東京2020大会に向けて走るTBS×SPORTS動画メディア「Yeahhh!」仕掛け人(前編)
ジャーナリスト 長谷川朋子
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)開催がいよいよ1年後に迫り、スポーツ文化の盛り上げに一役買おうと、テレビ局各局も取組みに熱が入る。そんななか、TBSテレビが注目したのがソーシャルメディアの利用だ。スポーツWebメディア「Yeahhh!(ヤァー)」を3年前に立ち上げ、民放初の東京2020公認プログラムとしても展開している。TBSテレビは「Yeahhh!」を具体的にどのように活用しているのだろうか?仕掛け人であるTBSテレビビジュアルデザインセンターの松原貴明氏と中西忠司氏、そして地上波連携の旗振り役であるTBSスポーツニュース番組『S☆1』(毎週土曜深夜0:30~、毎週日曜深夜0:00~)プロデューサーの八代田俊平氏に話を聞いた。

■TBSテレビのブランディング構築にも役立つWebメディア
TBSテレビが東京2020大会を盛り上げようと動き出したのは今から4年前。局内に公式委員会として「東京オリンピック放送等推進部会」が設置され、この部会メンバーに松原氏と中西氏が所属する。「Yeahhh!」を企画発案した松原氏と中西氏はどのような想いで始めたのだろうか?

松原氏:東京2020大会に向けて、放送局として地上波の番組ではない切り口で何ができるのか。それを中西と考えていく中で、当時ショートムービーを使用したソーシャル上のサービス等が出てきたタイミングもあり、ソーシャルでアプローチしていこうと企画書をまとめました。その後社内で企画が通り、具体的に進めていくことができました。「Yeahhh!」はTBSテレビが、よりスポーツに寄り添ったメディアであることを発信できるものです。そして、セールスを主眼とするのではなく、東京2020大会に向けた取り組みとして、TBSのブランディングに寄与できる新しいメディアとしてスタートさせることになりました。

中西氏:ソーシャルメディアを活用する「Yeahhh!」は若い方に向けて発信する場としても有効的なメディアです。今の時代、SNS上で動画を視聴する習慣がある若い方々を取り込むことを考えた時、地上波放送だけで網羅するのは正直なところ難しい。TBSテレビが持つ豊富な素材を活かしながら、TBSテレビをより身近に感じていただけることができるWebメディアに会社も必要性を感じてくれたのだと思います。
TBSテレビ局内で横断的に取り組むプロジェクトとして、スポーツ局に所属する八代田氏もスタート当初から参加している。スポーツニュース番組『S☆1』との連携の可能性をどのように見出していったのだろうか?

八代田氏:スポーツに関するあらゆる取材を日々行うなかで、思いがけず撮れたシーンが実はたくさんあります。それこそ、TBSテレビの貴重な財産です。そうしたスポーツ局の素材を掘り出せることができればという想いはもともと持っていました。東京オリンピック推進部会からスポーツ局にも協力要請があり、実際に「Yeahhh!」のプロジェクトに関わると、アーカイブ活用ができるものだと実感しました。また『S☆1』と連携したやり方のひとつとして、番組のエンドコーナーで一般の視聴者の方から動画投稿を募る試みも行いました。応募数でみると、大反響とまでは言えませんでしたが、『S☆1』を通じて「Yeahhh!」の認知度を上げることに貢献できたのかと思います。
■スポーツの最高の瞬間を切り取った動画数は3年間で350本
スポーツ局の豊富な素材をはじめ、「Yeahhh!」オリジナル動画も可能な限り制作し、3年間で「Yeahhh!」のアーカイブ動画数は350本に上った。「Yeahhh!」の動画の特徴は言うまでもなく「スポーツ」一色。ソーシャルメディアならではの独自のカラーも打ち出しているという。

中西氏:ソーシャルメディアで視聴されることが大前提ですから、地上波と差別化した動画にもこだわっています。地上波で求められるしっかりとした画づくりや、カメラ割り、高画質だけを重視することなく、視聴者や競技者との距離感の近さを大事にしています。そうすることで、リアリティを感じてもらえる動画になるのかと思っています。視聴者からの投稿動画は決して画質が良いものではなかったり、タテ動画であったりと、さまざまですが、何よりも内容が面白いことが重要です。例えば、Dribble Designer OKABEやタッチラグビーは需要やコミュニティ力が強く、「Yeahhh!」の動画を通じて知ってもらう機会にも繋がっています。面白いもの・ニーズがあるものは必然的に広がっていくものと考えています。

松原氏:マイナースポーツ等も積極的に紹介したいと思っており、協会等とコンタクトを取り動画をYeahhh!で展開させてもらうケースも増えています。子供から大人まで東京2020大会の種目に限らず全ての『スポーツの最高の瞬間を切り取る』。これが「Yeahhh!」のコンセプトです。見たことのないアングルや、普段見ることの無い表情や体の動きなど、「Yeahhh!」独自の動画を少しでも多く紹介していきたいと思います。
スポーツ文化を推進する「Yeahhh!」の取組みが評価され、東京2020公認プログラムに認定されるにも至った。民放唯一の看板を背負い、認知度向上の効果などに繋がっているのだろうか?

松原氏:認定されたことは率直に嬉しかったです。東京2020組織委員会とはもともと交流があったこともあり、お声がけいただきました。東京2020公認プログラムの動画は公認プログラムマークが追加され、公式感が一目でわかるものになっています。公認プログラムをいただいたことで、よりいろいろな方に見てもらう機会を増やしていきたい。権利関係の点やサイトの特性上、大々的なPRを行うことが難しいのですが、堅実な取り組みを続けていくことが大事であり、その結果、認知が広がっていくことを目指しています。
八代田氏:スポーツ局の素材は権利上の問題等があるため、Webメディアに出すことができないこともあります。他社のソーシャルメディアに出すことができない理由も同様です。こうした制限はありますが、やれることはやりましょうというスタンスは共通認識として持っています。テレビ局のスタイルだけでなく、「Yeahhh!」を通じて新しいことに挑戦できることが重要だと考えています。会社としてもこれに賛同し、そこに意義を感じています。もちろん再生回数を増やしていくことなど、今後取り組むべきことはたくさんあります。
立ち上げの経緯からこれまでの取組みを改めて知ると、東京2020大会の盛り上げに貢献することを基本としながら、スポーツ全体の底上げを目指していることがわかった。開催までのカウントダウンが始まり、「Yeahhh!」の役割をさらに追及していく意向もある。後編は今後の計画やテレビ局ならではの新たなソーシャルメディア戦略についてお伝えする。