映像メディアの価値を映す Screens

スペイン最大級のドラマイベント「イベルセリエス2022」が9月27日から30日までマドリード市内の会場マタデロ・マドリードで開催された。日本テレビをはじめとした日本のメディア企業も数社参加し、筆者も現地取材した。本格的な国際マーケットイベントを新たに立ち上げ、スペイン語圏のドラマ作品の国際的な流通を促進する背景には約2060億円を投資したスペイン政府のコンテンツ政策が色濃く影響している。前編に続き、官民一体となって市場拡大を狙うスペインの映像コンテンツ市場の今を追った。

スペイン最大級の国際ドラマイベントが象徴する市場ニーズ～イベルセリエス現地取材レポート①

■「ヨーロッパの映像産業ハブ国スペイン」を掲げるプロジェクト

前編で伝えた通り、マドリード市内で9月27日から30日まで4日間にわたり開催された「スペインドラマイベント：イベルセリエス（正式名称：Iberseries & Platino Industria）」は今年で2回目を数えた新しい業界イベントである。スペインのオーディオビジュアル団体組織EGEDAと映像制作／配給を手掛けるスペイン最大手Secuoyaグループ傘下のセクオヤ財団が企画・主催し、スペイン貿易投資庁（ICEX）をはじめマドリード州、マドリード市やフィルムコミッションなどが後援する。

35か国から2000人以上が参加し、アジア地域からは唯一の参加国として、日本テレビ、東北新社、TBSスパークル、Huluジャパンの日本の４社が駐日スペイン大使館経済商務部の協力を得て、参加する機会も作られた。

イベルセリエスはスペイン政府肝煎りのイベントであり、スペイン産業全体で「Made in Spain」の映像コンテンツの市場拡大を狙う一体感もあった。ドラマ分野を中心に国際共同開発制作を促進することも目的の1つにあり、スペイン語圏のラテン市場のみならず、アジアやグローバル市場にも目を向けている。

前提にあるのが、スペイン政府が掲げる「ヨーロッパの映像産業ハブ国スペイン」プロジェクトだ。2021年～2025年期に合計16億ユーロ（約2060億円）を映像業界に投入し、2025年までにスペイン発の映像コンテンツ制作生産量を30％増やすことを目標の1つに挙げている。

この施策によって、オーディオビジュアル分野における世界的な投資プラットフォームとグローバルなビジネス環境を作り、欧州で２番目に大きいコンテンツ輸出をさらに拡大させ、秀逸な人材も集まるハブ化を図る。イベルセリエスはこれらを具現化したものになる。

■スペインにとって日本は戦略的な市場

イベルセリエスを後援し、スペイン政府機関のICEXで30年以上にわたりオーディオビジュアル部門に携わるエキスパートのファビア・ブエナベントゥラ氏に現地で話を聞いた。

「我々は、短期的な目標として2025年までの3年以内に、映像コンテンツ制作の生産量を30％増やすことを掲げているわけですが、目標達成の鍵にあるのが、スペインのオーディオビジュアル全体のイメージアップです。だからこそ、海外からの投資や海外プロデューサーに可能性を感じてもらうことが大事なのです」

日本に対しては「スペインにとって、日本は戦略的な市場です。スペインと日本の文化は大きく異なりますが、互いの強みを理解し、努力することで、良好な関係を築くことができると信じています。スペインのオーディオビジュアル企業に興味を持ってくれる日本企業との関係をさらに強化したいと考えています」と前向きに答えた。

ICEXはこうした海外企業との連携強化を図るため、税優遇や撮影地のインセンティブなどの情報提供を機能する組織を一本化し、バイリンガル人材が朝8時から夜8時まで12時間対応する相談窓口を設けた。「日本をはじめ海外企業にとって、スペインと仕事をしやすいようにすることも我々の役目にあります」とブエナベントゥラ氏は話す。

■スペインのドラマは質も良さも野望も倍増

コンテンツ市場は今、変革期にあり、グローバル動画配信プラットフォームの躍進を背景に多様な言語や文化のコンテンツ流通が活発化している。

ブエナベントゥラ氏もこれに同意し、「スペインのコンテンツ産業も少しずつ変化しています。一方で、まだそうとも思えない部分もあります。海外の動画配信プラットフォームがスペインにも進出していますが、働き方からビジネス手法まで我々とは異なるやり方を持ち、スペインに適応する必要もあります。そして、我々も順応性と柔軟性、そして迅速性を備えていなければなりません。3年間という短い期間で目標を達成させるため、これまでの問題を改善した上で、スペインと日本、スペインと様々な国と互いにウィンウィンの関係性を築くことができると信じています」と語った。

スペイン政府のプロジェクトは、スペインの民間企業や独立系クリエイターにとっても好機と捉えているようだ。会場で「ここ数年、スペインのドラマの質も良さも野望も倍増している」といった声が聞かれたのも印象的だった。勢いを自覚したものであり、共有することによって、制作への投資と新たなクリエイティブ活動に繋げていく流れを加速していこうという方向性が至るところで確認できた。そして、来年もイベルセリエスの開催が続行されることが発表された。スペインの映像コンテンツビジネス振興の攻めの体制が続いていく。