ドラマ『Mother』ワールドヒットを支える日テレ海外PR術~ユーロデータTVパリサミット報告~(後編)
ジャーナリスト 長谷川朋子
日本テレビが出席したフランスの調査会社ユーロデータTV主催の「パリサミット」でワールドヒットドラマとして『Mother』が注目を浴びた。講演を行ったのは同社海外ビジネス推進室の明比雪氏。ヘッド・オブ・マーケティングとして、日本テレビの海外PRを戦略的に進めている人物だ。日本の放送局の海外PRはまだまだ発展途上にあるが、日本テレビは早くからその重要性を見出し、世界35か国に展開させているドラマ『Mother』のサクセスストーリーを世界中に広めている。どのような手法で海外PRを進めてきたのだろうか。前編に続き、明比氏に話を聞いた。
■海外でのプレゼンスを高めていく壮大なミッションあり
フランス・パリに本社を置くヨーロッパ大手の調査会社ユーロデータTV社が毎年開催しているテレビ業界の調査/制作責任者を対象にした招待制会議「パリサミット」で、ドラマ『Mother』についてプレゼンされた模様は前回お伝えした通りだが、今回の話を引き受けた理由を改めて明比氏に尋ねた。


「『Mother』の海外での成功は制作陣の協力と、海外事業部の努力の賜物です。『¥マネーの虎』に続く、第2のビジネスの柱になってきています。PR担当として、事あるごとに世界にプレスリリースを打ち、プレスからの取材を積極的に受け、広告を出し、売り込みもし、現地で情報収集するなど活動はさまざまです。時にカンヌの見本市まで坂元裕二先生をお連れし、次屋尚プロデューサーには登壇してもらうなどして、制作者自ら『Mother』の世界ヒットの理由を語ってもらうことをしたのは、新たな展開に繋げていくためです。話を聞いた方、記事を読んだ方がウチの国でもリメイクしたいと思ってもらうきっかけ作りにもなるからです。こうしたPR活動が少しずつ実を結んでいき、ユーロデータTVのデータにも表れ、気づいてもらいました。今回の依頼は日本のドラマがトルコでリメイクされ、大ヒットし、世界に展開されるのは他にはないケースだということが理由のひとつにあったと聞いています。日本テレビは現在、国内視聴率トップの局ですが、海外におけるプレゼンスも高めていく壮大なミッションもあります。ですから、『Mother』の話を一人でも多くの方に知ってもらいたいと思い、引き受けさせてもらいました」。

ドラマのリメイクは今、世界的にも番組流通ビジネスのトレンドである。関心度の高いトピックであることも「パリサミット」で情報共有すべき話題として選ばれた理由にあったのだろう。
「Netflix、Amazonといった世界に販路を持つ動画配信サービスだけでなく、いろいろな国でさまざまなプレイヤーが動画配信サービスを立ち上げています。コンテンツを揃える必要があり、キラーコンテンツであるドラマのニーズが高まっています。なかでも、リメイクドラマの成功例に注目が集まり、海外のコンテンツビジネス専門誌で毎日のように記事化されています。『Mother』『Woman』はその潮流にしっかりと乗れたと思います」。


■海外PRで最も大事なのは「個性」、ドラマ『Mother』から広がった
米「ワールドスクリーン」や英「C21」の記事は筆者も参考によく目にしている。各誌のWebニュースサイトを開くと、『Mother』『Woman』など日本テレビの番組広告が飛び込んでくることも多い。こうした広告投下は明比氏の海外PR戦略のなかで重要視しているのだろうか。
「はい。広告投下も積極的に行い、グローバルに通用するデザインを作ることもミッションにしています。気をつけているのは、世界に通じるデザインにすること。海外の番組と並んでも恥ずかしくないようなデザインにしています。海外と日本ではそもそもスタイルが異なることが多く、日本でよく使われている方式を使うと、海外のニュースのサイトや雑誌の中でバランスが悪く見えがちです。徹底すべきだと思い、海外向けに広告を作成できるデザイナーを一から探し、専属デザイナーを置いています」。
カンヌのMIPTV/MIPCOMのような見本市などで配布するノベルティグッズもこだわりのあるものばかりだ。忙しく食べる時間も惜しむバイヤーたちのために日本テレビオリジナルデザインの「キットカット」や、日本テレビの社名が入った真っ赤な「NIPPON TV ストラップ」、便利な「スマホクリーナー」などさまざま。国際見本市で出展ブースの受付に並べると、あっという間になくなってしまうという。全てはPRの基本である「人と人とを繋げる」ことから考え出されている戦略だろう。最後に明比氏が最も大事している海外PR術を聞いた。

「海外においては最も大事なのは『個性』です。幸い『Mother』が動き出すタイミングに担当になり、認知度と信頼度を上げるために様々なPRをする過程で、NIPPON TV、『Mother』の名前の個性が強くなり深く浸透しました。こういう積み重ねが大事なのです。私は日本テレビに入社した時はスポーツ局に配属され、バルセロナオリンピックなど、世界各国で行われるスポーツの生中継に携わる仕事から始めました。スポーツ界の重鎮はラテン系の方が多く、スペイン語で権利の条件交渉をすると、とにかくまとまりやすい。そんなコツを知ることができたことも、他に国内宣伝/広報を担当した経験も、全て、5年目に入る今の海外PRの仕事の糧に繋がっていると思います。長年日本テレビにいるので言わせていただくと、自社の個性である制作力には自信があります。底力があるのです。だから、どんな海外向けのミッションが降りかかっても、なんなく突破できる仲間がいると思うことができます。『Mother』『Woman』に続く成功例が次々と作られることも信じて、今後も進めていきます」。
トルコでリメイクされ、そのトルコ版がヒット、トルコ以外にもリメイク先が広がりつつあるドラマ『Mother』の快進撃はまだまだ続きそうである。その縁の下の力持ち的な存在である海外PR術を改めて知ることで、日本のドラマの海外展開はまだまだ広がっていく余地はあるのではないかと同時に思った。新たな展開は、またプレスリリースを通じて発信されていき、世界に広がっていくことに期待したい。