“テレビ愛”で今一度行動を起こすことが必要だ~【Inter BEE 2018】基調講演「ネットとテレビの境目からテレビの未来を語る」レポート
編集部
2018年11月14日~16日、幕張メッセ(千葉県)において開催されたInter BEE 2018。放送と通信の融合を提案し、新しいビジネスモデルを発信するInter BEE CONNECTEDでは、数多くの企画セッションが行われた。今回はそのなかから、初日に行われ、コンベンションホールを聴衆で満杯にした基調講演「ネットとテレビの境目からテレビの未来を語る」をレポートする。
モデレーターは株式会社ワイズ・メディア取締役メディアストラテジスト、フラー株式会社常勤監査役の塚本幹夫氏。パネリストは、株式会社ドワンゴ エグゼクティブ・プロデューサーの吉川圭三氏、株式会社バスキュール代表取締役 クリエイティブディレクターの朴正義氏、NPO法人8bitNews 代表理事であり、株式会社GARDEN代表の堀潤氏が務めた。
(モデレーター)
塚本幹夫氏
株式会社ワイズ・メディア 取締役 メディアストラテジスト、フラー株式会社 常勤監査役
(パネリスト)
吉川圭三氏
株式会社ドワンゴ エグゼクティブ・プロデューサー
朴正義氏
株式会社バスキュール 代表取締役 クリエイティブディレクター
堀潤氏
NPO法人8bitNews 代表理事、株式会社GARDEN 代表
■テレビの現状に大きな変化はない
セッションの冒頭において、モデレーターの塚本氏が近年のテレビの状況について、ファクトを取り上げることで振り返った。
ビデオリサーチのデータでは、プライムタイムの視聴率は2011年の62.4%から2017年の58.1%と下がっているものの、全日では41.6%から40.7%へと微減にとどまっている(いずれも関東地区HUT=総世帯視聴率)。
また、民放連調べによると、地上波放送広告収入は同期間では伸びを示していた。
「この数字を見る限り、『テレビは余命7年』といった書籍に書かれていたようなことは起こらず、この7年間で大きな変化はなかったと言えるのではないか」と塚本氏は指摘する。一方で、「テレビ放送は変化を遂げているけれども、世間一般ではテレビ業界にはバラ色の未来があると見られていない。若いテレビマンが未来に希望を持っているかどうかが心配だ」と続けた。
その後、テレビの現場で長年活躍している、あるいはテレビ現場と数多くの仕事をしてインターネットの世界で活躍している3人のパネリストを紹介し、それぞれの経歴と最近の活動が披露された。
■テレビとネットの境目で活躍するパネリストたち
日本テレビで『世界まる見え!テレビ特捜部』、『恋のから騒ぎ』、『特命リサーチ200X』などを手掛けたヒットメーカーで、今はドワンゴに籍を置く吉川氏は、社内の雰囲気を「みんな明るくて非常に活動的。新しいことを試すことに集中している。ドワンゴの雰囲気は良い」と語った。
日テレと株式会社HAROiDを設立し、現在はバスキュールの社長を務める朴氏は、テレビとは対局とも言えるネット時代ならではの双方向的な体験型コンテンツを作り出しており、DATA-TAINMENT(データテインメント)という新しいキーワードを元に、領域を越えたあらゆる物事の体験価値の増幅や拡張を訴えた。
NHKを退社して市民投稿ニュース「8 bitNews」を立ち上げ、自ら取材、編集しサイトに上げる一方、テレビ放送やAbemaTVにも出演する堀氏は、市民がインターネットを媒介にしたSNSを利用することにより、情報発信者として権利を行使できるというパブリックアクセスの復活を提唱した。
■テレビのコンテンツ制作に対する苦言と期待
セッションの後半はパネリストによるクロストークが行われたが、冒頭に塚本氏が指摘した若いテレビマンの未来について、各氏は期待していることが浮き彫りとなった。
吉川氏は似た傾向の番組ばかり増殖している状況に懸念を示したが、「楽しくないと仕事じゃない。その環境を上の人間がどうやって作るのかが大切だ。コンテンツの企画も何かのコピーじゃなくて、自分たちで考えなければいけない。テレビは自分のエネルギーを倍増させないと面白くならない宿命を持っている」と番組制作の変化を求めた。
堀氏は2015年にBBCの日本語サイトがスタートしたことに触れ、当時アジア統括担当者にインタビューしたところ、「我々のリサーチでは、若い世代が海外ニュースを求めているのが明らかになった」とコメントされたと紹介。若い世代はテレビで見ることができないニュースを、海外メディアがTwitterで流す生々しい映像や速報によって確認しているのだと言う。
朴氏は、「日本の番組を作っている人たちのミッションやビジョンはどこにあるのかが伝わりづらい」と指摘したうえで、ビジネスモデルの変化が必要だと主張した。そして、「テレビは何千万人も見ていて、世の中と生活のつながりが可視化されればみんな幸せになれる。そんな大きなポテンシャルがあるのに、どうして変えないのだろう」と続けた。
■テレビ愛でもう一度活性化を
最後に塚本氏は、「ここにいるみなさんに共通しているのは、テレビ愛ではないかと思います。その共通ワードの元に、テレビをどうやって良いものにしていくか、管理職や若い人だろうが関係なく一度話をして欲しい」と語り、これが「今後のテレビの鍵になるのではないか」と力を込めた。
テレビが持っている技術の高さや可能性を今一度考え直して、新たな行動を起こす必要があるのだと考えさせられるセッションとなった。
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