テレビコンテンツをSNSデータ✕AIで切り拓く「視聴質」の進化系 〜ビデオリサーチ「Buzzビューーン!」担当者インタビュー
編集部
左から)株式会社ビデオリサーチ 今井佳菜氏、茅野恭平氏、白岩佳子氏
株式会社ビデオリサーチでは、従来の視聴率に加えたテレビ番組のコンテンツ評価基準として、興味の深さや、番組の個性を示す「視聴質」を提唱している。その一つとして同社が運営する「Buzzビューーン!」では、AIを活用してTwitter(現・X)※のデータを解析、テレビ番組に対する視聴者の反応を網羅的に表現する。
今回は「Buzzビューーン!」運営メンバーである、株式会社ビデオリサーチ テレビ・動画事業ユニット テレビ事業グループ リーダー/プランナーの茅野恭平氏、白岩佳子氏、同アシスタントプランナーの今井佳菜氏にインタビュー。開発の背景から、実際の運用を通じて見えてきた特徴的な事例、そして今後への展望を伺う。
※編注:Twitterは2023年7月24日に名称を「X」へ変更しましたが、本記事では便宜上、旧名称であるTwitterに統一して表記します。
■「感想ツイート=番組への積極的な視聴」テレビ・配信両方にまたがる「視聴質」を可視化
──今回の取り組みに至った背景についてお聞かせください。
茅野氏:これまでビデオリサーチでは、共視聴や視聴者構成割合、拡がり(リーチ)や視聴の深さといった、視聴率データからわかることに加え、「コンテンツカルテ」と呼ばれる番組評価アンケートなどからも、「視聴質」の可視化に取り組んできました。しかし、ここ数年におけるメディア環境の変化を踏まえ、テレビ放送だけでなく、動画配信も含めた形で「視聴質」を把握できる仕組みの必要性を感じていました。
そこで注目したのが、Twitterです。番組コンテンツに関してツイートするという行為はそれ自体が高い関心や参加意識からくるものであり、ツイートの話題量やその中身を解析することによって、番組に対する興味の深さやその番組の個性などを「量」と「質」の両面で可視化できるのではないかと考えました。
■番組に対する盛り上がり推移、具体的な興味対象・感触まで網羅して確認可能
──「Buzzビューーン!」とはどのようなサービスなのでしょうか?
茅野氏:「Buzzビューーン!」は、Twitterのデータを利用して番組コンテンツに関するバズを自動解析し、視聴率とは異なる視点で「視聴質」を可視化するサービスです。関東地区の民放キー5局とNHK総合で6〜9時、19〜24時に放送される約350番組を対象に、番組の正式名称のほか、番組の公式Twitterアカウントが設定する略称をキーワードとして、放送日に限らずデータを取得、解析します。
ちなみに、取得対象となっていない放送局様やラジオ局様、動画配信プラットフォーマー様の各自社コンテンツについても、ご要望いただければ別途取得対応は可能でございます。
今井氏:取得したTwitterデータは、番組コンテンツに対する話題の量のほか、話題となった部分が視聴者にどう受け止められていたか、「量」と「質」の両面で解析します。解析結果は毎日10時に更新され、「Buzzビューーン!」のダッシュボード画面上で確認が可能です。
──解析結果はどのような形式で確認できますか?
今井氏:解析結果は、各局横並びのタイムテーブル形式で確認できます。関東地区の視聴率データも併せて表示されるほか、話題の量や番組ごとの立ち位置、他番組との評価部分の違いなど、番組同士の傾向を客観的に比較することができます
■放送時間外のバズ要素も網羅。具体的な視聴者プロフィールをAI分析で精密判定
──番組ごとに参照できる具体的な情報について、詳しくお聞かせください。
今井氏:数値面では、放送日の5〜29時にかけてのツイート数、SOB(Share of Buzz:1日あたりの日本の全ツイートにおける当該番組ツイートの占有率)、番組に対する反響のポジ・ネガ比率が参照できます。
キーワード面では、番組名と一緒に多くツイートされたワードを「共起ワード」として出現回数順に最大100件表示するほか、「タイミング別共起ワード」として、放送前1時間、放送中、放送後1時間における共起ワードの推移を表示します。これにより、放送前における視聴者の期待要素から、放送中の盛り上がりポイント、放送後に抱かれた余韻と次回への期待要素までを網羅的に確認することが可能です。
さらに「Buzzエッセンス」という項目では、「面白かった」「来週も見たい」など、「共起ワード」として挙がった興味対象に向けた具体的な感想を表示するほか、具体的に番組へ言及したツイートからとくに代表性の高いものをAIで分析し、「代表ツイート」として最大30件表示します。これらの機能により、番組に対する定量的な盛り上がりのほか、番組に対する細かな反応までを見ることができます。
──特にこれは「Buzzビューーン!」ならでは、という機能があればお聞かせください。
茅野氏:まずは、同ジャンルや全番組との比較ができ、当該コンテンツの話題量を『俯瞰的』にとらえることができるという点があります。また、放送時間や放送日以外のツイートも1時間単位で追いかけることができますし、テレビ以外にも見逃し配信やスピンオフなど、番組に関連するあらゆるコンテンツとその盛り上がりを捕捉可能です。
今井氏:ツイート数はヒートマップ形式で表示され、放送当日はもちろん、それ以外のタイミングで番組公式Twitterアカウントで展開されたキャンペーンが起点となって生まれた盛り上がりなども確認することができます。
茅野氏:Twitterユーザーが自分で設定したプロフィールは実際の情報を反映していないケースがほとんどですが、「Buzzビューーン!」では各アカウントが過去に行ったツイートの文体をもとにAIで推定し、どんな人物が発言したかを判定します。
今井氏:この解析によって、男女ごとに10歳区切りで投稿者層を定義できるほか、「アニメ好き」「ゲーム好き」「バラエティ好き」など、視聴者の具体的な趣味嗜好も推定可能です。これにより、番組がどのような層に刺さっているかも確認することができます。
■放送時間外のバズが番組視聴に回帰。ツイートから見える「盛り上がりのスパイラル」
──これまで「Buzzビューーン!」を通じてわかった、特徴的な事例があればお聞かせください。
今井氏:今年初夏に放送された大規模音楽特番の事例では、放送当日朝、番組公式Twitterで出演アーティストの限定ボイスをプレゼントする引用リツイート企画が行われ、告知からわずか1時間で1万件を超えるツイートが殺到しました。さらに放送中はその3倍以上のツイートがあり、放送前キャンペーンによるバズの創出が放送中の盛り上がりにも寄与している様子が見られました。
白岩氏:同時期に放送された連続ドラマの事例では、番組公式Twitterが劇中のシーンを切り抜き動画でツイートし、そのタイミングで放送日以外にも視聴者の盛り上がりが生まれていました。このほか、配信限定スピンオフドラマの公開や、番組の“主題歌”発表など、SNSでのバズを狙った番組側の施策が積極的に行われており、それぞれがしっかりとファン層に刺さっている様子が見られました。
このドラマでは人気俳優が実在の人気芸人を“本人役”として演じた点が話題となりましたが、ドラマを見た芸能人が自身のラジオ番組で言及したり、出演俳優をゲストに招いたりした際にも大きな盛り上がりが見られました。番組公式のキャンペーン施策に加え、その熱量が拡散することで生まれたもう一つの盛り上がりが加わり、「バズの山」の“幅”が広がる様子がデータの面でも確認できた事例です。
今井氏:ツイートが盛り上がる“山”のタイミングについて、放送当日はもちろんですが、見逃し配信やスピンオフ配信のタイミングとも非常に高い相関があることもわかりました。これは同じくネットを軸とするTwitterならでは、とも言えそうです。
茅野氏:番組に関するツイートが上がり、それを見て配信を見るという流れもあるように感じました。これについては今後さらに精査していきますが、特に若年層においてはTwitterやネットの話題から放送後にその番組コンテンツを認知して視聴するという事が珍しくないと思います。そういった面からもTwitterでの話題量が多いという事は、若年層の番組コンテンツに触れる機会を増やす事に繋がっている可能性があるように思います。
■番組魅力の時系列スコア化、番組要素から“バズ見込み”予測… 「Buzzビューーン!」が描く「視聴質」の進化系
──SNSにおけるバズの形態は日々変化していますが、「Buzzビューーン!」では今後どのようなデータを見ることができるでしょうか。現在の取り組みや展望をお聞かせください。
茅野氏:番組に対する具体的な感想や、放送前後の期待や評価、関連性の高いトピックといった質的な部分をAIで解析し、「感動」「笑える」「見ごたえがある」など、番組が持つ魅力要素を10段階評価でスコア化し、時系列で推移を確認できるようにする取り組みを実験的に進めています。
盛り上がりのペースや内容は必ずしも一定ではなく、状況によって変化する場合があります。例えば連続ドラマの場合など、物語がクライマックスへ向かっていくにつれて期待や感動の波が大きくなっていくことも珍しくありません。このように、視聴者の受け止め方や感情面の変化も「視聴質」を表す要素として可視化したいと考えています。
また、このAIの取り組みでは、取得したツイートを読み込ませる事で即座にその放送回で話題になった人や出来事、コーナー・企画についてもまとめることが可能です。これにより、番組制作の方々に早いタイミングでの視聴者の受け止められ方を感じてもらうことができると思います。
白岩氏:「女性20代ではこのような評価だが、女性30代ではこのような評価」といった、性年代や趣味嗜好など、各視聴者層ごとの評価の違いを解析結果に反映する実験も行っています。データが揃えば、逆のアプローチとして、出演者、放送時間帯、番組カテゴリをもとに「このような層に対して、このような反響が見込めるだろう」といった“バズ予測”もできるかもしれません。
──放送局や広告主のみなさまに向けたメッセージをお願いいたします。
茅野氏:放送局のみなさまには、熱量の高いファン層や“勝ちパターン”の把握など、番組が持つ個性や強みを確認できるツールとして「Buzzビューーン!」がお役に立てると思います。
昨今、若年層の取り込みが大きな焦点となっていますが、今回挙げた事例においては、いずれも若年層と番組の親和性が高いと考えられます。番組全体はもちろん、企画やコーナー単位での反響についても「量」と「質」の両方から確認できますので、番組制作やSNS展開におけるPDCA、若年層へのコミュニケーション課題の解決にぜひご活用いただければと思います。
また、別途取得での対応にはなりますが、もともとコアファンの多いラジオ番組についても、Twitterでのコミュミケーション効果の確認や戦略立案の一助になり得ると考えておりますので、テレビ放送・動画コンテンツに限らずご活用いただけると思います。
広告主や広告会社のみなさまにとっても、視聴率とはまた違った切り口で、番組提供やコラボ、タイアップの選定材料としてご活用いただけるかと思います。実際に「Buzzビューーン!」を触ってお試しいただけるトライアル利用も可能ですのでご興味をお持ちいただけましたら、ビデオリサーチの営業担当者もしくは弊社窓口までお気軽にご連絡ください。