平日128分しかテレビを見ない世代にリーチせよ!若者ターゲットに攻めた“本気”の取り組み
31MAY

平日128分しかテレビを見ない世代にリーチせよ!若者ターゲットに攻めた“本気”の取り組み

編集部 2017/5/31 10:00

業界人によるトークセッション「シェイク!Vol.10」が、5月12日に株式会社IPGの本社(東京都中央区築地)にて開催。今回のテーマは「ヤヴァイ企画の話」で、メンバーは、紙・Webメディアはもちろん、企画、プロデュース、スペース運営まで、あらゆる「もの・こと」を編集する東京ピストルの草なぎ洋平氏、ニッポン放送のアナウンサーでありながら、ラジオ局がつくる理想ラジオ『Hint(ヒント)』をクラウドファンディングで仕掛けるなど、幅広く活躍する吉田尚記氏、NHKのPR活動で“お硬いNHK”のイメージからかけ離れた企画を打ち出し続ける平岡大典氏の3名だ。そのなかでScreensでは、平岡氏にフォーカス。テレビの“若者のテレビ離れ”が囁かれる中、NHKが何を考え、若者をターゲットにコンテンツを制作したのかに迫る。

■平日128分しかテレビを見ない世代にリーチせよ!

平岡氏は、この春、「NHKが“本気”を見せた」とツイッターをバズらせた『NHKキュン活ほっとらいん~受信からはじまる恋~』(以下、『キュン活』)の仕掛人である。これは、新社会人をターゲットに、受信料の支払いを啓蒙するキャンペーンの一環。イケメンとの恋愛ゲーム仕立てになっており、これまでの「NHK」のイメージからかけ離れた企画に、インターネット上でも話題となった。

※「NHKキュン活ほっとらいん~受信からはじまる恋~」画面キャプチャー

この企画が生まれた背景には、やはり若者のテレビ離れがある。総務省の「平成28年度情報通信白書」によると、1日あたりの全世代のテレビの平均視聴時間は、平日174.3分、休日231.2分となっている。しかし、20代に限ると、平日128.0分、休日155.4分と大きく下回る。(※2015年度の平均時間)

※総務省「平成28年度情報通信白書」より

そのようななか、若者にいかにリーチを伸ばしていくかは、テレビ業界の大きな課題である。特に、受信料をもとに放送事業を行うNHKにとって、若い世代の視聴者の獲得は重要な問題と言える。

※NHK 広報局・戦略開発担当チーフプロデューサー

実は、若者向けの受信料に関する啓蒙キャンペーンは、毎年行われていたが、これまでメインの広報は、NHKの番組内で留まり「専ら、アイドルに“受信料払ってね”と言ってもらうというような内容でした。そもそもNHKを見ていない人に、NHKの番組内で広報しても、届くはずがなかった」と平岡氏。

そこで、インターネット利用率が高い10代~20代を対象に “ネットでバズらせろ!”という流れに。こうして生まれたのが『キュン活』である。しかも、周到なリサーチや計画に基づく、まさに“NHKの本気”の結晶だった。

※総務省「属性別インターネット利用率及び利用頻度」より

■「ネットのプロではない」という自覚

まず、今回のコンテンツ企画は、NHK内部の発案によるものではない。外部の企業にコンペ形式で提案してもらったという。そして、数10にも上る企画から選んだ1つが、『キュン活ほっとらいん』となった。「私たちは番組制作のプロだが、ネットコンテンツのプロではない。徹底的に専門集団に頼ろうと考えた」と平岡氏。

外部からの視点を入れたことは、NHKにとっての新たな強みの発見にも繋がった。それが、“アニメ”である。というのも、地上波のなかでいちばんアニメを放送しているのが、実はNHKなのである。『キュン活』が始動したのも、その事実があったからだ。「自分のことは、案外わからないもの。そういう気づきを与えてくれるのは、やはり外からの視点だった」と平岡氏は振り返る。

■対価意識の高い若者に対抗するためのコンセプト「My NHK」

リサーチにもパワーをかけた。今回は、情報サービスを提供する企業の力を借り、学生モニターによる座談会などで情報を収集したという。学生の声のなかで、平岡氏が印象的だったのは、「大河ドラマが好きなので、もしセットの瓦1枚に私の受信料が使われるなら、喜んで支払う」というもの。そこにあるのは、圧倒的な“対価意識”だった。

従来、NHKの受信料は、「お隣さんも払っているから」「NHKだから払っておくか」というように、明確な基準なく支払われていた部分も大きいのではないか、と平岡氏は推察する。NHK側も、「災害に強い」「娯楽番組も教育番組もある」「『おかあさんといっしょ』のような子ども番組を、小さいころ見ていませんでしたか?」というように、漠然としたNHKの価値を打ち出していた。

しかし、対価意識が強い若い世代にはNHKの社会的貢献度などという指針は必ずしも通用しない。そこで打ち出したのが、「My NHK」というコンセプトである。これは、“あなたにとって好きなコンテンツをNHKは作っている”というもの。今回の『キュン活』も、“イケボ”の声優を登用するなど、好きな人にはたまらない要素をこれでもかと詰め込んでいる。まさに、この対抗策が功を奏し、瞬く間に『キュン活』は拡散していった。

■多様な価値観のある世界で“叩かれる覚悟”

「My NHK」という考え方は、アンチも生む。実際、『キュン活』は、「ヤフーコメント」では。「受信料の無駄使い」など、多くの批判の声も浴びたしかし、平岡氏は今回の『キュン活』において、「狙っていたのは若い世代。彼らが利用するTwitterでは、目論見通り9割以上好意的に受け取られた。“大海”ではなく、狙った“池”で勝負することにした」と平岡氏。

公共放送であるNHKが、非難の声を受けつつも、特定のターゲットに絞ってアクションを起こした。これは、方針の大転換といえる。その背景には、多様な意見を受け入れられるようになった情報社会の成熟がある。たとえば、Twitter世代にとって、ヤフートピックスはクレーマーが多いことも「常識」となりつつある。そんな視聴者の情報リテラシーの高さに、まだマスメディアのほうがついていけず、過剰な自主規制が敷かれている可能性もある。

若者に近づくために、自分の不得意を認め、相手を研究し、批判をも恐れなかった。どれだけ“本気”で一人ひとりの視聴者に向き合えるのかが、今後さらに重要になってくるのかもしれない。

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