金井氏は重視していることを、「成功と失敗からの学びを抽出して蓄積している」と述べ、「全数データでは徹底的なABテストで検証していること、サンプルデータでは仮説に対して数値と論理で検証している」と発言。「全数データに向き合う場合は本当のデータに従うのがいいので、ABテストを何度も繰り返すことでわりとグロースできる」と続けた。また、悩みがちな点は、「成功と失敗からの学びの体系化と継承」と述べ、「人から人に継承されるなら、その継承モデルを作った方がいいと思い“学び方の継承”がいいと思った」、成功は「成功からの学びは、その時の前提となっていたものを学んでおくことが大事で、単に成功例を用いても状況が違えば成功はできない。一方、失敗はその要因抽出をちゃんとしておけば、同じ失敗はしないものなので、“学び方”をそれぞれ変えて学ぶ必要がある」と、同社「タウンワーク」のCMでの失敗例(タレントパワー数値とKPIは結果相関しなかったなど)と成功例(タレントキャラクターとCMでのキャラクターを一致させるセオリー)が語られた。以上のことから金井氏は「成功からの学びは前提が大事。失敗からの学びは要因が大事である」とまとめた。
花木氏は「失敗は言いづらく、共有しにくい会社が多いが、失敗から学んで抽出していこうという点に金井さんの部署の風土を感じる」と意見すると、金井氏は「弊社は、そもそも成功は『成功した』というのに、失敗は『学び』と言い換えて報告する」と発言し笑いを誘った。
続く中條氏が重視しているのは「事前に設定した目的に対して評価する」「生活者の態度変容効果で評価する」という2点を挙げた。前者は、「目的外の指標で結果が良いと評価しても再現性がないので、目的に対して結果がどうだったかにフォーカスしている」とし、後者については「売上に対してのみ評価をすると、短期的なPDCA効率の良いものにプランニングが寄りがちになり縮小するPDCAになる。規模も企業活動は求めているので、態度変容指標も含めて重視している」、「弊社では店頭売上が中心なので、欲しいと考えた時に記憶に残っているかが大事である」と補足した。花木氏は、「先ほどPlanningで発表した4つともリンクされている」と発言した。
それから中條氏は、重視していることの到達評価と効果の評価を可視化したものを提示し、「テレビ広告とデジタル広告それぞれのメディア視点ではなく、生活者視点で統合したリーチを計測し、到達と効果を見ることを大事にしていきたい」と述べた。

次に悩みがちなことを、「同じデータを見ようとしても立場で評価が変わりがち」とコメント。そうした理由から、「直接測定できない意識(態度変容)も踏まえた評価を行うことで、正しい評価を心掛けている」と伝えた。

花木氏から「意識の違いを見落とさないために、ダッシュボードを導入されようとしているとか?」と振られると、中條氏は頷きながら「社内外の皆で同じタイミングで同じデータを見られるので、そういうことを重視して進めていきたい」と返答した。
金井氏、中條氏の発表を踏まえた上で、花木氏よりCheck+Action領域での“あるある”を解決するVRソリューション例として、DARから一気通貫で実施可能なブランドリフト調査「Brand Lift Plus」の提案がなされた。

そしてVRならではポイントを下図2点提示。

乗り越えるべき課題を3点提示した。

花木氏は両者に、「スマホ絡みのところは重視しているのか?」と尋ねると、金井氏は「スマホユーザーが多いのでアプリを重視しているが、アプリではデータが見えないので、それを見せてくれるパートナーさんが欲しい」と発言。中條氏は「デジタル特有の悩みとしてアプリの問題はあるので、そこはより広がるといいなと思っている。また、先ほどテレビ広告とデジタル広告の統合のイメージを提示したが、カバー範囲が広がらないと部分的な絵になってしまうので、その精度は上がってほしい」と述べた。花木氏は、「どうしても広告を出す側からの話になってしまうが、原点に立ち返る必要がある」、「生活者側からしてもより良い広告体験をしてもらうためにはデータをフラットに見てブラッシュアップすることが大事である」と、フラットに見える環境作りも今後の業界全体の課題であると伝えた。
○3.From消費者~広告に対しての“あるある”
花木氏は、同社が2018年秋に実施した「Web動画に関する調査」に寄せられたコメントシートを提示。

オレンジのポジティブ意見を指し、「共通して言えるのは、消費者の心をより動かすものが必要で、考えさせられるものや続きが見たくなる動画に関心が寄せられている」、「消費者の感情を揺り動かすためには、クリエイティブの絵面やストーリーが大事である」と発言。次にブルーのネガティブ意見を指し「フリークエンシーが多い、一般人が出てくるようなCMはクオリティが低いといった感想を抱いている」と述べ、「そうした視聴者からの意見を吸い上げながらプラットフォームごとの最適な広告作りが肝要である」と続けた。
花木氏は金井氏に、「先ほど、デジタル広告では徹底的なABテストを行い動画作成していると伺ったが、その際に注意していることは?」と尋ねた。それに対し金井氏は「テレビ広告とデジタル広告の棲み分けをしており、Webでは広告というより、見たくなるコンテンツであることを重視している。もっと言えば、ギフトのように、最適なタイミングで贈れるよう意識している」とコメント。中條氏は「化粧品の場合だと、企業が作る広告クリエイティブ以外にもインフルエンサーやインスタグラマー、YouTuberが存在する。なので、このメッセージだったら第三者に発信してもらった方がいいというケースがある。できるだけコントロールしようとは思っていないし、広告のようにディレクションしないようにはしている」と業界ならではの意見を述べた。

最後に花木氏から「今後弊社に期待することは?」と両者に質問。金井氏は「データのオープン化」と答え、「テレビ周りのデータはオープン化によって短期的に失うものがあるかもしれないが、オープン化によって価値が最適化されるものもあると思う」と発言した。中條氏は「テレビとデジタル業界をつなぐ役割としてVRがいると、業界が融合するのかなと期待している」と意見し、「業界をつなぎ、鍵を開ける役になりたい」と花木氏が延べ本セミナーは終了した。