「バラエティーは国境を越える!」フジテレビが考える“強み”を活かした海外戦略と課題【後編】
編集部
多メディアでの競争時代を迎え、各放送局ならびにローカル局でも広告収入以外の収入源を得るため海外市場へ参入する動きが活発化している。そうした中、約47年前から海外市場で番組販売を行ってきた株式会社フジテレビでは、2017年7月にそれまで独立していた海外セクションを国内セクションと融合し、事業拡大を図るべく新セクションを設立。その様子を前編でお送りしたが、後編となる今回は、同社で抱える海外販売での問題と課題、放送局の強みといったことをふまえた今後の展望について、同社 総合事業局コンテンツ事業センター コンテンツ事業室 コンテンツデザイン部 国際ビジネスチーム 企画担当部長の藤沼聡氏、同 部長職の久保田哲史氏にお話をうかがった。
■慣習の違いから生じる海外販売の高いハードル

前編のインタビューでは好調に感じられた海外販売だが、それでも問題や課題は山積みだと言う。久保田氏は、「国民性や習慣、文化の違いから、日本でヒットするドラマと海外で好まれるドラマが違うことや、制作方法そのものが異なるため、販売はもちろん、共同制作でもつまずくことがある」と、海外との根本的な違いがあるとコメント。

藤沼氏によると、日本のテレビ局はまだまだ視聴率を意識した制作が主流だが、海外では、コンテンツやマネタイズを重視して、はじめから二次利用を考慮した制作やキャスティングが行われている。「日本はそういう意味では、世界に大きく後れを取っているのかもしれません。視聴率は確かに大切ですが、やっとここにきてそれ以外にも目を向け、弊社でも国内セクションとも手を取り合い取り組んでいこうとしています。それでも現場では従来の風習が抜けない部分もあったりするのが現状です」と、同社が抱える問題点および課題を指摘した。
■面白いものはウケる! 国境のないバラエティー
一方、日本を代表する放送局としての強みは海外でも健在。「日本のテレビ局で放送している」という知名度とブランドの高さの認識は各国共通で、フランス・カンヌで開催される「MIP」、日本で開催される「TIFFCOM」など世界各国で開催されているテレビ番組・映像コンテンツのコンベンションでの海外業者とのやり取りを振り返っても、コンテンツの質の高さと豊富さ、著作権の保持等、日本の放送局のならではの強みがある。「他国でこんなに放送局が強い国は他にない」と久保田氏は言い、藤沼氏は「僕はバラエティーのフォーマット販売や企画を行っていますが、日本のバラエティー番組は海外から見ると不思議な光景に映るようで、その目新しさから非常に需要が高い」と続けた。
例えば、『とんねるずのみなさんのおかげでした』の人気コーナー「モジモジくん」で行われるゲーム“脳カベ”は、“Hole In The Wall”の番組名で世界50ヵ国で制作され人気を博している。ドラマは文化の違いから受け入られないこともあるが、面白いものは万国共通のため、バラエティーでのフォーマット販売は海外からの評価が高く人気だ。藤沼氏の言葉を借りると、「バラエティーは国境を越える!」といったところだろう。他にも、『料理の鉄人』『はねるのトびら』『トレビアの泉〜素晴らしきムダ知識〜』といった日本でもロングヒットした番組が、現地のテイストに生まれ変わって、世界中の視聴者に笑いや感動を届けている。
■理想は日本でヒット⇒世界での爆発的大ヒット
最後に、今後の展望について伺った。
藤沼氏:ドラマ枠が減り、番組販売できる作品が減少していたり、バラエティーではトーク番組が増え、フォーマット販売することが難しくなっていたりするため、今後は販売できるものを作っていかなければいけないという危機感がある。これまでは番組販売、フォーマット販売、リメーク販売の3本柱で事業を展開していたが、今後は海外の放送局や制作会社との共同制作に力を入れて、さらに販売物を増やしていきたい。

コンベンションなどを訪れると、日本神話論のような、“日本のコンテンツは素晴らしい”という印象がまだどこかで残っているから、そう思われているうちに、日本の価値を上げられるよう、視野を広く持ち、あらゆる試みに挑戦していきたい。
久保田氏:僕らは海外セクションだから海外に目を向けているけれど、国内セクションでは、まずは日本でヒットするものを作ろうと模索している。先ほどお伝えした、バラエティーのフォーマット販売の事例でもそうだが、海外市場においても、日本でバズったという結果や具体的な数字が信頼にもつながることを思うと、日本でヒット⇒海外でも大ヒットという筋が望ましい。
日本は販売には力を入れているが、購入といった面ではまだまだ消極的。人気ドラマや映画を購入することはあっても、海外コンテンツにはあまり関心がないことが、世界に後れを取っている理由の一つだと思う。“敵を知り、己を知れば百戦危うからず”という諺ではないが、製作にしろ、販売にしろ、もっと海外事情を知る機会が持てればまた違った作品を生み出すことができるように感じる。
以上、同社の海外戦略について伺ったが、課題があるのは、それだけ伸びしろがあるということ。今後どのような形で海外市場における日本のプレゼンスが高まりを見せるのか、動向を見守っていきたい。