Amazon・Netflix広告参入後のAVOD新潮流を考える 〜Inter BEE 2025レポート
ライター 天谷窓大
左から日テレ・武井氏、AbemaTV・大久保氏、TVer・廣田氏、奥律哉氏、NEC深田氏
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2025」を2025年11月19日から21日までの3日間、幕張メッセで開催。今年の来場者数は昨年を上回る33,853名を記録した。
本記事では、11月21日に行われたINTER BEE FORUM 特別講演「Amazon・Netflixの広告参入でAVOD新潮流を考える90分」の模様をレポートする。
Amazon Prime VideoとNetflixが広告付きプランを開始し、市場が大きく動く中、本講演では日本のAVOD(広告付き動画配信)市場を牽引する日本テレビ、TVer、ABEMA(AbemaTV)のキーマンが集結。各社の戦略と未来像が語られた。
パネリストは、メディアビジョンラボ代表の奥 律哉氏、日本テレビ放送網株式会社 営業局営業戦略センター アドリーチマックス部 部次長の武井裕亮氏、株式会社TVer 広告事業本部 マーケティングソリューション部 Senior Account Executiveの廣田一章 氏、株式会社AbemaTV ビジネスディベロップメント本部 プロダクト部門 統括の大久保晶平氏。
モデレーターは日本電気株式会社 PBU メディア統括部 MEグループ シニアプロフェッショナルの深田航志氏が務めた。
■テレビの視聴はどう変わったか。データが示す現在地
過去にビデオリサーチやインテージでメディア領域に携わった経歴を持つモデレーターの深田氏は、東芝のテレビ「REGZA」全国約440万台の視聴データを基に、テレビデバイスの使われ方の変化を提示した。
2017年からの時系列データでは、地上波のリアルタイム視聴の割合が年々減少する一方、YouTubeや、TVer・ABEMAなどが含まれるVODサービスの視聴割合が顕著に増加。特に20~34歳の若年層ではその傾向が強いという。
「テレビデバイスの利用時間の半数以上が『Fire TV Stick』などのHDMI経由で接続された外部機器や、内蔵アプリを通じたインターネットコンテンツの視聴に充てられている」と深田氏。
「従来型の録画再生も減少傾向にあり、テレビというスクリーンにおける可処分時間の奪い合いが、放送波だけでなくIP経由のサービスも含めて激化している」と、現状を語った。
このデータに対し、メディアビジョンラボ・奥氏も、自身が扱う関東地区のパネルデータを示し、同様の傾向が見られると解説。コネクテッドTVの普及率が7割強に達し、今後も伸びしろがある中で、「テレビのスクリーンと一体に放送信号といわれるものと、IPストリームでの動画というものの中で、様々な視聴選択肢がユーザーの中にある」と述べ、視聴環境の複雑化が不可逆な流れであることを確認した。
■日テレ・AbemaTV・TVer、各社の戦略と現在地
この市場環境の変化を踏まえ、各社の責任者がそれぞれの戦略と現在地を語った。
日本テレビ・武井氏は、テレビ広告のDXを目指す「Ad Reach MAX」プロジェクトと、それを具現化する運用型広告プラットフォーム「スグリー」を紹介。報道記者から営業局へ異動した際、スポットCMの商習慣とデジタル広告の違いに大きな伸びしろを感じたことがプロジェクト発足のきっかけだと語り、「もっとテレビを使いやすく便利にしていきたい」というコンセプトを説明した。
スグリーでは、期間やターゲット、予算などを入力すると機械的に見積もりが算出される「インプレッション予約」と、よりプログラマティックな「自動入札オークション」の2種類の商品を提供。特にオークション型では、大谷翔平選手がテレビに映った直後10分間だけ入札を行う「モーメントターゲティング」といった機動的な運用も可能になっており、従来のテレビ広告の常識を覆す取り組みとなっているという。
この試みに対し奥氏は、「リードタイムがない」「毎日(枠の最適化を)やり直す」といった点に触れ、そのフレキシビリティが「新しい事業モデルだ」と高く評価した。
続いてAbemaTV・大久保氏は、「新しい未来のテレビを作ろう」というテーマのもと、「良質な広告体験」を追求する姿勢を強調した。
月間ユーザー約3000万人、その6割が10~30代というABEMAでは、「接触リーチの有無だけでは広告効果として差が出てきてしまっている」という問題意識から、プロコンテンツのみでの配信や、広告素材の100%事前審査といった品質管理を徹底しているという。
大久保氏はABEMAにおけるコンテンツと広告の連携について言及し、麻雀プロリーグ「M-リーグ」のスポンサーCMにリーグ所属選手を起用した事例を紹介。このCMは広告認知や利用意向が通常より大幅にリフトアップしたといい、「広告でありながら、競技を見ようと思ってもらえる環境を作れた」と、その効果を語った。
またABEMAでは、スポーツ中継などCMを入れづらいライブコンテンツに対して、視聴を阻害しない「スプリットスクリーン」広告を導入。これもユーザーの不快度が低く、高い広告効果を上げていると説明した。
大久保氏の説明について、奥氏は「放送法の制約がある地上波では難しい表現が実現できている」とコメント。「配信から入るこの広告モデルとして、先に行っているなという感じがする」と評した。
TVerの廣田一章氏は、2025年10月にサービス開始10周年を迎えたことを報告。MAU(月間アクティブユーザー数)が4120万人、月間総再生数が5.4億回を突破するなど事業が好調という。
2024年のパリ五輪でユーザーが急増した後もその水準を維持しているといい、「プラットフォームとして定着した」と廣田氏。TVer広告の特徴として、放送局の高品質なコンテンツによる「ブランドセーフティの高さ」と、目的視聴が多いことによる「90%以上」という極めて高い「完視聴率」を挙げた。
また、CTVでの視聴がここ5年で約7倍に急増しているとし、テレビリモコンに「TVerダイレクトボタン」を搭載する施策が奏功していると分析。広告売上も前年比221%と急成長しており、特に広告主自身が運用できる「セルフサーブ」機能の利用が、地方のローカルクライアントを中心に拡大していると述べた。
これに対して奥氏は、従来のテレビ広告を支えてきた大手企業だけでなく、「クライアントの数が増えていくというのはすごくいい話」と、市場の裾野の広がりを歓迎した。
■運用型テレビ広告の舞台裏とインタラクティブの未来
後半のパネルディスカッションでは、各社の取り組みがさらに深掘りされた。
深田氏から「スグリー」の反響について問われた日テレ・武井氏は、「全部想定通りだったと言いたいところだが、実際は全部想定外だった」とコメント。「地上波広告のリデザインという、社内に誰も経験者がいない中での立ち上げについて、なかなか周りと苦労を分かち合いづらいところがあった」と振り返った。
そんな中、挑戦的な商品だと考えていた「自動入札オークション」が、「インプレッション予約」を上回り、売上の6割を占めるほど市場に受け入れられたことは「嬉しい誤算だった」と武井氏。クライアントの業種も飲料、自動車、金融と多岐にわたるという。
その一方で武井氏は「テレビ広告の在庫は有限」と述べ、「運用型広告に割り当てる在庫量を増やすことについては需給のバランスをどううまく取っていくのかがすごく難しい」とジレンマを吐露。「月によって需要が大きく変動するため、安易に在庫を増やすと全体の売上を損なうリスクがある」と、運営の難しさを明かした。
続いて、Amazonなどが展開するインタラクティブ広告の将来性について議論が及んだ。
深田氏は、Amazon Prime Videoの広告展開において、Amazonのサイト上で直接販売していない自動車や不動産、保険といった「ノンエンデミック広告」の獲得に注力し、専門の営業部隊を立ち上げているという事例を紹介。
これを受け、武井氏は「Amazon Prime Videoも中小広告主が多いセルフサーブ中心になるのかと想像していたが、実態としてはノンエンデミックのものが主力になろうとしていると知り、『そういうことだったのか』と納得した」と、Amazonの戦略に理解を示した。
一方、AbemaTV・大久保氏は、動画を見ながら商品を購入する「ショッパブル広告」について、「日本で動画を見ながらCTVで物を買う習慣があるかと言われると、意外と国民性や習慣には入ってはいない」とコメント。日本市場での普及はまだ未知数であるとの見方を示した。
■巨人Amazon・Netflixをどう見るか。そしてCMの最適解とは
セッションのハイライトとなったのが、スケッチブックを用いて巨大プラットフォーマーへのイメージを語るパートだ。
Amazon Prime Videoの広告について、TVer・廣田氏は「ライバルであり、市場を盛り上げていく仲間」と表現。大久保氏は「品質」と書き、「参入が市場全体のクオリティを上げるトリガーになる」と期待を寄せた。
武井氏は「データと買い方?」とコメント。「Amazonが持つ購買データと、ノンエンデミック領域を開拓しようとしている戦略に注目している」と語った。
Netflix広告のイメージについて、武井氏は「ムード」と表現し、「独特のムードの中で出てくる広告に効果があるのかは正直わからない」としつつも、その唯一無二の世界観が最大の強みだと分析。大久保氏は「オリジナルクリエイティブと世界観」と記し、コンテンツとコラボしたようなクリエイティブにこだわっている印象がある」と述べた。
廣田氏は、「視聴の質が二重丸」と評価。「TVerと同様に目的を持って視聴されるため、広告もしっかり見られるだろう」と語った。
続いて、CMのタイミングと量について議論が及んだ。
海外の事例ではサービスによってCM量が大きく異なるデータが示される中、各氏が「ユーザー体験とのバランス」の重要性を強調。廣田氏は、「視聴データを詳細に分析しながら、最適な広告量を常に研究している」と述べた。
大久保氏は、「映画館では本編上映前に長い時間CMが流れるが、あれを不快だと思う人はあまりいないのではないか」と自身の考えを述べ、コンテンツ体験とセットで広告のあり方を設計することが重要だと語った。
「PUT(総個人視聴率)が高いところにCMを入れたくない、という心理があるのではないか」と、武井氏は放送局としての目線からコメント。番組平均視聴率で評価される現在の慣習が、PUTを考慮した最適なCM挿入を妨げている側面があると、構造的な課題を指摘した。
■協調と競争の先へ。日本AVOD市場の未来像
最後に各氏が今後の展望を語った。
「スグリーはサービス開始から半年の間、広告主様から一度もクレームを頂いていない。これからも『テレビ広告をやってよかった』と思っていただけるようなお客さまをもっと増やしていきたい」(日テレ・武井氏)
「ネット発のABEMAだからこそ、失うものなく挑戦できる。新しい事例を作って、市場として日本発で広告の新しい形を作れれば」(AbemaTV・大久保氏)
「良いコンテンツを作る放送局と、それを見せるTVerとが連携するエコシステムを強化し、国産でしっかり外資のプラットフォームにも立ち向かえるような形の循環を作っていきたい」(TVer・廣田氏)
最後に奥氏は、「ユーザー環境が変わってきていることを前提に、改めて考え直すということが非常に大事だ」とセッションを総括。従来の常識にとらわれず、変化する視聴者に寄り添うことの重要性を強調して締めくくった。