相内ユウカだけじゃない池上彰もVチューバー~テレ東的、報道コンテンツビジネス~(後編)
テレビ業界ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビ東京新人バーチャルアナウンサー「相内ユウカ」は経済ニュース『WBS』との意外な組み合わせが話題を呼び、独自の※VチューバーIPとして、展開を広げている。一歩先行くテレビ東京的コンテンツビジネスの新たな試金石となるかにも注目が集まるところ。前編に続き、テレビ東京報道局次長の野口雄史氏とビジネス開発局の久保井恵一氏のお二人にネット時代に稼ぐ報道コンテンツの在り方についても聞いた。(本文以下、敬称略)
※IP…IPはインテレクチュアル・プロパティーの略。著作権などの知的所有権を意味する
■相内ユウカが海外展開のチャンスも狙う理由
――2019年7月放送の選挙特番では司会の池上彰氏をモチーフにしたVチューバー「イケガミ君」が登場。相内ユウカの話題を追い風に、VチューバーIPの展開はまだまだ広げていくのだろうか。
野口氏:選挙特番では忙しい池上さんに替わって、Vチューバーの「イケガミ君」が取材に行くという企画を実施しました。今後も継続させていくかは未定ですが、一度まずは試すことが必要だと思っています。どこにどうハマるか、やってみないとわかりません。池上さんがVチューバーを活用するという発想そのものは面白いと思うので、最新技術を使って時代に合わせて番組を進化させていく、ひとつの企画として捉えています。
久保井氏:Vチューバーはユーチューバー自身の顔を見せずに表現できるので海外進出しやすいツールでもあると思います。中国ではVチューバーの反応が熱く、今後、東南アジアや中東などで広がっていく可能性もあります。海外展開も常に視野に入れ、相内優香アナウンサー本人もチャンスがあれば海外に行きたいと思っていますから、いろいろできることはあるのだと思います。相内ユウカのような立場のVチューバーはそもそもいないので、他のVチューバーとの絡みを含めた新しいコンテンツの展開もまだまだ広がっていくと思います。
――可能性がある一方で、若年層向けのタッチポイント戦略として考えた時、どこまで効果が見込めるのか。テレビ局がそもそもVチューバーIPを運用することに価値をどこまで見出しているのか。これまでの取り組みからみえてきた課題とは何か?
野口氏:テレビを全く見なくなってしまっている特に若年層にはネットから番組を知ってもらうことも一つの方策かなと思っています。YouTubeチャンネル「テレ東 NEWS」では100万回再生数を記録する経済ニュースコンテンツもあり、知ってもらうことを地道に続けていくしかないと思っています。「相内ユウカ」をきっかけに、メディアに取り上げてもらって、興味を持ってもらうことでチャンスも広がっていきます。そのベースには取材したものを映像化してきた経済ニュース制作のノウハウの蓄積があるからできることでもあり、そうした経済コンテンツをどのように収益化していくかも探っているのです。今のところは地上波のリアルタイム視聴に繋げていくことを第一に考えていますが、将来を見据えて経済ニュースを作るノウハウを持った集団として、時代に合わせたさまざまなビジネス化が必要だろうと、いろいろと取り組んでいます。
久保井氏:テレビ局がVチューバーのIPを持ち、運用していくのはまだまだ大変。配信やSNSなどで常に発信していく労力に見合うコストを回収できるビジネスになっていくかが未知数だからです。技術も常に更新されて、やれることとやれないことが目まぐるしく変わっています。今の段階ではそれなりの覚悟がないとなかなかできないものなのかもしれません。技術的に簡易になっていかないと広がらないという課題をVチューバー業界全体で抱えています。その辺りが悩ましいところです。
■Vチューバーアナはまだまだ成長の余地あり
――最後にVチューバーIP「相内ユウカ」の今後の成長の見込みと、「相内ユウカ」の展開を通じて感じている経済ニュースコンテンツの今後の在り方についても聞いた。
久保井氏:相内ユウカは非常にユニークな存在だと思いますが、まだまだ活かし切れていない部分も多いと感じています。YouTube上の番組『相内ユウカにわからせたい!』はニュース番組の延長線上でネットオリジナルを作り、『電脳トークTV』ではバラエティ番組のなかで、『青春高校3年C組』とコラボレーションしながら相内ユウカの新たな活かし方を探ってきました。これまでの反響を総合的にみると、まだまだ可能性はあるんじゃないかと思わせるところがあります。そもそも相内優香のVチューバースキルは目を見張るものがあります。ボイスチェンジを使わずに声色を変えることができるのは、日頃からボイストレーニングに励んでいる成果のひとつです。また、笑う・怒る・困る・照れるなどの表情に関しては、ゲームコントローラで操作するのですが、その表現とタイミングも絶妙です。とんでもないセンスの持ち主だと思います。相内自身がやりたい意欲があるので、我々もどんな可能性あるのかいろいろチャレンジしていこうと思っています。現実的にVチューバー単体で成功することは限られていますから、業界全体でお互いに協力しながら、成長させていく必要があります。お声がかかれば、できる限り参加し、コラボレーションしていきたいです。
YouTubeテレビ東京公式 TV TOKYOより
野口氏:ネットを活用し、どう巻き込んでいくかを常に考えています。ニュースをネットで無料配信することを実験的に進めているなか、テレビ東京では2013年から経済ニュースの配信サービスをスタートさせ、今では『モーニングサテライト』に関しては同時配信も実施しています。ネットで配信されることを想定した経済コンテンツは今後、企画や編集も変わっていきます。テレビ画面では広い画角のきれいな映像が求められますが、スマホ視聴であれば、顔だけのアップが続く方がいいのかもしれません。求められる情報も違うでしょう。長尺がいいのか、短尺がいいのか、その辺りも探っています。YouTube番組『相内ユウカにわからせたい!』では当初15分尺の中でひとつのテーマについてじっくり展開していましたが、ライブ配信ということもあり、30分ぐらいに伸びることもあります。これは地上波ではできないことです。ライブ配信中に質問を受け付け、答えていると、わかるまで教えて欲しいニーズが確かにあることがわかります。試しながら、今後も探っていきます。
テレ東的VチューバーIPビジネスは「相内ユウカ」の話題づくりをまずは先行させながら、経済ニュースコンテンツの収益化を探る施策のひとつとして捉えていることがわかった。模索はまだ続いていきそうだが、ネット時代における地上波コンテンツの在り方は意外なところから気づきもありそうだ。今後の取り組みにも注目したい。