2次利用ワード撲滅キャンペを始める理由【カンテレ岡田美穂局長インタビューinドラマ『僕キセ』台湾イベント】(後編)
ジャーナリスト 長谷川朋子
俳優の高橋一生が主演するドラマ『僕らは奇跡でできている』(カンテレ・フジテレビ系、毎週火曜21:00~)のPRイベントが11月3日に台北市内で行われた。前編はこうした役者を起用した海外プロモーションの狙いと効果について、仕掛けた関西テレビコンテンツビジネス局長の岡田美穂氏に伺わせてもらった。海外ビジネス参入後発組の同社が、実力勝負のグローバル市場で勝ち方にこだわり、次々と施策を実行している。コンテンツの活用を海外市場にも広げるとき、今、どのような攻め方が求められているのか。引き続き岡田氏に聞いた。
高橋一生が訪台、海外プロモーションの狙いと効果【カンテレ岡田美穂局長インタビューinドラマ『僕キセ』台湾イベント】(前編)
■『シグナル』日本版が韓国で、『ヤバ妻』トルコ版が日本で展開のフル活用
ドラマ『僕らは奇跡でできている』は日本での放送・配信のほか、日本の最新ドラマなどを扱う総合エンタテイメントチャンネル「WAKUWAKU JAPAN」で台湾をはじめアジア7つの国と地域で放送されている。今回開催されたPRイベントは前編で伝えた通り、主演の高橋一生をはじめ番組ファンと現地メディア向けに行い、最大限に台湾現地でのメディア露出を図った。

台湾以外での海外展開も狙っている。10月にカンヌで開催された世界最大級のテレビ番組見本市MIPCOMでは同ドラマの脚本を手掛ける橋部敦子氏と担当プロデューサーの豊福陽子氏、岡田氏の対談インタビュー記事を現地発行の「MIPCOMニュース」に掲載した。同ドラマの内容理解を目的に同社自ら企画したものだった。こうしたきめ細かなプロモーションは、作品やマーケットによって戦略を変えているのだろうか。


「『僕キセ』は商談の限られた時間のなかではどういった内容のドラマであるかを、説明しにくいところが正直なところあります。ラブコメでもなく、単にヒューマンとも言えない。クスッと笑える要素もあります。マーケット会場で参加者の多くが目にする記事の助けによって、ドラマの良さがわかってもらえるのではないかと思い、企画しました。キー局は既に取り組んでいることも、カンテレはまだ試したことすらないことだらけです。カンテレの規模でできることは何なのか、何をしたらいいのか、何をしたら響くのか、それを必死になってコンテンツビジネス局の皆と一緒に考え、トライしているところです。時に制作部も巻き込み“この案はどう?”と相談し、理解を得ています。今のところ巡り合わせもあって、ひとつひとつ実行することができていると思います」
最終的にコンテンツがまわり、売り上げに繋がる施策がポイントになる。例えば、トルコでリメイクされた『僕のヤバイ妻』は逆輸入されるかたちで、日本で放送することが決まったところだ。
「トルコ版の『ヤバ妻』を日本で放送することによって、『ヤバ妻』が海外でリメイクされていたことを日本の視聴者に知ってもらえます。このことで、オリジナルが再評価され、国内におけるカンテレのコンテンツメーカーとしてのブランドリフトにも繋がるのではないかと考えました。さらに、トルコ版の『ヤバ妻』をきっかけに、日本のオリジナルをもう一度観たいというニーズが高まり、配信視聴の増加が見込まれます。過去の我々のコンテンツを掘り起こすことができ、新たなビジネスが動き出す可能性が広がると思っています」

また放送の広告収入以外にひとつの作品から生み出された「コンテンツビジネス収入」の分析を行うことで、改めて実感していることがあるという。
「阿部寛さん主演ドラマ『結婚できない男』は2006年に放送されたものですが、変わらずの人気を保っています。配信でも回り、ビデオの発注もいまだにあります。良い作品は経年でビジネスになるということです。長期にわたりビジネス展開が可能なドラマは、全国ネットアニメ枠がないカンテレのコンテンツビジネスにおいて非常に重要な役割を担っています」
■新作ドラマのポスターは日本版と海外版の両バージョンを作成
全方位に攻める体制は海外ビジネス参入後発の同社にとって、世界ヒットの代表作を作り出すために求められるものでもある。「百聞は一見に如かず」ということで世界各地のビジネスマーケットに参加し、今後の「選択と集中」に向け研究中だ。その経験のなかで得た具体的なアイデアを実行に移している。

「マーケットに出展する前は、実は海外番販でも日本で使用している宣伝ポスターを流用していました。でも、実際に出向くと、日本語では意味がないことに気づかされました。通常の日本版は出演者の方々のラインナップをわかってもらうために、複数人が登場するポスターデザインになるケースが多い。それに比べて、海外ではメインのキャストに絞る傾向があります。言ってみれば、シンプルでわかりやすい。イメージを大事にしています。海外で売るなら、海外で需要のあるポスターを作るべきだと考えました。例えば、ドラマ『シグナル』の海外版は主演の坂口健太郎さんお一人とタイトルと短いキャッチだけにしました。宣伝部にも協力してもらい、今では新作ドラマごとに必ず日本版と英語版の両バージョンのビジュアルを作成しています。日本版のポスター制作時に海外版も同時制作することで、効率化が図れます。はじめから社内で理解を得られていたわけではありませんでしたが、回を重ねるごとに、理解が深まっています。それが当たり前の事と感じられるようにならなきゃいけないと思っています。ポスター作成に限らず、コンテンツの展開を見据えてはじめの段階から組み立てることで、確実にビジネスの幅は広がると思います。ドラマ『CRISIS』は制作が前倒しで進んだため、海外展開のローカライズ作業も早めにできました。結果、同日放送が可能になり、海外での需要が高まりました。ビジネスチャンスを作り出すために必要な考え方と思想を社内に広げていくこともコンテンツビジネス局の役割だと思っています」

コンテンツを最大限に活かすためには「意識改革」が必要だと岡田氏は考える。さっそくこれも実行に移し、「2次利用ワード撲滅キャンペーン」と銘打ち、社内で働きかけている。
「“2次利用ではなく、多元的展開と言ってください”と、社内の予算会議等でお願いしています。“2次利用”は既にできあがったものを引き受けて利用するというイメージが強く、完全受け身ワードです。昔はそれで良かったのかもしれませんが、今はビジネスに広がりを求めていかないと。まずは“2次利用ワード撲滅キャンペーン”から始めています。放送された後からマネタイズを考えるのではなく、コンテンツは多元的に展開するべきものと意識を変えることによって、まだまだコンテンツからビジネスチャンスを作り出すことができるはず。後れをとっていますが、それを信じて進めています」
海外進出に乗り出す放送局は増えてはいるが、海外マーケットで競争力のある戦略を打ち立て、自走化を進めている放送局はそう多くはない。そんななか、できることから攻めていくカンテレの立案と実行力は参考になるはずだ。