地域×ビジネス ローカル局のこれから「第2回エリア・カンファレンス東海北陸@名古屋」レポート<vol.4>
10JAN

地域×ビジネス ローカル局のこれから「第2回エリア・カンファレンス東海北陸@名古屋」レポート<vol.4>

編集部 2020/1/10 18:00

マルチスクリーン型放送サービスの実用化を目指す「マルチスクリーン型放送研究会(マル研)」が、「第2回エリア・カンファレンス東海北陸@名古屋」を中京テレビ放送本社1Fホールにて10月30日に開催した。

本カンファレンスは3部構成。1部では株式会社電通の若林宏保氏が、自身の行ってきたプロジェクトの事例を織り交ぜながら「プレイス・ブランディングにおける放送局の役割」をテーマに基調講演を行った。2部では、「当社は最近こんなことに取り組んでます」というテーマで、東海北陸地区放送局によるプレゼンリレーが行われ、3部では「地域×ビジネス ローカル局のこれから」を主題に株式会社野村総合研究所の山口毅氏が特別公演を行った。

Vol.3に引き続き、山口氏による特別公演の様子をレポートする。

プレイス・ブランディングにおける放送局の役割「第2回エリア・カンファレンス東海北陸@名古屋」レポート<vol.1>

ローカル局だからできる強みを生かして「第2回エリア・カンファレンス東海北陸@名古屋」レポート<vol.2>

視聴者の立場に立ち、放送局のこれからを考える「第2回エリア・カンファレンス東海北陸@名古屋」レポート<vol.3>

■日本のメディアを取り巻く環境

山口毅氏

特別公演を行う株式会社野村総合研究所の山口氏は現在、総務省や放送局との仕事もしている。ICTメディア・サービス産業コンサルティング部に所属し、地上波放送局との実証実験にも携わった経験がある。放送局の中の人間とは異なる観点から、これから地方放送局は何をすべきなのかを語った。

現状、日本の放送局は、図のような構図になっている。中央に放送業界、その周りに、放送業界に影響を与える要因が描かれている。山口氏は、この構図に関して、こう語る。

山口氏「キー局、ローカル局を含め、放送産業はすでに成熟している。そのため、限られたテレビ広告費を奪い合うために視聴率競争は激化、BS局などは撤退する動きもある。一方で、放送免許を新たに取得して参入するのは難しい業界のため、電波を使う“放送”における新規参入の脅威は少ない。左は供給者の圧力。政府からの様々な要請にこたえたり、コンテンツ制作者が放送局だけではなく、OTT事業者にも供給したりするというような状況が起きている。右側は広告枠の買い手である広告主。広告主とダイレクトに話す機会があるが、他のメディアに関する強いご関心を聞く。また、視聴者にとって、映像を見る際の手段として、様々なOTTサービスがテレビの横に並ぶようなことが起きている。他メディアの存在に広告主は揺さぶられ、その結果、データ要請などの要望が民放にかかっている」。

現状の放送市場において、総務省の数字は名目GDPで見ると成長。放送市場の売上高は増えており、そのほとんどを占めているのが地上波放送となっている。

売上高推移でいうと次の通り。

広告費に関しては、テレビ広告とインターネット広告(媒体費と広告制作費の合算)が近接しており、みずほ銀行が出している2023年の予測では下記の図の通り、差がつくと予測されている。

海外の状況では、英国、米国ではインターネット広告がテレビ広告をすでに抜いているが、双方の国とも市場環境が日本とは全く異なり、日本にそのまま当てはめることはできない。たとえば米国の場合は、有料放送前提で地上波放送を見ているという形になっている。

英国に関しても、BBCを中心に、地上波が動画配信サービスをかなり前から積極的に展開していることや、スポーツコンテンツを見るためには有料放送に入らなければならないなど日本とは状況が異なる。

山口氏、「ネット広告が増え、テレビ広告が停滞するなか、日本のキー局は、ポートフォリオの多様化を図っている。具体的には、成長領域にある会社に出資したり、そのためのファンドを作ったり、放送外事業を強化するなど、様々な取り組みをしており、結果、放送外収益の比率が上がってきている。」

(放送外収入の放送外の定義は、スポットとタイムの合計を足し合わせているため、通常でいう定義とは異なる)

この現状を踏まえ、今後、ローカルのテレビ局はどのような状況に置かれるのだろうか。人口の推移や世帯数のデータをもとに、これからテレビ局がすべきことを、参加者と考えた。

山口氏「過去から言われ続けていることだが、世帯数、人口は減少、高齢世帯の単身世帯が増えていく。生産年齢人口も減少していく。地域別で見たときにも今置かれている人口や世帯の状況は将来にわたって、緩やかにだが、大きく変化する。これを踏まえて、中長期的な事業展開を行なっていくべきと考えている。例えば、地方移住をこれまで以上に希望する人が増えており、最近だと定住せずとも、何かしら地域と関係を持って過ごしたいと感じる人が増えている。地方に対する意識は、昔と比べると高まってきている。また、退職した方が、働きたいという意思を持つアクティブシニアの存在も可能性も感じる。自分たちの培ってきたノウハウや知識などを地方で活かし、地方に移り住んで事業をしたり、ビジネスをしたりする可能性があるのではないか」。

また、地方にとってインバウンドの話も大きいのではないか、と山口氏は話す。「2018年には海外からの訪問者数は3千万人を超え、旅行消費額を見ても、4.5兆円、そのうち地方が1兆300億円ほどを占めている。そして、興味深いのは、三大都市圏だけでなく、地方を訪問する外国人観光客も増えていること。「コト消費」が増えており、スキーや温泉など地方ならではのことを楽しみたいと思っている外国人の方が増えている。この辺りをどう地方で、あるいはローカルメディアが取り組んでいくのか、を考えていかなくてはならない」。

■日本のメディア利用の現在

この他、生活者のICTメディア利用の状況について、山口氏は具体的なデータとともに説明した。

山口氏「スマートフォンの利用に関して、2014年から2018年の変化でいうと、いずれの地域も10%程度、利用率が増えている。地域ごとに若干の差はあれど、スマートフォンの利用は着実に増えている。ただ、インターネットの利用経験がない人が2~3割程度と、ほとんど変化していないというのも実情である。

そして、放送局の方々とお話をしていて議論になるのが、スマートフォンやタブレットなどの新たなメディアに小さな頃から慣れ親しんでいる人たちの、これからのメディアとの接し方に関して。居間にテレビがない家庭も増えており、若い人ほどテレビ視聴は減り、インターネットの利用時間が長いとの結果も出ている。

しかし、テレビ自体の存在感が薄れているのかというと、そうではない。年代によっても異なるが、こちらのデータでは、普段見ているメディアとして、民放テレビが一番多く、スポーツや生活はネット、経済、政治などはNHKと、視聴者は情報に応じてメディアを使い分けていることがわかる。

いずれにしても、テレビ、特に民放テレビを見ている割合が高く、テレビの存在感は大きいと感じる。また、これを強みにし、地域に住んでいる方に対して、常に必要と思われる情報を発信していくべきだと考える。何かを見るためにテレビをつけるというよりは、地域に住んでいる方の生活をサポート、常に必要な情報を提供するようなプレーヤーになっていく必要がある。」

ネットを利用する人が増える中でも、民放の歴史の長さや情報の正確性などは、視聴者に確実な存在感を示しているようだ。ネット利用の部分においては、放送・メディア事業者の取り組みを紹介しつつ、生活者の動画配信サービス利用状況についても言及した。

山口氏「NRIの調査では、10代で毎日動画配信サービスを見ている人が7割存在する。さまざまな事業者が、それも国内だけでも書ききれないくらいの動画配信サービスを展開していることが後押ししている。ただし、無料サービスの利用が中心で、有料の配信市場は限定的なのが現状である。

もともと無料の地上波放送を視聴していた人たちが、お金をかけてまでは視聴しようとはせず、事業者がコストをかけて獲得した人も、加入してもすぐに辞めてしまうなど、悪循環になっている。そのため、有料の動画配信サービスについては、お金の取り方や、従来からコンテンツに対してお金を払わずに利用してこなかった人たちに、どうアプローチしていくべきなのか、を議論する必要がある」。

■海外の事例から見るこれからのメディアのあり方

ここまで、日本の放送局を取り巻く環境や日本が置かれている社会の状況などに関して見てきたが、海外ではどんな事例があるのだろうか。まずは先ほども話題に出た米国の事例に関して語った。

山口氏「米国の地上波の視聴方法は、有料プラットフォームサービスを経由して視聴することが一般的である。また、ネット経由の同時配信サービスは、これら有料サービスに加入している人に対して、無償で提供されている。それに加えて、地上波ネットワーク系の事業者が、自ら月額定額制の配信サービスに力を入れている。また、ハリウッド系などのコンテンツを保有する企業が、自ら配信サービスを提供することも予定されている。

その中で重要になるのが、顧客IDをいかに取得していくか。有料プラットフォームサービスへの加入者が減っているので、自ら基盤を作り、顧客IDを取得し、サービスを展開するという状況になっている。先日発表があったが、HBOマックスにジブリ作品が独占提供されるなど、顧客の獲得や維持のための、サービスの差別化も同時に進められている。

有料プラットフォームサービスの加入者減少と、顧客IDや顧客情報を取得し続けるGAFA・Netflix等への対抗のため、顧客IDを取得する地上波ネットワーク。日本でも同様の議論が必要ではないか」。

韓国でも、サブスクリプション型のサービスが普及しており、海外のプラットフォームも徐々に存在感を示し始めている。

山口氏、「韓国は、サブスクリプション型のサービスは普及しており、Netflixが一大勢力となっている。また、無料サービスでは日本と同様、YouTubeもかなり見られている。中でも、韓国の370万人が登録している有料サービスとして、POOQというものがある。これは、韓国の地上波局3社が協働し、それぞれの局の見逃し配信や同時配信、アーカイブを提供していた。そして2019年9月からは、POOQをさらに進化させたwavveというサービスが開始されている。これは、先ほどのPOOQに月額定額制の通信キャリアのサービスが統合してできたもの。日本でいうと、TVer、Hulu、Paravi、dTVなどの動画配信サービスが全て統合したイメージ。チャンネルとしては、地上波の同時配信とCSの同時配信を含めて、80チャンネルが展開されている。

そして2023年までに約500億円の売り上げを目標とし、それまでに約100億円をオリジナルコンテンツに費やす予定。独占展開するコンテンツも地上波と連携して展開する。9月にサービスが開始されてから、アジア向けにも配信を始めており、グローバルプラットフォームを作りあげようとしている。さらに、wavveを運用する会社のひとつであるSKテレコムは、5Gサービスを始めているのもポイント。5Gサービスとのバンドルに加え、AIやVRを使い、スポーツ観戦を360度映像で配信したり、AIを使って視聴履歴からキュレーションをして動画を短くして配信するサービスを行うなど、他社にはないIT技術を駆使した使い勝手の良いサービスを目指している。」

山口氏は、これらを踏まえ、これから直面していく問題に対して、ローカル局はどう考え、実行していくべきなのかを語った。

山口氏「インターネットが発達した時代において、エリアの制約はすでにないといってよい。そうした時に、地域エリアの外に出るのか、それとも深く地域に根ざしてビジネスを展開していくのか、やり方は様々あると思うが、それをどう実現するかを丁寧に考えていく必要がある」。

山口氏は、これまでの話を踏まえ、ローカル局のビジネスにはどのような方向性があるのかを語った。

山口氏「ローカル局は、短期的に取り組むべきことと、中長期的に取り組むべきことの精査が大切。先に述べたような、人口や世帯の話は緩やかに変化していくものであり、中長期的な観点と、逆に短期的な視点で取り組むべきことは何なのか、を戦略的に考える必要がある。短期的に取り組むべきことは、体力があるいまだからこそ、業務の効率化や視聴者の実態を正確に把握し、説明できるようにするべき。

中長期的に考えることとしては、経営の効率化、例えば設備の共有や根本的な経営の効率化などもしていくべき。経営の効率化の観点で言うと、世界の主要な放送メディア企業の売上高、時価総額、営業利益を並べたデータがある。

NRIの独自分析によれば、日本以外の世界の主要放送メディア企業の平均営業利益率をみると約17%、日本は約6%で売り上げの規模に対して、利益額の幅が少なく、費用をいかに削減していくか、放送外収入などをどう増やしていくか、中長期的に議論していく必要がある。あとは、外部の企業とどうタッグを組み、自分たちだけではできないことをどう進めていくべきなのか、を考える必要がある。自社でできないことは、品質の問題もあるので慎重にすべきだが、外部の会社と協業して新しいものを作るという方向に振り切って行ったらいいのではないかと思う」など、外部との戦略的な協業の重要性を指摘する一方で、ローカルだからこそできる、あるいは地域の人に信頼されているローカル局だからこそできる、リアルビジネスに関しての山口氏の考えを述べ、今回のカンファレンスを締めくくった。

最後に、山口氏は「メディア接点だけではなくて、リアル接点というのも今後は重要になってくると思う。今まではコンテンツを中心に、いかにコンテンツを視聴者に届けるかが重要だった。しかしこれからは、視聴者の体験を中心に考えるサービスやコンテンツが必要なのではないかと考えている。2部でも地域のスポーツの配信の話があったように、テレビで地域スポーツを視聴者がみて、興味を持った場合、その情報を取得する機会を提供し、さらにその会場に誘導できるような仕組みを作るとか。あるいは、知らない地域をテレビで見たときに、その地域に行ってみようと思ったり、その地域から物産を買ってみようと思ったりする。そういう繋がりをローカル局がつくっていくことが、今後のローカル局の姿なのではないか。これが広告主に繋がり、放送外収入として得られるようになれば、地域のビジネスとして成り立っていくのではないかと考えている」。

「第2回エリア・カンファレンス東海北陸@名古屋」はこれを持って終了となった。

PAGE TOP