マッキンゼー、消費者がメディアに費やす時間の「質」が収益化にどのような影響を与えるかを分析したインサイトを公開。焦点は「視聴時間」から「アテンションの質」へ
編集部
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、消費者がメディアに費やす時間の「量」だけでなく、その時間の「質」が収益化にどのような影響を与えるかを分析した最新インサイト「消費者のアテンションを可視化する『アテンション関数』:消費者のアテンション獲得競争に勝つために」を公開した。
動画配信、ソーシャルメディア、ゲーム、音楽、ニュース、ライブイベント――。コンテンツの選択肢が爆発的に増える一方、消費者が1日に使える時間は増えない。米国では消費者がメディアに接する時間は平均して1日約13時間に達する一方、過去10年間の総メディア消費時間の伸びは年率1~2%程度にとどまっている。企業にとって重要なのは、もはや「何時間見られたか」だけではなく、「どれだけ集中して見られ、何のために利用されたか」を捉えることだ。
同インサイトは、世界の消費者7,000人を対象とした調査のうち、米国の消費者3,000人の回答を主な分析基盤として、消費者の集中度と消費目的からアテンションの価値を測る「アテンション関数」を構築。メディア企業、コンテンツ制作者、広告主、ブランド企業が、限られた消費者のアテンションをどこで、どのように獲得・収益化すべきかを提示している。
同インサイトは、Kabir Ahuja氏、Marc Brodherson氏、Jordan Bank氏、Jamie Vickers氏による共著となる。日本語版の監訳は、梅村太朗氏(シニアパートナー、東京オフィス)、鶴田雄大氏(アソシエイトパートナー、東京オフィス)、Steve Park氏(アソシエイトパートナー、東京オフィス)、乙部一郎氏(シニアクライアントアドバイザー、東京オフィス)が担当した。
▼インサイト
消費者のアテンションを可視化する『アテンション関数』:消費者のアテンション獲得競争に勝つために
■デジタルメディアの利用は伸びても、収益・利益は同じ速度では移らない
2024年、米国の主要20メディア領域では、年間約1.5兆時間の消費に対し、売上高は約5,700億ドル、利益は約1,300億ドルに上る。しかし、消費時間のシェアがデジタルへ移る一方、収益・利益の構成は同じペースでは移行していない。ソーシャルメディアや動画配信などは利用が拡大している一方で、レガシーメディアは消費時間に比して相対的に高い収益化水準を維持している。
■同じ「1時間」でも価値は最大約650倍――収益化水準には大きな差
メディア消費1時間当たりの収入を見ると、領域による差は極めて大きくなる。ライブスポーツは32.54ドル、遊園地は24.96ドル、ライブ音楽は17.18ドルである一方、動画配信は0.32ドル、ソーシャルメディアは0.25ドル、ポッドキャストは0.05ドルであった。ライブスポーツとポッドキャストでは、1時間当たりの収入に約650倍の開きがある。 この差は、単純な「利用時間の長さ」だけでは説明できない。どのメディアを、どのような集中度で、何のために利用しているのかによって、同じ1時間が生む経済価値は大きく変わる。
■収益化の「見えない3分の1」を捉える「アテンション関数」
従来、メディアの収益化は、消費者価値、広告市場、プラットフォームの成熟度、業界構造といった商業的要因を中心に分析されてきた。同社の分析では、こうした「コマーシャル指数(CQ)」だけで説明できるのは、収益化水準のばらつきのおよそ3分の2であった。 残る約3分の1を左右するのが、消費者の「アテンションの質」だ。同社は、①コンテンツにどれだけ集中しているかという「集中度」と、②なぜそのコンテンツを利用するのかという「消費目的」を「アテンション指数(AQ)」として定量化。CQとAQを組み合わせた「アテンション関数」は、非ライブメディアにおける収益化のばらつきの約80%を説明する。
■「たくさん見る人」ではなく「高いアテンションで見る人」が価値を生む
調査では、消費者全体でメディアへの集中度が平均10%上昇するごとに、メディアへの支出は17%増加し、広告をきっかけとした購買頻度も20%高まる傾向が確認された。また、集中度が上位25%に入る消費者は、下位25%の消費者に比べて約2倍の金額をメディアに支出している。 一方、「たくさん利用する人」と「たくさん支払う人」は同じではない。メディア支出額の上位10%の消費者が総支出の約50%を占めるのに対し、消費時間上位10%の消費者が占める支出は約22%にとどまる。消費時間上位10%の「スーパーユーザー」のうち、支出額でも上位10%の「スーパースペンダー」に該当するのは約3分の1だ。
■年齢・所得だけでは見えない、7つの「アテンション・セグメント」
同インサイトでは、消費者を年齢や所得、利用時間だけで分類するのではなく、メディアに対する価値観とアテンションの質をもとに7つのセグメントに分類した。中でも「コンテンツ愛好家」(13%)、「インタラクティビティ愛好家」(16%)、「コミュニティトレンドセッター」(10%)の3層は、アテンション価値と商業的価値がともに高く、全体の約4割を占める。 特に「コンテンツ愛好家」は、平均的な消費者と比べてメディア支出が2.4倍、消費量が1.7倍。さらに、広告をきっかけとした購買頻度は、最大セグメントである「レガシーメディア支持層」の12倍に上る。広告への好感度や単純な利用時間だけでは見えない、価値の高い消費者を特定できる可能性を示している。
■主なポイント
・米国の主要20メディア領域では、2024年に年間約1.5兆時間が消費され、売上高約5,700億ドル、利益約1,300億ドルを創出。デジタルメディアの利用拡大に対し、収益・利益の移行は一様ではない
・メディア消費1時間当たりの収入は、ライブスポーツの32.54ドルからポッドキャストの0.05ドルまで大きく異なり、同じ「1時間」でも経済価値には約650倍の差がある ・従来の商業的要因を示す「コマーシャル指数(CQ)」に、集中度と消費目的からなる「アテンション指数(AQ)」を加えることで、非ライブメディアの収益化のばらつきの約80%を説明できる
・消費者全体では、集中度が平均10%上昇するごとにメディア支出が17%増加し、広告起点の購買頻度が20%高まる傾向。集中度上位25%の消費者は下位25%の約2倍を支出
・メディア支出額上位10%の消費者が総支出の約50%を占める一方、消費時間上位10%の「スーパーユーザー」と支出上位10%の「スーパースペンダー」の重なりは約3分の1にとどまる
・アテンションに基づく7つの消費者セグメントのうち、商業的価値とアテンション価値がともに高い3セグメントが全体の約4割。中でも「コンテンツ愛好家」は平均の2.4倍をメディアに支出
・動画配信サービスでは、集中度と消費目的が加入者生涯価値(LTV)と強く相関。コンテンツの量や需要、レコメンド機能、有力IP、ジャンル構成などが高いアテンションと関連する
■日本のメディア・広告・コンテンツ企業への戦略的示唆
同インサイトの定量分析は主として米国消費者を対象としており、日本市場の数値を直接示すものではない。一方、コンテンツ供給が増え続ける中で限られた消費者時間を奪い合う構造は、日本のメディア、広告、エンターテインメント、ブランド企業にとっても重要な経営テーマだ。
今後は、視聴時間、リーチ、MAU、インプレッションといった「量」のKPIに加え、消費者がどの程度集中し、どのような目的でコンテンツに接しているかという「質」を捉え、コンテンツ投資、広告配分、顧客獲得、レコメンド、価格設定、サブスクリプション設計に反映することが重要になる。
メディア企業・コンテンツ制作者にとっては、単に視聴時間を増やすことではなく、「好きだから見る」「学ぶために見る」「社会的につながるために見る」といった価値の高い消費目的をどのようにつくるかが、LTVや収益化の向上につながる。広告主・ブランド企業にとっても、リーチの大きさだけではなく、その広告が置かれる文脈と消費者の集中度・消費目的が合っているかを見極めることが、メディア投資の効率を左右する可能性がある。
また、人口統計だけでは見つけにくい「高アテンション・高商業価値」の顧客層を特定できれば、広告・コンテンツ・コマースを横断した新たな顧客戦略につながる。メディア競争の焦点は、「どれだけ長く画面を占有したか」から、「どれだけ価値ある時間を獲得できたか」へ移りつつある。
■取材可能な主なテーマ
本件について、マッキンゼーのメディア・エンターテインメント、マーケティング、デジタル領域の専門家が、以下のテーマについて背景解説・個別取材に対応可能となっている。
・なぜ「視聴時間」「リーチ」だけではメディアの価値を測れなくなっているのか
・ライブスポーツとポッドキャストで「1時間の価値」が約650倍異なる背景
・「アテンション関数」とは何か――集中度と消費目的をどう定量化するのか
・デジタルメディアの利用拡大が、なぜ同じ割合で売上・利益につながらないのか
・「スーパーユーザー」と「スーパースペンダー」が一致しない理由
・メディア支出上位10%が総支出の約50%を占める構造と、顧客戦略への示唆
・広告への好感度と実際の購買行動が一致しない理由
・動画配信サービスのアテンションとLTV、解約率、レコメンド戦略の関係 ・日本のテレビ、動画配信、出版、音楽、ゲーム、広告業界が今後見直すべきKPI
・ブランド企業が「量」から「アテンションの質」へメディアプランニングを進化させる方法
・コンテンツIPを、動画
・ゲーム・ライブ・コマースなど複数接点で収益化するための考え方