■海外の事例から見るこれからのメディアのあり方
ここまで、日本の放送局を取り巻く環境や日本が置かれている社会の状況などに関して見てきたが、海外ではどんな事例があるのだろうか。まずは先ほども話題に出た米国の事例に関して語った。
山口氏「米国の地上波の視聴方法は、有料プラットフォームサービスを経由して視聴することが一般的である。また、ネット経由の同時配信サービスは、これら有料サービスに加入している人に対して、無償で提供されている。それに加えて、地上波ネットワーク系の事業者が、自ら月額定額制の配信サービスに力を入れている。また、ハリウッド系などのコンテンツを保有する企業が、自ら配信サービスを提供することも予定されている。
その中で重要になるのが、顧客IDをいかに取得していくか。有料プラットフォームサービスへの加入者が減っているので、自ら基盤を作り、顧客IDを取得し、サービスを展開するという状況になっている。先日発表があったが、HBOマックスにジブリ作品が独占提供されるなど、顧客の獲得や維持のための、サービスの差別化も同時に進められている。
有料プラットフォームサービスの加入者減少と、顧客IDや顧客情報を取得し続けるGAFA・Netflix等への対抗のため、顧客IDを取得する地上波ネットワーク。日本でも同様の議論が必要ではないか」。
韓国でも、サブスクリプション型のサービスが普及しており、海外のプラットフォームも徐々に存在感を示し始めている。
山口氏、「韓国は、サブスクリプション型のサービスは普及しており、Netflixが一大勢力となっている。また、無料サービスでは日本と同様、YouTubeもかなり見られている。中でも、韓国の370万人が登録している有料サービスとして、POOQというものがある。これは、韓国の地上波局3社が協働し、それぞれの局の見逃し配信や同時配信、アーカイブを提供していた。そして2019年9月からは、POOQをさらに進化させたwavveというサービスが開始されている。これは、先ほどのPOOQに月額定額制の通信キャリアのサービスが統合してできたもの。日本でいうと、TVer、Hulu、Paravi、dTVなどの動画配信サービスが全て統合したイメージ。チャンネルとしては、地上波の同時配信とCSの同時配信を含めて、80チャンネルが展開されている。
そして2023年までに約500億円の売り上げを目標とし、それまでに約100億円をオリジナルコンテンツに費やす予定。独占展開するコンテンツも地上波と連携して展開する。9月にサービスが開始されてから、アジア向けにも配信を始めており、グローバルプラットフォームを作りあげようとしている。さらに、wavveを運用する会社のひとつであるSKテレコムは、5Gサービスを始めているのもポイント。5Gサービスとのバンドルに加え、AIやVRを使い、スポーツ観戦を360度映像で配信したり、AIを使って視聴履歴からキュレーションをして動画を短くして配信するサービスを行うなど、他社にはないIT技術を駆使した使い勝手の良いサービスを目指している。」
山口氏は、これらを踏まえ、これから直面していく問題に対して、ローカル局はどう考え、実行していくべきなのかを語った。
山口氏「インターネットが発達した時代において、エリアの制約はすでにないといってよい。そうした時に、地域エリアの外に出るのか、それとも深く地域に根ざしてビジネスを展開していくのか、やり方は様々あると思うが、それをどう実現するかを丁寧に考えていく必要がある」。
山口氏は、これまでの話を踏まえ、ローカル局のビジネスにはどのような方向性があるのかを語った。
山口氏「ローカル局は、短期的に取り組むべきことと、中長期的に取り組むべきことの精査が大切。先に述べたような、人口や世帯の話は緩やかに変化していくものであり、中長期的な観点と、逆に短期的な視点で取り組むべきことは何なのか、を戦略的に考える必要がある。短期的に取り組むべきことは、体力があるいまだからこそ、業務の効率化や視聴者の実態を正確に把握し、説明できるようにするべき。
中長期的に考えることとしては、経営の効率化、例えば設備の共有や根本的な経営の効率化などもしていくべき。経営の効率化の観点で言うと、世界の主要な放送メディア企業の売上高、時価総額、営業利益を並べたデータがある。
NRIの独自分析によれば、日本以外の世界の主要放送メディア企業の平均営業利益率をみると約17%、日本は約6%で売り上げの規模に対して、利益額の幅が少なく、費用をいかに削減していくか、放送外収入などをどう増やしていくか、中長期的に議論していく必要がある。あとは、外部の企業とどうタッグを組み、自分たちだけではできないことをどう進めていくべきなのか、を考える必要がある。自社でできないことは、品質の問題もあるので慎重にすべきだが、外部の会社と協業して新しいものを作るという方向に振り切って行ったらいいのではないかと思う」など、外部との戦略的な協業の重要性を指摘する一方で、ローカルだからこそできる、あるいは地域の人に信頼されているローカル局だからこそできる、リアルビジネスに関しての山口氏の考えを述べ、今回のカンファレンスを締めくくった。
最後に、山口氏は「メディア接点だけではなくて、リアル接点というのも今後は重要になってくると思う。今まではコンテンツを中心に、いかにコンテンツを視聴者に届けるかが重要だった。しかしこれからは、視聴者の体験を中心に考えるサービスやコンテンツが必要なのではないかと考えている。2部でも地域のスポーツの配信の話があったように、テレビで地域スポーツを視聴者がみて、興味を持った場合、その情報を取得する機会を提供し、さらにその会場に誘導できるような仕組みを作るとか。あるいは、知らない地域をテレビで見たときに、その地域に行ってみようと思ったり、その地域から物産を買ってみようと思ったりする。そういう繋がりをローカル局がつくっていくことが、今後のローカル局の姿なのではないか。これが広告主に繋がり、放送外収入として得られるようになれば、地域のビジネスとして成り立っていくのではないかと考えている」。
「第2回エリア・カンファレンス東海北陸@名古屋」はこれを持って終了となった。