テレ東×ビリビリ対談、中国アニメビジネス最新事情 ① ~即日配信から5年、日本のアニメはもういらない?~
ジャーナリスト 長谷川朋子
テレビ東京がライセンスビジネスとして力を入れている『NARUTO』や『BLEACH』『遊戯王』などのオンラインゲームが世界でヒットしている。『遊戯王 DUEL LINKS』は全世界で4000万件ものダウンロード数を記録した。好調の背景には、テレビ東京がどこよりも早くアニメ作品の海外即日配信を始めたことが大きい。アメリカでは2009年1月から、中国では2011年12月から即日配信を開始した。
それ以前は日本の放送からアメリカで放送するまでのタイムラグは2年越しになる場合もあったというが、即日配信によって世界一斉に商品を売り出せるメリットが各地で喜ばれ、ビジネスに繋がっている。中国においては特に違法視聴対策にかけるコストを抑えることを目的に大手動画配信サイトのトゥードゥー(土豆:Tudou)とヨーク(優酷:Youku)を通じて、『NARUTO』をはじめとする人気アニメの広告付き無料動画配信を行うと、予想以上の早さでネット業者からライセンスに対する理解が深まっていった。取引先は現在4社に拡大している。
そのひとつがアニメに特化した中国の動画配信サイトで、コアファン層から高い支持を得ているビリビリ(嗶哩嗶哩:bilibili)である。「ニコニコ動画」によく似た個人によるファンサイトを元に、2009年に「ビリビリ」が誕生し、中国で運営法人設立を経て、日本アニメの正規ライセンスを取得、現在は公式配信によって視聴者を増やしている。テレビ東京とは2016年から取引を開始した。ファンサービスの一環として、大型イベントも展開し、7月21日から3日間にわたり、「BILIBILI WORLD 2017」が上海で開催されたところだ。
そんななか、今回の対談では、日本のテレビ局で唯一のアニメ局立ち上げに始めから関わり、テレビ東京をはじめ、日本のアニメビジネスの国内外の拡大に大きく貢献している川崎由紀夫氏と、東京大学卒業後に日中の文化交流事業に携わったのち、話題のビリビリの代表に就任した丁寧氏のお二人に、最前線にいる立場から中国市場におけるジャパンアニメビジネスの現状を語ってもらった。日本作品が中国で正規配信されて5年が経過した今、これから何が求められていくのかということも気になるところ。こうした今後の行く末も踏まえてお二人の話から学べるコトを探っていく。
■海外市場に入るには現地パートナーとの協力関係は不可欠
――テレビ東京さんは中国においてアニメビジネスをどのように展開しているのでしょうか。ビリビリさんを含め取引しているサイトとの付き合い方など教えてください。
川崎:テレビ東京は2011年から中国市場に向けて正規配信を始めました。違法動画対策として始めたものでしたが、この5年で着実にビジネスになっています。アメリカでも中国でも配信を始めて思うことが、やってみて経験をしないとその先に進めないということです。わかっていないことはどんどん穴を埋めて行く作業をひたすら続け、率先して理解していく。それは自分たちのためでもあり、アニメ業界全体のパイを守ることに繋がります。時にリスクも背負いながら、ビリビリさんみたいなところと協力していくことも大事です。現在、中国アニメ動画配信4社と取引しています。それぞれ特色があり、アイチーイー(愛奇芸:iQiYi)は中国インターネット検索最大手のバイドュ(百度)傘下の有料会員モデルでドラマが得意なところ。アリババに買収されたワンヴァージグループ(合一集団:1 Verge Group)が経営するトゥードゥー(土豆:Tudou)とヨーク(優酷:Youku)は投稿サイトから始まり、自社の作品に力を入れ、アイチーイーとは客層が違います。ルーティービー(楽視:LeTV)はハードメーカーだから自社のスマホやスマートテレビから囲い込みます。ビリビリさんはアニメに特化し、コアファンをしっかり掴んでいますよね。
丁 :ご紹介ありがとうございます。中国動画サイトの各プラットフォームとビリビリの大きな違いは若者に強いことにあります。中学生から大学生、中国で「90後(ジョウリンフォー)」と呼ぶ1990年代生まれの世代から支持されています。24歳以下のユーザーは全体の7~8割をも占めます。
――中国との付き合いはパートナー探しがカギにもなりますが、一方で良きパートナーに出会う難しさもよく指摘されています。
川崎:なかなか日本の1社だけでは海外の市場に入るのは難しく、その国その国それぞれの力のあるパートナーを作ることは不可欠。協力関係を結ぶことがぜったい条件でしょう。テレビ東京の場合、アニメに限らずアライアンスを組む文化が根底にあることも大きいですが、大事なことは単純な番組販売ではなく、ビジネスモデルを一緒に築くことができるパートナーと組むこと。担当者同士が理解し合っても残念ながら長続きはしないので、確固たるポリシーを持つリーダーと価値観を共有できることも大切です。中国でアニメ市場の拡大を引っ張っている丁社長もポリシーを持っていらっしゃいますよね。
丁:ありがとうございます。アニメファンの皆さんの欲しいサービスを提供して一緒にエンジョイして盛り上がりたいという想いから、この会社を立ち上げ、ユーザーの数も当初の数千万規模から億を超えました。アニメが好きなユーザーの層が広がっていることを切実に感じています。
■Eコマビジネスもファンが求めている穴を埋めて行く作業のひとつ
――アニメ周辺のビジネスが広がっています。具体的にどのような仕掛けを始めていますか? テレビ東京は中国・杭州市内にあるショッピングモールでEコマースビジネスを開始したところですよね。
※テレビ東京とグループ会社のテレビ東京ダイレクトは、中国の杭州市に本社のあるEコマース会社「SEAGOOR(シーゴール)社」と協力し、SEAGOOR社が杭州市内に所有するショッピングモールでEコマースビジネスを2016年4月から開始。2つのショップを作り、テレビ東京はアニメキャラクターの認知度が中国でも上がっていることから、アニメ関連の商品を展示・販売している。
川崎:テレビ東京としては中国市場でのアニメビジネスは配信、共同制作、商品化展開の3つをポイントに進めています。杭州の店舗は越境ECのテリトリーにあり、ショールームとして機能しています。グッズがディスプレイされているので、欲しい商品をWeChatペイなどでモバイル決済すると、自宅に商品がデリバリーされるというシステムになっています。レジを置く必要もなく、在庫を抱えるリスクもありません。管理もしやすい。日本も中国と同じように展開できれば、ライセンシーにとって在庫のリスクヘッジができますよね。何よりこれもファンからの声に応えて展開しています。ファンが求めている穴を埋めていく作業のひとつです。埋めていかないと、飢餓感が生まれ、違法に走ります。イベントも配信もお金儲けのためにやっていることだけ考えたら、ファンからはそっぽを向かれるでしょうね。結果的にビジネスになっていけばいい。いろいろな手段でその国のファンにアプローチしていかないと長続きしません。必ずしも日本と同じやり方でなくてもいい。協力を得て、広げていく必要があります。共同制作については、その市場のファンを知るためにも必要なやり方です。
丁:ユーザーのニーズにいかに応えていくか。バーチャルな空間だけでなくリアルも含めてみんなが欲しがっているものを提供することを考えています。ビリビリのキャラクターはバーチャルのアイドルのような存在で有り難いことに人気があります。ねんどろいどのフィギュアを作ったら、あっという間に5000個(販売価格2万円)が売れた熱狂ぶりでした。
川崎:いろいろな場面でビリビリさんのキャラクターを目にするので、人気ぶりがわかります。
――中国国内の制作力が上がることによって、取引やサービスにどのような変化が起こっているのでしょうか?
川崎:ここにきてテンセントが日本のアニメはもういらない宣言をしていると、中国側が報じました。
丁:マンガのラインナップが揃ってきたテンセントは1年半前から日本アニメの権利を購入していない様子です。中国で国産IPが少しずつ育ち、アニメ制作そのものは日本に委託しながら、IPは中国が持つというやり方を進めていますね。
川崎:確かに中国オリジナル原作が増えています。だから、日本のアニメを買わない宣言をしたのだろうと思いますが、理由はそれだけではないはず。どの国でもアニメというものに慣れ、市場が広がる段階に入ると、ターゲットが子供たちに下がっていく傾向があります。だから、中国は今、とにかく国産アニメに力を入れようと考え始めている。中国の子どもに向けて中国のオリジナリティあるアニメを増やしていきたいからでしょうね。中国子ども向けアニメ市場に入っていくには、日本の作品をそのままではなく、中国側と中国の作品として作らないと難しいでしょう。
丁:アニメを観て育ち、アニメ好きな人が増え、その世代が親になっています。ビリビリが好きなユーザーは自分の子どもにもアニメを視せるでしょうから、長期的な視野でアニメビジネスをするべきと、改めて思います。
テレ東×ビリビリ対談、中国アニメビジネス最新事情 ② ~アニメビジネスの基本はファンサービス、後からおカネは付いてくる?!~