高橋一生が訪台、海外プロモーションの狙いと効果【カンテレ岡田美穂局長インタビューinドラマ『僕キセ』台湾イベント】(前編)
ジャーナリスト 長谷川朋子
俳優の高橋一生が主演するドラマ『僕らは奇跡でできている』(カンテレ・フジテレビ系、毎週火曜21:00~)の記者会見とファンミーティングが11月3日に台北市内で行われた。これまでも関西テレビは制作するドラマの出演俳優を伴って、海外プロモーション活動を積極的に行っている。こうした役者を引き連れた海外イベントは韓国ドラマではよく行われ、韓ドラファンを増やしている。日本も仕掛け方によって、効果が期待できるのか。今回のPRイベントが行われた台湾現地で、関西テレビコンテンツビジネス局長の岡田美穂氏に聞いた。
■ジャパンチャンネル「WAKUWAKU JAPAN」らと共に仕掛けた台湾PRイベント

ドラマ『僕らは奇跡でできている』は日本の本放送から約2週間遅れで、台湾でも放送されている。そんななか、日本の最新ドラマなどを扱う総合エンタテイメントチャンネル「WAKUWAKU JAPAN」で毎週日曜22時から放送される同ドラマを視聴する台湾現地ファンや現地メディア向けにPRイベントが企画された。主演の高橋一生が初来台する「WAKUWAKU JAPAN」台湾開局2周年記念イベントとして参加者を募集したところ、応募総数は3,100人にも上ったという。その中から選ばれた約100人のファンが当日台北市内のホテルに集まった。その熱狂ぶりを伝えた地元メディアの数は31社を数え、台湾現地で効果的なメディア露出に繋がったようだった。
現地には同ドラマを制作し、主演の高橋一生の台湾PRイベントを「WAKUWAKU JAPAN」らと共に仕掛けた関西テレビ岡田氏も現地に足を運んでいた。岡田氏にその狙いについて改めて聞くと、韓国との戦略の違いを感じたことがきっかけだったという。

「海外マーケットの現場に足を運ぶと、韓国のパワーに圧倒されます。韓国の場合、市場規模が日本と比べると小さいことから、海外展開は必須です。日本とはこうした背景の違いがあり、日本は国内市場が充実していたこともあって、海外展開の必要性はさほどなかったとも言えますが、貪欲さにおいては欠けていたかもしれません。そして気になるのはドラマにご出演される俳優・女優さんの露出度です。日本の多くの俳優・女優さんもアジアで知られてはいますが、韓国と比べると露出度は少ないようにみえます」
海外担当セールス担当者がクライアントから「韓国は購入したドラマに出演する役者がプロモーションで来てくれるのにどうして日本は役者を連れてこれないのか?」と疑問を呈されたこともきっかけとなり、今回の台湾PRイベントを実現するに至ったという。
「韓流ブームがアジアで巻き起こった理由のひとつには、役者を起用したプロモーションの効果がとても大きいと思います。韓流ファンにとっても、好きなドラマに出演する役者と会えることは素直にうれしいことです。今まで関心がなかった方もメディアの露出度が上がることで、興味を持つケースもあるでしょう。ということは、日本も仕掛け方次第でブームを作り出すことができるではないでしょうか。今回も『僕らは奇跡でできている』主演の高橋一生さんにご協力いただいたことで、台湾にも多くいらっしゃる高橋一生さんのファンの方に喜んでいただきました。また、今まで日本のドラマに関心がなかった方にも興味を持ってもらえるきっかけになったかもしれません。高橋一生さんをさらに好きになっていただいた方も多くいらっしゃるでしょう。こうした効果があることを確信しています。日本のドラマを世界でもたくさんの方に観ていただきたいし、とても素敵な日本の役者さん方を知ってもらうことによって、日本のドラマが世界に進出する道筋が作れるのではないかと思っています」
■ブランドリフトは後発組にとって重要なミッション
これまでも関西テレビは海外プロモーションに役者を起用している。今年5月には今回と同じく台湾の「WAKUWAKU JAPAN」チャンネルPRイベントにドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』主演の坂口健太郎が参加した。さらに、昨年の国際テレビ見本市MIPTVでドラマ『CRISIS公安機動捜査隊特捜班』のワールドプレミア上映会を実施した際には、西島秀俊のカンヌ来場を実現させた。


「高橋一生さんご本人はもちろんのこと、ドラマの制作チームに協力してもらえたことはとても大きかったです。今回も撮影の合間を縫って高橋さんに来ていただいたのですが、主演の台湾訪問によって、撮影が一旦ストップします。ただでさえ厳しいスケジュールで撮影している制作チームにとって、これは相当面倒なことだと思うのですが、プロデューサーが理解してくれ、全面協力してくれました。制作者にとっても、自分たちの作品が多くの人に観てもらえることはきっと嬉しいことだと思うのです。カンヌのワールドプレミアの際、自社の作品が海外で評価される様を、帯同した制作チームが目の当たりにしたことは意味のあることだったと思っています。コンテンツビジネス局の役割はカンテレが生んだコンテンツをひとりでも多くの方に届けることにあります。海外に限らず、国内においても配信を通じてエリア外の方にもカンテレコンテンツを視聴いただける機会を積極的に作っています」
一連の海外プロモーションから得ることができた効果についても岡田氏に尋ねた。
「海外マーケットの商談の場で、「『CRISIS』を作ったところね」「Netflixの『僕だけがいない街』を観ましたよ」などと言われるようになりました。それだけでも大きな進歩だと思います。以前から海外番販に取り組んではいましたが、まだまだカンテレの海外屋号である“KANSAI TV”は知られていません。だからこそ、まずは“ブランドリフト”戦略を立てることが大事だと思っています。グローバル市場の進出に後れをとっていたカンテレにとってそれは重要なミッションです」
海外展開に必要な“ブランドリフト”戦略についてさらに語ってもらった。

「海外で主力になるアニメ作品を持ち合わせていない我々は“KANSAI TVはこんな会社ですよ”“こういう作品を作っていますよ”と自社のコンテンツ力をアピールしていくことが大事。海外からみたら、キー局も準キー局もローカル局も関係なくみられることは多く、コンテンツ力があるかどうかが重視されます。まずはドラマで攻め、海外ではまだ知られていないオリジナルドラマを海外セールスのラインナップに揃えています。企画力やストーリー、演出、役者さんの演技を含めた制作力を世界にいろいろなかたちでアピールすることで、後発ながらグローバルビジネスを始めたカンテレのブランドリフトに繋がっていくと信じています。カンヌMIPTVでの『CRISIS』ワールドプレミア上映会もそのブランドリフト戦略の一環として行いました。当時、ブース出展の経験がなかったにも関わらず、花火を打ち上げたことにはなりましたが、得た効果は大きかったです。日本のドラマはアジアから外に出るのが難しいと言われています。でも、これをきっかけに欧米をはじめ、アジア以外の国との取引が始まりました。そして何より、良い作品は世界にも通用するということを体感できました」
高橋一生らドラマの顔になる役者を起用した海外プロモーションの背景から、日本の役者のファン層拡大がコンテンツセールスの飛躍に繋がるという関西テレビの意思が伝わる。
後編はカンテレが実際に取り組んでいる具体的な海外展開戦略とその考え方についてお伝えする。