WBS発Vチューバー相内ユウカはなぜウケた?~テレ東的、経済ニュースのコンテンツビジネス~(前編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビ東京の看板経済ニュース番組『WBS(ワールドビジネスサテライト)』(毎週月~金曜、23:00〜)から生まれたVチューバー「相内ユウカ」が出演する生配信番組からこのほど新刊が発売された。これは経済ニュース番組の新たなコンテンツビジネスを探る取り組みのひとつでもある。※VチューバーIPを核に展開するその先にはどのような可能性がみえているのか。Vチューバー「相内ユウカ」誕生のきっかけを作ったテレビ東京報道局次長の野口雄史氏と、報道コンテンツのビジネス化を探るビジネス開発局の久保井恵一氏のお二人に話を聞いた。
(本文以下、敬称略)
※IP…IPはインテレクチュアル・プロパティーの略。著作権などの知的所有権を意味する
(テレビ東京 ワールドビジネスサテライト編 税別1400円)
■“年収2000万円稼ぎたい”が口癖のテレ東新人バーチャルアナの活用法
――バーチャルユーチューバー(Vチューバー)の「相内ユウカ」は2018年8月に『WBS』で特集した「企業のVチューバー活用、最新の動き」の取材から偶然生まれたキャラクターだ。そんなきっかけから何故、テレビ東京独自のIPとして育て、活用していくことになったのだろうか?
野口氏:相内優香アナウンサー自らVチューバーを体験した企画が想像以上にネット上で話題になったことが大きかったです。リアルタイム検索ワードランキングで『WBS』が1位になったほど。若い層にも番組を見てもらいたい、地上波の経済ニュースを見ない人にも見て欲しいと、当時『WBS』の担当CP(チーフプロデューサー)として日頃から考えていたこともあり、番組を知ってもらう良いきっかけになると率直に思いました。相内優香からも「23歳、“年収2000万円稼ぎたい”が口癖」といったVチューバー相内ユウカとしてのプロフィールも提案され、継続的に展開していくことも考え始めました。そこで、テレビ東京のVチューバービジネスとして、コンテンツビジネスの側面からも検討できるのではないかと思い、部署をまたいで相談した経緯があります。
久保井氏:当時のVTRを見ると、Vチューバー相内ユウカを紹介する『WBS』メインキャスターの大江麻理子もこの時ばかりは笑顔が溢れていることがわかります。ディレクターが書いた原稿も「何かに目覚めた相内アナ。再デビューを狙う?」とノリノリで、何より相内優香本人がすっかりハマっていました。そして、Vチューバーというある意味サブカル的なものと、全く違う分野の『WBS』がテレビ画面上で共存したギャップの面白さが話題に繋がったと分析しています。テレビ東京としてはその頃既に「七瀬タク」という男性Vチューバーを、グループ会社のテレビ東京コミュニケーションズが開発していたこともあり、話題になった相内ユウカの活用は自然な流れでもありました。
――本格的な活用を検討する手始めに、簡易的な2Dタイプから3Dキャラクターモデルに作り直し、「テレビ東京新人バーチャルアナウンサー」の触れ込みで、現在の相内ユウカが誕生した。初披露の場は、やはり『WBS』の番組内だった。
久保井氏:完成した後、2018年12月の『WBS』に2回登場させました。放送でVチューバーを扱うにはそれなりのコストがかかりますが、日々進化している技術の知見を貯めることができる良いチャンスでもありました。スタジオとCG、Vチューバーの技術を融合することによって、大江キャスターと相内ユウカがあたかも横並びで立っているかのように見せた上で、報道番組としてVチューバーの仕組みを伝えていこうと、番組側の提案でVチューバーのご法度でもある中身(相内本人)も敢えて見せる演出をしました。
■相内ユウカはVチューバー業界の勝ち組?
――その後もたびたび『WBS』のスタジオに登場させ、2019年3月からは週一回、『WBS』放送終了後にYouTubeの生配信番組『相内ユウカにわからせたい!』を開始。地上波以外の展開によってどのような効果が生まれたのか?
野口氏:地上波での使い方も考えましたが、Vチューバーの活かし方としては実在する大江キャスターらと生で掛け合う反応こそが面白いと思いました。さらに、毒舌でずけずけと物を言う相内ユウカのキャラクターを活かすには、『WBS』解説キャスターの滝田洋一さん、山川龍雄さんに「経済ニュースをわかるまでちゃんと教えてよ」といったスタンスでじっくり聞いていくのもありだなと。
久保井氏:効果としては、テレビ東京の報道YouTubeチャンネル「テレ東 NEWS」の登録者数が一気に増えたことがひとつあります。当時わずか数百ほどだったチャンネル登録者数が3週間程で6000に伸びました。また地上波で少しずつ認知を広げ、YouTubeで活動をし始めたことを好意的に受け止めているコメントは9割以上と、応援いただいている状況も分かりました。Vチューバー相内ユウカはところどころにパーソナルな部分をみせるので、そこにも関心が寄せられています。「今晩は焼酎飲んで寝ようかな」などと、地上波の経済ニュースのアナウンサーにはない発言があると、書き込みも増えます。
YouTubeテレ東NEWSより
――継続的な展開によってキャラクター作りが強化されたわけだが、これまで約1年かけて作り上げた仕掛けを今後Vチューバービジネスとしてどのように発展させていく考えがあるのだろうか。
久保井氏:Vチューバー業界の動きは早く、昨年の夏ころ4000体ほどだったVチューバーが今は倍以上に増え、同時に淘汰も始まっています。一部の勝ち組と大多数のその他に分かれている状態です。そんななかで、相内ユウカはどうなるのか。まだ何とも言えませんが、Vチューバー業界だと異色の存在として知られています。もちろん、今後も継続させていくためにはビジネスとして成立する必要もあり、次のステップに進めていきます。Vチューバーと言えば、「ギフティング」を含めたマネタイズ方法がありますが、局アナウンサーを起用している以上、様々な制限もあります。番組プロモーションの活動を中心としながら、どこまで可能性あるのか模索中です。
野口氏:世間では「Vチューバーってなんだろう?」という素朴な疑問がまだまだあります。番組から生まれた相内ユウカは紹介しやすいのか、メディアから取材を受ける機会も多く、結果的に『WBS』を改めて知ってもらうことに繋がっています。今回の書籍化もその一環です。Vチューバーは『WBS』の新しい仕掛けではありますが、1988年に番組がスタートして以降、これまでも『WBS』をきっかけに経済ドキュメンタリーやトーク番組などが生まれ、新しいことに常に取り組んできた歴史があります。池上彰さんの選挙特番のユニークな候補者プロフィールに関しても、テレビ東京の報道には「何か新しいことをやろう」というベンチャー的な発想がベースにあるからこそ生まれているものです。社内で議論をしながら立ち上げていくことが当たり前にあるなかで、相内ユウカも生まれ、新しいコンテンツとして知識や技術を蓄積していく方向に進んでいます。
このたびの書籍化をはじめ、Vチューバー相内ユウカの活用は日曜深夜のバラエティ番組『電脳トークTV2~相内さん、もっと青春しましょ!~』のレギュラー出演や「ニコニコ超会議」の参加、4月クールのVチューバードラマ『四月一日さん家の』発表会見での司会担当、そしてグッズ展開と徐々に広がっているところ。実践を繰り返しながら、テレ東的VチューバーIPの可能性を探っている様子がうかがえる。後編はこれまでの知見から、時代に合わせた経済ニュース番組の今後の在り方についての考えも聞いていく。