「プレミアム感を与えるテレビが一番いい環境デバイス」と研究結果から判明【Inter BEE 2016レポート】
FUMIKO SATO
放送はどう変わり、どのように進化するのかをテーマに、広告会社のメディア研究部門が生活者視点で行った最新メディア行動研究結果のセッションをInter BEE 2016にて傾聴した。動画視聴の現状とテレビ受像機の利用法の変化、そして今後の役割について考えてみたい。
■過去最大の393.8分! メディアの総接触時間の現状
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 所長 吉川 昌孝氏(以下、吉川氏)によると、2016年のメディア総接触時間は393.8分(内タブレット端末・携帯・スマートフォンで115分)で過去最大となった。
同社では2006年より生活者のメディア接触の現状を調査・分析する「メディア定点調査」を行ってきたが、調査開始から10年の間に3倍強の伸びを見せたのが「携帯・スマホ」だという。そしてとうとう2016年には、「携帯・スマホ」と「タブレット」の合計が全体のシェアの3割を占めるようになった。とはいえその推移グラフを見ると、2011年から15年にかけてはモバイルシフトではあったものの、16年に入り初めてその伸びが横ばいに。吉川氏はこの状況を「“モバイル端末の中で何をするか”に生活者の関心は移ってきている」と分析した。
■スマホ所有率は若年層で90%超え、40代以上は増加中
一方、株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部長 美和 晃氏(以下、美和氏)が行ったスマホ所有率の調査によれば、男女共に若年層では90%以上の所有があり、40~50代でもスマホの普及が進んでいるのと並行し、2016年はタブレットの所有率が全年齢層で増加していることがわかった。また、PCのみ、PC・スマホ、PC・スマホ・タブレット所持者の3パターンのネット利用時間についての調査では、デバイスの数が増えた分、利用時間も増加するという結果が出た。
この状況を美和氏は、「スマホを持つと急速にスマホでのネット利用にスライドするのは、吉川氏から説明のあったモバイルシフトの典型例だ」と語った。
この10年を振り返ると、それまで地上波テレビが果たしてきた役割を他の進行メディアでもカバーすることができるようになり、生活者の自由な視聴選択や組み合わせが可能となっていることが明らかだろう。
■視聴するなら断然テレビ! イマドキのテレビ受像機の使われ方
では、もうテレビ受像機は必要ないのか? というと、使われ方が変化しただけで、その必要性に変わりはないという結果が株式会社電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 主任研究員 森下 真理子氏(以下、森下氏)の調査により判明している。
同調査によると、テレビ受像機を使用しているのは全体の83%。内インターネット接続をしているのが21.1%であり、その内の半数、全体の約1割にあたる人がインターネットで動画サービスを利用している。動画サービスの内訳としては、YouTubeやニコニコ動画などの共有系動画サービスを利用して音楽を聴く人たちが一番多いことが判明した。
これを受け、モデレータとして進行役を務めた株式会社電通 電通総研 メディアイノベーションラボ 統括責任者 奥 律哉氏(以下、奥氏)は、「テレビが、昔のリビングにあったステレオに近い使われ方をしている」という見解を示した。事実、森下氏が行ったグループインタビューでも、「子供にスマホを近い画面で見せるのに抵抗があるが、テレビの大画面なら離れて一緒に見られるので安心」「テレビに映すと、リアルタイムで見ている気分になれる」「テレビならリビングのソファでゆったりと見られるし、PCをしながら、料理をしながら、スマホを操作しながら見られる」といった、視聴をするならテレビがいいという意見が数多く集まったという。
■テレビにはプレミアム感がある!
続いて株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 メディアビジネス研究グループ グループマネージャー 加藤 薫氏(以下、加藤氏)からは、サブスクリプション契約者にインタビューした結果が報告された。これによると、スマートフォンで動画を見るのを「プレミアムな時間」と表す人が増えており、その次にプレミアムなデバイスを尋ねると、多くの人が「テレビ」と答えるとのことだった。同様に美和氏が行ったインタビュー結果からも、「YouTubeをテレビで見る」と回答する人が増えている、という報告が上げられた。
このように、動画配信を見る人の入口はスマホでも、プレミアムな時間、環境として人々が最終的に選択するのはテレビ視聴であることが今回のセッションにより明白になっている。昨今、マスメディア離れが著しいと言われてきた中、各広告会社が繰り返し調査して見えてきたのは、メディアの総接触時間が年々増えていること、テレビにはプレミアム感・スペシャル感といった他のデバイスにはない“価値”があり、今後も不動の地位を確立し続けるであろうことが予測できる。
[vol.2]「すぐ手にして見られる…」がキーワードの若者メディア接触の現状【Inter BEE 2016レポート】
―セッション参加者―
○モデレータ
・奥律哉氏(株式会社電通 電通総研メディアイノベーションラボ、統括責任者)
○パネリスト
・吉川昌孝氏(株式会社博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所、所長)
・加藤薫氏(株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所メディアビジネス研究グループ、グループマネージャー)
・美和晃氏(株式会社電通 電通総研メディアイノベーション研究部長)
・森下真理子氏(株式会社電通 電通総研メディアイノベーション研究部、主任研究員)