アジア市場で存在感高まるローカル動画配信プレイヤー【APOSイベントレポート前編】
ジャーナリスト 長谷川朋子
アジアとグローバルのエンターテイメント企業のトップクラス人材が集結するイベントが「APOS」だ。メディア・パートナーズ・アジアが主催し、業界のビジネスの現状と将来像を共有する場として機能している。今年は9月24日~26日の3日間、インドネシア・バリ島で開催され、アジアとアメリカを中心に動画配信プレイヤーが出揃った。現地取材で注目したセッションを前・中・後編にわたってレポートする。
■インターネット、広告、VODの5年後予測
「APOS」に参加した企業数はアジアとアメリカ拠点の企業を中心に約70社に上った。アジアでエンターテイメントビジネスを展開する企業にとって重要なビジネスサミットとして位置づけられている。例年、インドネシア・バリ島のAYANAリゾートホテルを会場に開催期間中、キーノートからプレゼンテーション、クロストークまで各種セッションが組まれ、各社トップクラスが参加するミーティングも盛んだ。
オープニングはAPOS主催のメディア・パートナーズ・アジア共同創設者で、マネージング&エグゼクティブディレクターのVivek Couto氏による恒例のセッションから始まる。独自調査結果から分析したデータが報告され、アジアのメディア市場の変化から動画配信トレンドまで把握できる充実した内容の解説が行われた。
アジアのメディアの現状を大枠から捉えると、市場の形成に欠かせないのがインターネット、広告、VODサービスの3つ事業だ。Couto氏によれば、アジア市場におけるインターネット事業は現状の3160億ドル(約47兆円)規模から5年後に3730億ドル(約55兆円)に、広告事業は2040億ドル(約30兆円)から2520億ドル(約37兆円)に、VODサービスは720億ドル(約10兆円)から780億ドル(約11兆円)に増加を見込む。インターネット、広告、VOD共に成長基調にある。
「消費者がどのような方法でコンテンツにアクセスし、支払うのか。アジアのメディア市場はこの観点から今後5年の成長シナリオを描くことができる」とCouto氏が説明する。
アジアの場合、国によって経済状況は大きく異なり、経済成長が著しいインドやベトナム、フィリピンと、高水準のGDPながら成長率が1%以下の日本とでは単純に比較しにくいが、全体的にプレミアム動画配信サービスやコネクテッドTVにトレンドが移り変わっていることは確か。つまり、コンテンツ消費の傾向を見極めることで今後のアジア全体の市場状況が予測できるということだろう。
また「AmazonやGoogle、Metaなどグローバルテクノロジー企業がアジア太平洋地域でもエンターテインメントの状況を大きく変えている」とCouto氏が力説する通り、アメリカや中国の巨大テック企業の存在もアジアの市場成長に大きく影響している。Amazon、Google、Meta、ByteDance、Disney、Tencent、Netflix の7社合計の広告収益は5620億ドル(約84兆円)に上り、世界全体の60%を占めるという。
これら変化の影響を大きく受けているのは既存のテレビ広告事業だ。中国を除くアジア市場全体で2018年の約300億ドル(約4兆円)から、5年後の2029年には250億ドル(約3兆7千億円)規模に減少を見込む。一方、NetflixをはじめとするプレミアムVOD事業や極めて順調だ。2029年に250億ドル規模を予想し、テレビ広告事業とほぼ同じ規模に達する。YouTube単体でも2029年に130億ドル(約1兆9千億円)規模に増える見込み。プレミアムVODとYouTubeを合わせた収益はテレビ広告のそれを上回る予測が立てられている。
■トレンドはローカルプレイヤーのスポーツ配信
アジア全体で成長する動画配信市場についてさらに掘り下げられた。Netflixをはじめとするグローバルプレイヤーと各国発ローカルプレイヤーの対比がアジアの動画配信市場のトレンドだ。
Couto氏曰く、「動画配信が成熟した市場ではローカルプレイヤーがエンゲージメントをリードし、グローバルプレイヤーは収益性に重点を置く傾向が高い」という。調査結果からもそれは明らか。
実際に日本ではローカルプレイヤーのTVerとU-NEXT、Abemaがエンゲージメントをリードし、収益性ではNetflixとPrime Videoがリードする。韓国市場でも韓国最大手エンターテイメント企業のCJ ENMが運営するローカルプレイヤーのTVINGや韓国の地上放送3局と大手通信会社KTが運営するWavveのエンゲージメントシェアが高く、収益性においてはNetflixがリードしている状況である。
またCouto氏が注目したのはローカル動画配信プレイヤーによるスポーツ権獲得だ。配信プレイヤーのスポーツコンテンツはアジア全体でトレンドにある。「ローカルプレイヤーがユーザー獲得のためにスポーツを活用し続けている。主要なローカルプレイヤーにとって、ユーザー獲得のプロセスにおける非常に重要な要素になっている」とCouto氏は強調する。
Couto氏の説明によれば、インドではローカルメディアとパラマウントグローバルが運営するJioCinemaにおいて2024年前半の新規ユーザーの約8割がスポーツコンテンツをきっかけに流入し、マレーシアではローカルプレイヤーAstroGOにおいて新規ユーザーの約4割がスポーツきっかけという。日本においてはU-NEXTいおいて新規ユーザーの約1割、Abemaにおいて新規ユーザーの約2割がスポーツコンテンツから獲得している。
なお、日本の2024年第一四半期のトップ3配信スポーツコンテンツはメジャーリーグベースボール(Abema)、箱根駅伝(TVer)、MLBメジャーリーグ(Abema)であることが報告された。
「アジアのメディア市場はコンテンツの接続性と民主化によって再定義され始めている。ストリーミングとデジタル広告が今後もAPAC地域の成長を牽引していくだろう。アジアがこれほどまでに活気づいていることはかつてなかった。アメリカやヨーロッパと比べると、アジアはユニークな市場であるからこそ、市場の特性を受け入れ、理解することが今後の発展に繋がっていくはずだ」(Couto氏)
アジア市場の成長にグローバルプレイヤーたちも注目する。まさにAmazon プライム・ビデオは市場の特性に合わせた戦略で攻める。APOSのセッションで語ったAmazon プライム・ビデオのセッションの内容は中編に続く。