映像メディアの価値を映す Screens

JAAA（日本広告業協会　Japan Advertising Agencies Associationの略称）は2月7日、東京・有楽町の東京国際フォーラムにて「テレビ広告ビジネスフォーラム2019」を開催。「ポスト2020 テレビビジネスはこうなる?!」をテーマに、全8部構成のプログラムが実施された。

今回は、博報堂ＤＹメディアパートナーズ データビジネス開発局長・飯塚隆博氏による講演『海外テレビビジネス最新動向』の模様をレポートする。

博報堂ＤＹメディアパートナーズ データビジネス開発局長・飯塚隆博氏

飯塚氏は、2017年に開催された「JAAA動画広告フォーラム2017」でも米英のテレビ広告取引の現状を報告。

米英のテレビ広告取引の実態から考える日本の動画ビジネス動向～「JAAA動画広告フォーラム2017」レポート

約2年の時間を経て、海外のテレビビジネスにはどんな変化が生じているのか。前回からのアップデートを中心に、様々な視聴データおよびマーケティングデータの利活用に関する最新の取り組み事例や、ローカル局における広告取引の仕組みの最新事情をレポートする。

■定額制動画配信を「テレビで見る」英国

今回はまず最初に、海外において「テレビデバイスで視聴されているコンテンツ」の最新事情から紹介。日本ではリアルタイムでのテレビコンテンツ視聴がほぼすべてを占めているのに対し、英国では19%がVOD（ビデオ・オン・デマンド）や録画再生などのタイムシフト視聴、そして8％がSVOD（Subscription Video on Demand：定額制動画配信）コンテンツに視聴に充てられていることがわかった。

テレビデバイスそのものが動画コンテンツの視聴体験の場所として固定している層が一定数顕著に現れている点が特徴的だ。

有料チャンネルへの加入割合は日本の23%に比べて英国が60%、米国にいたっては89%という高い水準を記録している点も印象的だ。米国に関しては、地理的な要因から古くより「ケーブルテレビ大国」であった背景も大きいが、いずれにしても「テレビコンテンツにお金を払う」という習慣が根付いている点は見逃せない。

■「視聴率は減少も、CPMは急上昇」米英のテレビ広告の現状

直近10年間、米国におけるテレビ視聴率は、4大ネットワーク（CBS・NBC・ABC・FOX）すべてで大きく減少している。海外もテレビ離れが囁かれているのかと思いきや、一方でテレビ広告（Upfront：年単位で行われるCM枠先行買い付け）におけるCPM（Cost Per Mille：到達コスト）は上昇の一途をたどっている。

米国のテレビ広告においては、広告主がターゲットとする層へのリーチを特に重要視しており、テレビメディアのもつリーチパワーが他メディアに比較して圧倒的に強いという評価が根強いことが根底にある。まだまだテレビ広告には、可能性が残されているのだ。

■米英の放送局における、新たな広告取引スキーム開発の最新事情

続いて、米英の放送局で行われている新たな広告取引の現状について報告があった。

NBCユニバーサルは、2018年第4クオーターよりプライムタイムのCM枠を20%削減。また、FOXなどを中心に従来の15秒より短い「6秒CM」フォーマットを開発した。料金は従前の15秒と変わらない。つまり、実質的な値上げだ。

ほかにも、番組中に2枠だけ挿入されるブレイクの出稿権を売る「JAZ Pod」という仕組みも導入されるなど、CM枠そのものの高価値化が進められているという。

広告枠の新たな売り方についても、試みが紹介された。なかでも注目が高かったのが、「広告枠を買う」という考え方から「指定ターゲットを買う」という考え方へと特化させた「ProgrammaticTV」という総合ソリューションだ。

このなかの「AdvancedTV」と呼ばれるパッケージでは、消費者行動や購買データなどをもとにした“新しい軸の視聴率データ”に放送局ごとの広告枠在庫を連動させ、プランニングや適正枠の自動表示までをサポートする。

また、「AddressableTV」と呼ばれるパッケージでは、ケーブルテレビのセットトップボックスから取得した属性データをもとに“世帯ごとにCMの差し替え”を実施する。業界構造上の理由により、取引レベルまでの完全な自動化までは達していないものの、新しいCM枠の販売方法として興味深い事例だ。

放送局間をまたいだ枠在庫シェアの試みもなされているという。「OpenAP」と呼ばれるこの仕組みでは放送局間でコンソーシアムを結成し、各局間の余剰枠在庫をシェアする。広告主は用意されたコンソールでターゲットを指定すると、条件に見合った在庫状況が横断表示されるという。

■「テレビと他スクリーンを同一指標で統合」新たなインプレッション保証の形

オンライン・オフラインを統合した新たなインプレッション指標の取り組みを進めているのが、NBCユニバーサルとABCだ。

「CFlight」（NBC）、「Unified」（ABC）とそれぞれ呼ばれるこのソリューションでは、テレビ視聴とパソコン・タブレット・携帯端末といった他スクリーンにおけるインプレッションを同一の指標で保証する。なかでも「CFlight」の場合は、各スクリーン通してViewability（実際の閲覧率）が100%のもののみをカウントするというから、その自信のほどが伺える。

日本と米英、それぞれにメディア構造こそ異なるものの、「テレビの高価値化」と「ターゲティング志向」という2つの面を積極的に推し進めている現状は共通していることを強く感じさせる講演となった。