テレビ朝日ドラマ『鈍色の箱の中で』が取り組む「360°展開」とは!?~ニビハコ制作チームに聞く【前編】
編集部
2020年2月8日(土)より、新ドラマ『鈍色(にびいろ)の箱の中で』(通称:ニビハコ、テレビ朝日にて毎週土曜27:00~ ただし3月7日放送の第5話は27:05~)がスタートした。同ドラマは、「360°(サンロクマル)展開」といった施策を行なっており、公式サイトに加え、「360°(サンロクマル)サイト」と題した特設サイトのほか、Instagram、Twitter、TikTokなどを活用したSNS展開やドラマ本編と連動したスピンオフCMを展開している。
第1話の放送後には、TVerでの再生数ランキング3位を記録し、ゴールデン枠のドラマと肩を並べて、上位をキープした。本項前編では、ニビハコ制作チームに今回の取り組みの概要と狙いについて伺った。
■SNSを積極的に活用した「360°展開」企画
ニビハコの原作は、月間読者数ランキングNo.1を獲得した漫画家・篠原和宏氏による同名のLINEマンガだ。「鈍色の箱」は分譲マンションを表していて、同じハコの中で共に成長してきた5人の高校生のストーリーである。

しかしその内容はいわゆる高校生の淡い恋愛ドラマではない。初恋の呪縛から逃れられない高校生5人のヒリヒリするような一方通行の恋愛模様が描かれている。

ニビハコのプロデューサー、テレビ朝日ドラマ制作部の残間理央氏は「男女5人の高校生が、全員片想いをしていて、とにかくすれ違い続けるドラマです。嫉妬や憎悪、コンプレックスなどが理由でいろいろなことが起こるのですが、片想いの矢印が変わったり、実はその裏には誰にも言えない秘密があったりします。青春ラブストーリーというより偏愛ラブストーリーです」と話す。
確かに、少し寂しげなハコの中で繰り広げられるストーリーは謎めいた筋書きになっており、話数を重なるごとに、湿り気と熱を帯びた高校生たちの感情の揺らぎに引き込まれそうになる。そしてストーリーの進行と同期して展開されている「360°展開」により、登場人物たちの感情の揺らぎをよりリアルに体感することができるのだ。
「360°展開」は1月に主要キャストの5人を演じるキャストのインスタアカウントから盗撮風のキス動画が公開されたところからスタートした。何の前振りもなく突然キャストのアカウントから、キャスト本人と顔の分からない誰かがキスをする動画が公開され、「やばい!」「大丈夫?」「これ何?」とアカウントのフォロワーを中心に大きな反響があったという。その後おこなわれた正式なキャスト発表はLINEライブを含む複数のプラットフォームを利用して「生配信」の形式で行われ、その生配信の場でドラマの概要が出演者本人の口から初めて語られることとなった。

「若者のテレビ離れを少しでも解消できないか?と悩んでいて、まず若い世代の隙間時間に入り込むことが必要だと考えました。つまり、どうやってSNSの中にテレビコンテンツを潜り込ませることができるか?が大切だと思ったのです」と、同局インターネット・オブ・テレビジョンセンター(IoTvセンター)の鈴木努氏は言う。
「360°展開」とは、端的に言えばSNSなどによる多方面への展開だが、「テレビの中の遠い存在ではなく、クラスメイトの今日の出来事の方に関心がある。そんな若い世代がまるで自分の生活の中でリアルに起こっていることのように、ドラマの内容を身近に感じてもらうような展開ができないか?と試行錯誤しています。ドラマがリアルな世界のSNSの中で生きているような感じが出したくて……」と鈴木氏は続ける。
■ドラマとリアルな世界の接点を作り出すSNS
実際に、ニビハコは主要なSNSメディアをすべて活用している。Twitter、Instagram、TikTok、LINE、Facebookと、それぞれのサービスにアカウントを開設し、そのまとめ的な位置づけとして「ニビハコ360°サイト」がある。これまでもSNSを利用して番組の情報発信を行うドラマは数多くあったが、ニビハコの特徴はそれぞれのSNSに役割を持たせ、それぞれ違う種類の情報を発信しているという点だ。
「登場人物たちが実世界に存在しているような身近な距離感を作れたら、と思っていて…。Twitterでは出演者のオフショットを公開していますが、Instagramではドラマの世界観を大切にしていて、本編を切り出した映像や本編では描かれない登場人物同士のやり取りや言動を公開しています。TikTokはその中間というか、本編の設定を壊さない範囲で登場人物たちが動画を撮って遊んでいる姿を見ることができます」と残間氏はその違いを説明する。
鈍色の着ぐるみを被る2人:ねずみ::ねずみ:#ニビハコ インスタライブまであと5分:びっくりハート::びっくりハート:皆さんもスマホの前でご準備を:セルフィー::ピカピカ:#鈍色の箱の中で#神尾楓珠#岡本夏美 pic.twitter.com/V90ARTgBO2
— 【公式】鈍色の箱の中で 第四話2/29(土)深夜3時5分 (@nibihako) February 22, 2020
#ニビハコ 激しいキス撮影の日々でしたが、現場は平和そのもの:うふふ::平和のハト: 紗友さんと利久さんの雰囲気に癒されます??#久保田紗友 @sayu_kubota #萩原利久
第三話ラスト衝撃の1分:超びっくりマーク:は…
テレ朝動画やTVerでチェック:下矢印:https://t.co/pxhyriDc0m
続きが気になる方はビデオパス:下矢印:https://t.co/HEQUoqtyCO pic.twitter.com/YK4bqqfKmv— 【公式】鈍色の箱の中で 第四話2/29(土)深夜3時5分 (@nibihako) February 24, 2020
このSNS展開で最も興味深い点は、やはりドラマ本編から切り出した映像だけではなく、本編では登場しない映像がSNSに流れ、そこに曜日と時間がスタンプされていることだ。基本的に曜日と時間は実際の曜日と時間とリンクしている。ここにはドラマとリアルの世界の接点があり、まるで登場人物の日常をSNSで覗いている感覚になる。学校に登校する様子が映し出されたInstagramの投稿には、ファンからの「おはよう!」といったコメントが見られる。まるで実際の同級生に語りかけるように、ドラマの登場人物をとらえているのだ。

■SNSが有機的につながり効果を発揮するドラマ
撮影現場で、SNSにだけしか流さない映像を撮るためには、制作現場の協力も必要だと考えられる。残間氏は次のように語る。

「最初からSNSを利用して多方面に展開するという前提があったので、台本を作る段階から柔軟な対応が必要でした。脚本家の大北はるかさんにご相談したところ、快く引き受けてくださり、最初のプロットを書く段階から『切り出し部分の撮影』『SNS部分の撮影』などを考えて台本を作り上げていきました。結果、制作の関係者すべてを巻き込むことになり(笑)、最終的にはト書きが多くてページ数も多い台本になりました(笑)」

撮影現場を駆け巡り、SNS用の動画制作を担当した同局インターネット・オブ・テレビジョンセンター(IoTvセンター)の西脇由希子氏は、「キャストの方々もご自身のSNSアカウントから積極的に発信していただいています。主要キャストが若いので、みなさん主旨に賛同して一緒に楽しんでくださって、反響が大きいと喜んでくれています」と語る。