情報の送り手がつくる『メディア満足』とは〜博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所『メディア生活フォーラム2019』レポート(3)
28AUG

情報の送り手がつくる『メディア満足』とは〜博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所『メディア生活フォーラム2019』レポート(3)

編集部 2019/8/28 07:00

2019年7月11日、東京都渋谷区の恵比寿ガーデンプレイスのザ・ガーデンホールにて、博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所(以下、メディア環境研究所)によるカンファレンスイベント『メディア生活フォーラム2019』が開催された。今回はサブタイトル「新しい『メディア満足』のつくり方」を掲げ、生活者におけるメディア態度の変容と実態について最新の定量調査のデータとインタビュー映像が紹介された。

その中から今回は、パネルディスカッション「情報の送り手がつくる『メディア満足』とは」の模様をレポートする。パネリストは、Screenless Media Lab.所長・首都大学東京客員研究員の堀内進之介氏、スターツ出版株式会社 オズマガジン編集長の井上大烈氏、株式会社テレビ東京 ビジネス開発局 ビジネス開発部の長谷川晋介氏。モデレーターを博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員の新美妙子氏が務めた。

■コンテンツには「気分が求められる」時代

パネルディスカッションでは登壇者らが自社メディアの取り組みを紹介。その後「メディア満足」を軸として、これからのコンテンツの作り方、届け方を議論した。

最初にスターツ出版の井上氏が編集長を務める『OZmagazine』を紹介。同誌は「読者の毎日を少し豊かにする『よりみち』を提案する」というテーマのもと、コンテンツを通して読者を元気にして自己肯定の助けになりたいと考えている。

「『OZmagazine』では、情報を“点”ではなく“線”や“面”にして展開している。情報過多のなかでおすすめのスポットをひとつ紹介して終わりではなく、その周辺情報とあわせることによって、そこにどんな意味があるのか物事の背景にあるストーリーを掘り下げ、正解が多すぎて何を選べばいいかわからない方に『よりみち』という世界観を届けていく(井上氏)

コンテンツ作りにおいて、「今は“気分”の時代」と井上氏は語る。

「情報はもはや、カテゴリやジャンルでは分けられない。裏を返せば属性上は全然違なる人たちも、同じ気分では繋がることができる。最大公約数の正解よりも、数値化出来ない世界観のほうが大事だ」

日々の取材においても、フィールドワークを多用して「『そこにある“気分”』を発見するようにしている」と、井上氏はいう。

「まず自分(取材者)たちが『(この街にいると)どんな気分か』『自分はどんなことを求めてこの街に来たんだろう』といった思いを見つけだし、テーマへと組み上げていく。いわばエスノグラフィ(行動観察:行動や現象を発見し、モデル化する調査手法)的な手法を用いて誌面づくりを行っている」(井上氏)

■価値観にあわせて「届け方」を変える

続いてテレビ東京の長谷川氏が、同社のニュースや報道番組が見られるサブスクリプションサービス『テレビ東京ビジネスオンデマンド』を紹介。1日における時間ごとの利用状況を定量的に分析し、利用者の声の定性的な分析と併せてコンテンツの配信スタイルを随時改善しているという。

「デジタルメディアは『届け方』においても生活者のニーズを汲み取る努力が欠かせない。ある1日の時間帯別利用者グラフを見ると、午前7時台に『Newsモーニングサテライト』(テレビ東京系列で午前5時45分〜午前7時5分に生放送されているニュース番組)の視聴数が一気に伸びている。早朝番組だが、早起きできない人がちょっと遅れて、恐らく出勤中に見ていることが想像される」(長谷川氏)

『テレビ東京ビジネスオンデマンド』では、利用者たちの「更新時間を早めて欲しい」というニーズを受け、「既存の価値観に合わせた対策」として『テレビ東京ビジネスオンデマンド』上で『Newsモーニングサテライト』のサイマル(同時)配信に踏み切った。

「マーケット(市況)情報は鮮度が短く、情報が1時間遅くなってもその価値が下がってしまう。これをカバーするため、サイマル配信中も番組を追っかけ再生できるようにし、放送終了後もそのまま見逃し視聴が可能なように改善した」(長谷川氏)

このほか、「新しい価値観による『メディア満足』の提供」として『テレビ東京ビジネスオンデマンド』のみで視聴できるオリジナルコンテンツの訴求にも力を入れているという。具体的には放送上で取り上げきれなかったインタビュー映像などオリジナルのコンテンツを公開している。

新美氏は同社の取り組みを「生活者にとって一番身近にあるスマートフォンは無防備になるメディア。いわば、生活者の『素直な欲求』がログで出てくる。それを読み取る試み」と評した。

長谷川氏も「利用者のデータを取るにつれ、利用者たちが求めるものがわかってきた」とコメント。「A/Bテスト(異なるアプローチの施策をユーザーごとに切り替えて出しながら、その感触の違いを探る調査手法)を駆使しながらユーザーの気分に寄り添っていく」とした。

■行動同士をリンクさせ、新たな「気分」を見つけ出す

Screenless Media Lab.の堀内氏は、井上氏、長谷川氏の発表を振り返り、「生活者は『提供されたサービスは自分たちが費やした注意力に見合うか』ということを気にし始めた」とコメント。

「現代は『情報が多すぎる』というが、アジェンダやテーマの多様化を意味するものではない。情報の関心度は“べき乗則”であり、みんなが関心を持つものにより注目が集まり、そうではないものは見向きもされない。OZmagazineは『よりみち』というコンセプトでコンテンツを届けることで、多様化しようとしているし、テレビ東京ビジネスオンデマンド利用状況のデータからは、ある時間帯のある番組に “べき乗則”的に注目が集まっている状況が見えていた。ひとくちに『メディア満足』といっても、インタビュー映像にもあったように、自分の満足できる情報だけを探る『満足』と、関心外の新たな情報に気づく『満足』とのあいだには大きな振れ幅がある」(堀内氏)

「(スポーツジムでの)ランニングの最中、意外とニュース番組が見られているという声がある。実際『テレビ東京ビジネスオンデマンド』の利用者アンケートでも、好きなスポーツは『ランニング』が多い。例えば、ランニングマシーンに乗りながら「ガイアの夜明け」を見るなど行動にあわせたコンテンツを提供できたら面白いのではと感じた。情報に対する満足度を高めるという意味では、これまでの固定概念にとらわれない行動同士をくっつけることで、新たな気分に寄り添えるのではないか」(長谷川氏)

「『OZmagazine』では関連商品として、お出かけをしながら街で発見したものなどを書き留めておける『よりみちノート』を販売している。最短ルート検索はコンピューターに任せて、アイテムを用意することで、『お出かけを通して予期せぬ出会い』を楽しんでほしい。(本誌で)私達がなぜ、この情報を発信しているのかを伝えることによって、読者に『自分の気分に寄り添っている』と感じてもらえるかもしれない。」(井上氏)

■「行動のきっかけ」となるメディア体験を

議論を振り返り、Screenless Lab.の堀内氏はメディア体験の「再設計」の必要性を述べた。家事や仕事など、何か作業をしながらコンテンツを楽しむ「ながら視聴」がコンテンツ体験のトレンドと見られる向きもあるが、これに堀内氏は疑問を投げかけた。

「コンテンツをつくる送り手の方々の努力がありつつ、我々は、情報環境のありかたそのものも作り変えないといけない。第一部で紹介されたメディアコンテンツの「従来」の時間に「デジタル」の時間が上乗せされている状況は、ビジネス的にはよしとされる状況かもしれないが、生活者にとっては、同じ情報がぐるぐる回っている状態。テレビ受像機でもデジタルデバイスでも同じものを見せるのでは本当の意味での『メディア満足』にはつながらない。インタビュー映像でも「無駄な時間を過ごしてしまっている」というコメントが出てきたが、本当だったら意味のあることができたかもしれないのに、ただ時間を無為に過ごしてしまったという気持ちが生活者にある。いかに(生活者にとって)行動のきっかけになる情報を提供できるか。そういう環境をどうつくっていけるのかは大事なテーマだと思う。まさに『寄り道させる工夫』が求められている。その時の広告会社の役割は大きいのではないか。」(堀内氏)

情報の送り手が集まった今回のパネルディスカッション。各者ともにアプローチはさまざまながら、いかに生活者たちの行動に寄り添い、またそれを「誘発」させていくか、という点では登壇者たちの意見は一致しており、その点が強く印象に残る内容となった。

最後にモデレーターの新美氏が「すでに情報が多すぎるところに(追加で)届けていくだけではなく、ウェルビーイング(精神的、社会的に良好な状態)を念頭におかなくてはいけない。24時間のなかで、どのようにメディア体験を設計していくかが重要」とまとめ、
プログラムは終了した。

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