顧客起点なメディア作りの「鉄則」とは?〜スマートニュース×フジテレビ『マーケティング視点でメディアを考える』レポート(前半)
マーケティングライター 天谷窓大
2019年10月1日 、株式会社フジテレビジョンがスマートフォン・PC向けエンタメサイト『フジテレビュー!!』をオープン。同サイトでは「そのハナシには、つづきがある。」をキャッチコピーに、番組出演者への独自インタビューをはじめとした舞台裏コンテンツや「番組のメイクスタッフが教えるメイク術」など、制作現場ならではの臨場感とテレビ局ならではの取材ノウハウを駆使した記事を配信する。

同サイトのオープンを記念し、同日、東京・渋谷のスマートニュース本社にてトークセッション「マーケティング視点でメディアを考える」が開催。スピーカーとして株式会社フジテレビジョン コンテンツ事業室 副部長(兼ニュース総局・兼広報局)の清水俊宏氏、スマートニュース株式会社 マーケティングコンテンツ開発担当ディレクターの松浦茂樹氏が登壇し、顧客を起点としたメディア構築のありかたについて議論を交わした。
本稿では同セッションのうち、スマートニュースの松浦氏によるプレゼンテーション部分を特集。数々のメディア立ち上げを経験してきた同氏の「顧客起点マーケティング」の極意とは──。
■「弱みをカバーする強み」を作る
冒頭、清水氏が今回の議論の前提として、メディアを「顧客向けに情報を伝えるサービス」、マーケティングを「顧客のニーズに応え、販売を不要にすること」と定義した。「メディア」を商品・サービスとしてとらえ、「マーケティング」によってユーザーからどのように信頼や愛着を得るのか考えるのが狙いだという。
清水氏「メディアマーケティングの出発点は顧客を知ること。それによって自らの価値を生み出し、強いブランドを確立する。その強みをもって、流通チャネル(経路)を広げ、顧客ロイヤルティ(信頼・愛着)を獲得する」

メディア立ち上げの動機やコンセプトはさまざまに存在するが、顧客起点のマーケティングという点においてはどうあるべきなのか。
松浦氏も清水氏の定義に同意し、「自分の場合は『何を作りたいか』ではなく、どこに顧客ニーズがあるかから始めた」と語る。

松浦氏「自分たちの発信する情報がどんな層に強みやニーズを持っているかはもちろん、どんな点が弱みであるかも把握することが大事。自分たちの弱みをあらかじめ踏まえたうえで、それをカバーできる強みを作りだす」
メディアとしての強みとはすなわち、顧客が有益と感じ、他のメディアではなく自分たちのメディアを選ぶ理由を与えること。メディア立ち上げにおいてはこうした強みの部分を言語化し、コンセプトに落とし込むことが重要であると述べた。
■独りよがりはダメ。コンセプトは定量調査から導く

メディアのコンセプトは「自分たちの肌感から導いてはいけない」と松浦氏。「顧客基点で考えるフレームワーク」として、以下を挙げた。
<顧客基点で考えるフレームワーク>
・現時点の規模を把握せよ
・強みを把握し、言語化せよ
・強みを具体化し、コンセプト化せよ
・出発地点から毎日トラッキングせよ
・オフラインがあがればオンラインもあがる
■調査は3か月スパンで短期間で一喜一憂しない
同氏はモデルケースとして、過去に携わったメディア立ち上げ時の事例を紹介。先に挙げた“鉄則”に沿って、具体的に実施した内容を挙げた。

松浦氏「まず顧客層として、日本における人口ピラミッドがもっとも尖っている(人数が多く、かつ活発である)団塊ジュニアに照準を定めた。3か月にわたってさまざまな角度の記事をリリースして顧客が必要とする情報が何であるかをリサーチし、これらによって可視化された『強み』を具体化していくことに注力した」
調査において重要なのは「細かいスパンで一喜一憂しないこと」と同氏。3か月程度の長いスパンでさまざまなコンテンツを試し、顧客層を把握することが重要であるという。
やはり気になるのは「顧客に刺さる情報をどう作り出すのか」という点だ。これまで顧客集めの手段として、SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン向けの情報最適化)やタイトル付け、ソーシャルハック(特定の志向や属性を持つ層を刺激すること)といった様々な技術が生み出されて来た。
松浦氏いわく、これらは「個別の武器磨きに過ぎない」という。
松浦氏「(小手先の耳目を集める技ばかり繰り出す)『武器マニア』になってはいけない。極端な話、全員に1万円を配れば顧客は獲得できるだろうが、それを継続することはできない。先行する人気メディアの真似事をしたり、(刺激的な内容の)単発企画を打ったりすることも同様に意味がない。顧客が継続してアクセスしたくなる『継続エンジン』が明確になれば、そこに狙いを絞ればよい」

■やみくもに「新規獲得」へ走らない
メディア立ち上げ期においては、ベースとなる顧客の獲得に目が行きがちだ。しかし、この点においても松浦氏は冷静な視点を持つべきと呼びかけた。

松浦氏「新規顧客の獲得とリピーターの醸成はきちんと棲分けて考えることが大事。リピーターが増えていなければ、メディアとしての強みを分析し直さないと意味がない。やみくもに新規顧客を狙っても意味がない」
「オンラインメディアにおける離反顧客は戻ってきやすいが、同時に離れていきやすい」と同氏。「顧客層にとって『こういう記事の内容や出し方が嫌われる』というポイントもあわせて把握すべき」と述べ、ニュースサイトは使い古された仕組みだが、強力なプロダクトアイデア。そのうえで独自性と、顧客に提供できる具体的な便宜はなにかを明確化する。ユーザー層の顔が浮かび上がるくらいに独自性を強めることが大事」と強調した。
■「メディア運営はF1ドライバーの気分」
プレゼンテーションの締めくくり、松浦氏は既存メディアの顧客構造に触れながら、つねに未獲得の顧客層を把握し続けることの重要性を説いた。

松浦氏「テレビ・新聞・雑誌などは(モノとしての)流通経路を押さえているため、固定した『ロイヤル顧客(=認知があり、購買頻度が高い層)』を持っているが、WEBを中心としたメディアでは状況の変化を瞬時に察知して動きを変えなければいけない。未認知の顧客層が全体の何%いるかを常にトラッキングし、そこに対して訴えかけていくことが大事だ」
常に最新の状況に目を配り、つねに的確かつ俊敏な舵取りが求められるという点では「メディア運営はF1ドライバーの気分」と同氏。堅実な顧客層固めを図ったうえで、新たな顧客層への波及を意識する運営体制が求められると締めくくった。
後半はこれを踏まえ、フジテレビの清水氏による『フジテレビュー!!』の具体的な戦略、そしてメディア立ち上げの経緯となった「テレビ局ならではのメディア運営の強み」について詳しく踏み込んでいく。