新しいメディアビジネスのコンセプト ~メディアとデータで“動的な生活者”を束ねる~ Dynamic Bundling(ダイナミックバンドリング)を発表
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員 斎藤葵
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が、昨年11月に都内で開催されたメディアビジネスフォーラム2016において、メディアとデータで“動的な生活者”を束ねるDynamic Bundling(ダイナミックバンドリング)というコンセプトを発表。今回はその考え方と具体的なアプローチについて紹介する。
生活者は、「静的(スタティック)」から「動的(ダイナミック)」へ。マーケティングは、「狙う(ターゲティング)」から「束ねる(バンドリング)」へ
デジタル化の進展、スマートフォンの生活への浸透、ソーシャルメディアの発達など、まさに生活者のメディア行動は大きく変化している。メディアは従来の放送や紙といった形に加え、Web、動画、SNS、アプリなどさまざまなサービスでコンテンツを提供するようになり、生活者は、時間、場所、デバイスに縛られることなく、自分たちのペースでメディアに接触するようになってきている。
生活者は、いまやメディア単位ではなく、アプリ単位で捉えなくてはならないほど、分散化、細分化しているのだ。
生活者の関心や嗜好もまた多様化している。その変化のスピードは速く、瞬間瞬間で変わっているといっても過言ではない。たとえば、「F1層には月9ドラマ」など、メディアの枠に集まった生活者をターゲティングし、コミュニケーションしていた時代と異なり、メディア接触や生活行動が分散化した生活者に対してどのようにコミュニケーションしていくのかは、あらゆる企業にとって共通の課題といえる。
現在は各企業が生活者を捉えるために、データを駆使して、生活者の関心や嗜好に応じたメッセージを個々に「当てにいっている」というのが現状ではないだろうか。もちろん、それも大切なことではあるが、メディアビジネスをスケールさせるためには、分散化した生活者を動的な(Dynamic)ものとして捉えなおし、メディアとデータで束ねる(Bundling)ことが重要だ。それこそがこの“Dynamic Bundling”という新しいコンセプトなのである。
動的な生活者を束ねる“Dynamic Bundling”の3つのアプローチ
アプローチ(1)生活者の動的状況をコンテンツで束ねる
天気、株価、スポーツの勝敗、風邪の流行など生活者を取り巻く外的な状況変化に応じて、最適なコンテンツを提供することで、生活者を瞬間的に束ねるのが1つ目のアプローチだ。
たとえば、生活者の「好きなスポーツチーム」を把握して、そのチームが「逆転で試合に勝った瞬間」を捕え、ファン向けにチームのグッズを販売するという施策など、スポーツコンテンツと生活者の感情の高ぶりの瞬間をかけあわせて生活者を束ねることで、購買に誘引することも可能となる。
また、コンテンツマーケティングを高度化させ、ブランド接点よりも広い接点を作り、生活者を大きく束ねるということも考えられる。例えば、食品メーカーのブランドサイトを、「レシピ」サイトとして訴求し、食への興味を持つ人を広く集めることで、集客力の向上を図ることが可能となる。さらにそのサイトの訪問者データに外部の第三者データをかけあわせることで、生活者の求める最適なレシピコンテンツや広告メッセージを配信することができ、さらなるマーケティング効果も期待できる。
アプローチ(2)生活者の動的関心を事業横断で束ねる
2つ目は、ファッション、美容、健康、教育、食……のように、変化の激しい生活者の動的な関心事を、複数の事業を横断させることで束ねるアプローチである。
例えば出版社であれば、女性誌Aの読者の「アパレルブランドXに関心のある人」にターゲットを絞るのではなく、同じ出版社の女性誌B、女性誌Cと複数の雑誌ビークルを横断させて、同じ「アパレルブランドXへの関心層」を幅広く捉えることでより大きな束ねをつくる。ビークルごとにターゲットを絞るのではなく、共通の関心を持つ女性を束ねるという発想だ。また、横断したビークルでそのブランドのビデオコンテンツを共同制作して、それを放送チャンネルでオンエアするなど、事業横断すれば、同一の関心を持つ女性達をさらに大きく束ねる施策展開も可能だ。
アプローチ(3)生活者の動的生活を異業種協業で束ねる
今後、音声での検索・入力の浸透や、IoTの進展・新しいデバイスなどの登場によって、あらゆるモノや空間がメディアとなり、生活者の情報取得やコントロールの自由度が今以上に高まることが想定される。そのような状況下で生活者を束ねるためには、全く異なる業界同士の連携が必要になってくるのではないだろうか。それこそが3つ目のアプローチである。
たとえば、自動車業界と家電業界が連携すれば、車の中にいながら、家の中の温度や照明を管理するなど、車と家のプラットフォームをつなげて音声でコントロールする新サービスが開発できる。そしてそのサービスを提供することで、それぞれの業界だけではアプローチできなかった生活者を束として捉える事ができるようになる。
このように、“Dynamic Bundling”のアプローチによって、これまでなかなか捉えづらかった、「動的な生活者」をコンテンツ提供・事業横断・異業種協業などを通じて束ねていくことが可能になるのである。