コロナ禍で生活者のメディア接触はどう変わった? 【MEDIA NEW NORMAL】キーノート(前編)
編集部
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所によるWEBセミナー「MEDIA NEW NORMAL メディアの新常態を考える」が、2020年7月14日(火)に開催された。
本稿では同研究所グループマネージャー兼主席研究員の加藤 薫氏、同上席研究員の新美妙子氏、小林舞花氏によるキーノートの模様を前後編にわたってレポート。コロナ禍における生活者のメディア接触の変化について解説する。
■コロナ禍もメディア接触時間は横ばい。デジタルシフトは過半数
新型コロナウイルス感染拡大にともない、日本政府は今年4月16日から5月25日にかけて緊急事態を宣言。不要不急の外出自粛が呼びかけられ、多くの人々が自宅に閉じこもっての生活を余儀なくされた。
同研究所では毎年1〜2月に「メディア定点調査」を実施しているが、加えて今年は緊急事態宣言解除後の5月末に「緊急事態宣言解除後のメディア接触調査」を実施。メディア環境で起きている2つの変化(元々の潮流である変化の加速と、コロナ禍によってこの数カ月で生まれた変化)から生活者のメディア行動や意識の実態を分析した。
コロナ禍でメディア接触時間は変化したのか。加藤氏が解説した。
加藤氏:外出自粛期間前である1月末のメディア接触時間を100%とすると、自粛期間明けの5月末は99.2%と、ほぼ横ばい。期間中の4〜5月にかけて接触時間が伸びたと言われているが、生じた変化は一時的なものであったととらえている。
つづいて新美氏がメディア定点調査からメディア接触時間の推移と、その内訳について解説した。
新美氏:メディア総接触時間の推移を見ると、2020年は1日あたり平均411.7分と過去最高。昨年比0.1分増と、高止まりの状況だ。うち、デジタルメディアが占める割合は51.6%。2018年から全体の半数前後で推移していたが、今年は一歩抜けた感がある。デジタルメディアの内、携帯電話・スマートフォンの利用時間もは初めて120分台に達した。
■デジタル中心の若年層、テレビ中心の高年層
続いて新美氏は、世代ごとにそれぞれ「特に接触の多い」メディアの割合を紹介。グラフではその差がはっきりと見て取れた。
新美氏:平均200分を超えて接触されたメディアに焦点をあてると、50〜60代ではテレビの占める割合が大きいが、若年層においては約7割がデジタルメディア。さらに性別で見ると女性は携帯電話・スマートフォンの利用が多く、男性はタブレット・パソコンの利用が多いことがわかる。
■「気に入ったコンテンツは何度でも繰り返し見たい」
新美氏は、生活者のメディア意識の変化にも言及した。
新美氏:昨年から今年にかけて最も変化したメディア意識は「テレビ番組や動画など気に入ったコンテンツは何度でも繰り返し見たい」だった。昨年より13.9ポイント上昇し、61.8%に達した。いまは「繰り返し何度でも楽しむ」ことを前提としたコンテンツ作りが求められている。
「繰り返し見る」ことを可能にしているのは多様なメディアサービスであると、新美氏は、メディアサービスごとの利用実態を紹介。
新美氏:2016年からの時系列で見ると「動画共有・配信サイト」の割合がもっとも高く、全体の8割近くが利用している。「TVer」は2割に迫り、「radiko」は今年はじめて3割を超えた。
定額制サービス(動画配信・音楽配信・電子雑誌)の利用の上昇は、コロナ前から起きていた変化であると指摘。
新美氏:2016年に1割程度だった定額サービスの利用率は、2020年、動画配信が約4倍、音楽配信・電子雑誌が3倍前後に成長した。とくに2019年から2020年にかけて動画配信が約9ポイント、音楽は12ポイント以上と大きく伸びた。コロナ前から起きていた定額制サービスの伸張は、コロナ禍によって更に加速した。
メディア環境の潮流であるメディア総接触時間は400分台で推移し、外出自粛期間前後でのメディア接触もほぼ変わらなかった。メディア総接触時間に占めるデジタルメディアのシェアは過半数と、デジタルシフトが加速していることがわかった。
生活者のコンテンツニーズも「繰り返し楽しみたい」という欲求が高まっている。繰り返し視聴に適したオンデマンド型・定額型サービスの大幅な伸張はそれを明確に裏付けているといえよう。
後編では、コロナ禍における生活者のメディア意識がどのように変化したかを明らかにしつつ、コロナ禍によって生まれたメディアの新常態「メディアニューノーマル」において生活者のメディア行動と意識の変化と、メディアや情報の送り手が届けるコミュニケーションのポイントについて解説する。