ドラマ『Mother』の世界的ヒットの背景を語る日テレ海外PR責任者~ユーロデータTVパリサミット報告~(前編)
23AUG

ドラマ『Mother』の世界的ヒットの背景を語る日テレ海外PR責任者~ユーロデータTVパリサミット報告~(前編)

テレビ業界ジャーナリスト  長谷川朋子 2019/8/23 07:00

日本テレビがフランスの調査会社ユーロデータTV主催の「パリサミット」にアジアの放送局では唯一の参加を果たし、メジャースタジオと並んで講演を行った。テーマは世界的ヒットを生み出したドラマ『Mother』の海外戦略。世界第2位のドラマ輸出国であるトルコでリメイクされるや否や視聴率でトップを独占、さらにそのトルコ版が世界35か国で展開されているドラマ『Mother』を主軸に、登壇した日本テレビ海外ビジネス推進室の明比雪氏が講演を行った。海外向けの広報とマーケティング/
PRを一手に引き受ける明比氏が明かした成功ノウハウとは何か? 現地で得た反響と共にその内容について聞いた。

■BBCやソニー・ピクチャーズら世界のメジャースタジオ厳選80人参加

日本テレビが参加した「パリサミット」は、主催のユーロデータTV社が毎年1回のペースで企画する世界のコンテンツ業界向けの招待制会議である。調査/制作担当幹部がフランス・パリに集まり、動画配信サービス全盛時代に求められる戦略などをお互いの事例から学ぶ場だ。今年6月に開催された「第4回パリサミット」には英BBCスタジオやITVスタジオ、米ソニー・ピクチャーズなど世界のメジャースタジオなどから80人が参加し、このほど日本テレビが日本の放送局としては初めて招待を受け、海外ビジネス推進室を代表して、明比氏が出席した。

ユーロデータTV主催の「パリサミット」に登壇した明比氏

ここで改めて主催のユーロデータTV社について説明すると、同社は視聴率などテレビのマーケティングデータを世界中から購入し、独自に分析した総合データを世界の放送局や制作会社向けに販売しているヨーロッパ大手の調査会社のひとつである。精巧度の高さを売りに、カンヌのテレビ見本市MIPTV/MIPCOMではユーロデータTV社が発表する世界の番組トレンド傾向セッションは毎回満席になる人気ぶり。筆者も日々の取材活動のなかで同社のデータを参考にさせてもらっている。

日本版と(右)トルコ版『Mother』のビジュアルポスター

日本テレビ制作の『Mother』がトルコでリメイクされ、大ヒットした話題はユーロデータTV社がデータ分析した結果からも常々報告されている。そんななか、今年のパリサミットで共有すべきトピックとして、明比氏は「Japanese formats : in the golden age of drama series~The success of NIPPON TV’s “Mother”」(ドラマ黄金時代における日本のフォーマット~日本テレビ制作『Mother』)というタイトルで、「パリサミット」2日目(2019年6月21日)のセッションで講演を行った。

以下、明比氏から聞いた会議の模様をお伝えする。

■世界のメディア会議で日本テレビ、ドラマ『Mother』の実力を試す

言うまでもなく、日本テレビは5年連続で視聴率トップを死守する民放キー局の1社であるが、「パリサミット」に登壇した明比氏は冒頭、「日本テレビという日本の放送局をご存知ですか?」と、出席者に向けてそんな質問から始めたという。

「登壇者のなかで、アジア人は独りだけ。毎回この会議に出席されている欧米の方も多く見受けられるなか、初参加の立場で様子見ということもありましたが、登壇の順番が回るまで実は敢えて積極的な交流を控えていました。自分なりに狙いがあり、インサイダーがいない会議の場で日本テレビと『Mother』の実力を試したいと思ったからです。結果はこうでした。『日本テレビはご存知ですか?』と尋ねると、手を挙げてくださった方は出席者のうち8割。セールス実績/広報の甲斐があり、意外と知られています。続けて、ドラマ『Mother』についても聞きました。すると、半分ぐらい。まだまだでした。でも、プレゼンのしがいがあるものになりました」。

続いて説明したのは「日本テレビはどんな会社で、どのような事業を展開しているのか?」ということ。その答えには日本テレビの海外ビジネス推進室で「ヘッド・オブ・マーケティング」の肩書を持つ明比氏ならではの視点が盛り込まれた。

「日本テレビは放送局であり、制作会社であり、配給会社でもあります。こうした多岐にわたる業態は世界でも珍しいので、強みとして伝えました。インパクトを与えたのはHuluジャパンが日本テレビ傘下にあることです。Huluそのものは当然知られているのですが、そのHuluが日本では日本テレビグループであることに驚かれたほど。『(Huluを持つことは)良い戦略だ』とも言われ、パワーハウスとして印象付けることができたと思います。一方、海外ビジネスはまだ途上の段階にあることも明かしました。言語や権利処理の問題が現実的にあります。そんななかで、逆にチャンスと捉える戦略を取ったことを話し始めました」。

■評価は記事になることで説得力が増していく

つまり、ここからが本題。ドラマ『Mother』のこれまでのヒットの軌跡が語られた。
「脚本を世界に売り出すことを戦略的に始め、交渉相手のトルコで『Mother』のリメイクが決まり、放送されるや否や視聴率1位、シェア25%以上を獲得した話などから始めました。

トルコ版Motherに出演するのは現地で人気の女優Cansu Dere(ジャーンス・デレ)、Vahide Perçin(ヴァーヒデ・パーキン)、 そして 人気子役のBeren Gökyildiz(ベラン・ギョキルデ)。トルコ用に複雑にアレンジされた衝撃的なサイドストーリーも追加されている。

それから、ヒットを実感した話も加えました。というのも実は小学生の頃、4年間ほどトルコに住んでいたことがありまして。現地に住んでいる幼馴染といつもの通り連絡を取り合っていましたら、『今日、帰宅したら家族が泣いている。Anne(アンネ)というタイトルのドラマに感動していて』と。『それってオリジナルは日本テレビなのよ!』と伝えた時の嬉しさは今でも忘れられません。その後、ロンドンに出張していた時にもタクシーの運転手の方がトルコのお名前の方だったので、思わず『Anneは知っている?』と尋ねたら、『もちろん、知ってる! トルコで大人気だよ』と。こうした街の声を実際に聞くことでより実感していきました。また評価は記事になることで説得力が増していきます。だからいかに取材してもらうか、そんな策も練っていきました。結果、世界のコンテンツビジネス専門誌に記事化してもらい、最大手の『ワールドスクリーン』では『Mother』の次屋尚プロデューサーの名前が表紙を飾りました。世界12人のストーリーテラーの一人として選ばれた特集でNetflixのヒットドラマ監督などとも肩を並べ、グローバルになれたことを実感しました」。

今やトルコ版は世界35か国で展開され、新たなリメイク先も韓国、ウクライナ、フランスと続々と決まっていく『Mother』。同シリーズの『Woman』もトルコ版が『Mother』以上の大ヒット、日本版には存在しないシーズン2の放送にまで広がっている。成功の軌跡を誰よりも間近で見続け、海外に向けリリース発信する明比氏は、さらに独自の分析も説明していった。

日本版と(右)トルコ版『Woman』のビジュアルポスター

「成功の種はどこにあるのか、そんな話もしました。フォーマットはコンテンツビジネスとして有効であることをより理解してもらいたかったからです。話をしたのは制作の背景です。『Mother』の企画を考える際、脚本家の坂元裕二先生と監督の水田伸生、プロデューサーの次屋の3人が『心が震えて、怒りが湧いてくる事は何だろう』と何週間にもわたり、話し合った結果、『子どもの虐待が許せない』ということにたどり着いた話を聞いていたので、披露しました。当初は海外でリメイクされるとは思いもせず、そもそも日本テレビの編成を通すことすら難しく、社内を説得して、ようやく放送に漕ぎつけたということも伝えました。ドラマを制作/放送することは非常に難しく、日本のドラマは売れないとか、フランスのドラマだったら売れるというものでもなく、スト-リーのユニークさと同時に普遍性を追求した良い話を制作することが、動画配信サービス全盛時代に勝ち残るための源になる。これが私なりの分析です」。

プレゼンの反響は上々。プレゼン後は各国の参加者から質問攻めに合ったという。

「参加者の方から『こんなに素晴らしいストーリーが日本にあることを知らなかった』と聞いた時は、実のところがっかりもしました。日本はまだまだ未知の国。欧米では日本のコンテンツが知られていないことを改めて知らされました。告知し、ビジネスを成立させない限り、通じる術がない厳しいビジネスだということも痛感しました。そんななかで、何よりも嬉しかったのは『おめでとう』という言葉。『言葉も文化も違うアジアの国の日本がこれだけの結果を残すことができたのは、素晴らしいドラマがきっかけだったんですね』と言ってもらい、ドラマの制作/放送に関わった多数の方々と海外事業部の頑張りが報われたようで心から嬉しく、誇りに思いました」。

『Mother』が世界的ヒットドラマであることは各国メディアの評価やユーロデータTV社などの調査会社の発表などからも伝えられ、間違いない事実だが、PR担当の明比氏が今回のパリサミットを通じ、「実はまだまだ知られていない」ということを明かしたのは潔い。次なる施策に繋げようとしている心意気が伝わり、ヒットの背景に実はPRの働きも大きく関与していると思うこともあるからだ。そこで、引き続き『Mother』を基軸にしながら、後編は明比氏に聞いた日本テレビの海外PR術を探っていく。

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