世界110か国が集結したコンテンツ流通ビジネス市場の最注目トレンド【MIPCOMカンヌ2024速報レポート】
ジャーナリスト 長谷川朋子
フランス・カンヌで開催された世界最大級のTVコンテンツ国際取引マーケット「MIPCOMカンヌ」(主催:RX)が現地時間10月24日(木)に閉幕した。40周年を迎えた今年は世界110か国から1万人強の参加者を集め、新設された「MIPイノベーション・ラボ」が核となって盛り上がりをみせた。出展社数を増やし、進化の過程にある国際コンテンツ流通業界を次のステージへと導くカギが示されていた。
■前年より出展社数27社UP、初出展は全73社
10月18日(金)のプレイベントから始まった「MIPCOMカンヌ2024」ウィークは連日、天気にも恵まれ、地中海の潮風を運ぶ会場の「パレ・デ・フェスティバル」に国際コンテンツ流通ビジネスに関わる世界中の業界関係者が一堂に会した。
会期の最終日前日の23日(木)に発表された数字によると、今年は世界110か国から1万500人が参加し、参加者数は昨年より若干下回ったものの、参加国数をコロナ禍前の水準に戻していた。国別ではアメリカからの参加者が最も多く、英国、フランス、ドイツ、スペインがそれに続く。なかでも今年の主賓国を務めたスペインは参加者数を大きく増やし、スペイン全体で172社以上、前年比でほぼ50%増加したという。
出展社数は347社と、前年の320社より増加したことがわかった。ナショナルパビリオンブースは34か国を数え、そのうちエジプト、マレーシア、ナイジェリア、カタールなどの10か国は初めてパビリオンブースとして出展。国を挙げてコンテンツの海外輸出を盛り上げようとする動きがみられた。
全体では合計73社が初出展を果たしたという。その多くは新たに新設された「MIPイノベーション・ラボ」に紐づくテック企業からの出展で占めた。「MIPイノベーション・ラボ」で企画されたセッションやラウンドテーブルには60社以上が登壇し、業界の未来を見据えるためにAIやデータサイエンスの視点を提供することが狙いにあった。
また国際コンテンツ流通ビジネスにおいて引き続きトレンドにある「コープロ(=国際共同制作)」を促進させる「プロデューサーズ・ハブ」の企画は3年目に入り、商談やネットワーキングの場として活用する参加者も多くみられた。
参加者数は総勢1万500人に上り、そのうちバイヤー数は3240人。当初の見込み数3500人より下回ったのは流通ビジネスの変化を受けたひとつの表れなのかもしれない。またキッズ専門スクリーニング&共同制作マーケット「MIPJUNIOR」(10月18日~20日)には62カ国から1000人が参加したことがわかった。
■トレンドワードは「ウィンドウ・フレキシビリティ」
MIPCOMカンヌおよびMIPロンドンのディレクターであるルーシー・スミス氏は現地で開催されたプレスカンファレンスで「今年で40周年を迎えたMIPCOMカンヌは他に類を見ない、決して見逃すことのできないイベントであることを証明した」と言い切り、変革の時にある業界の状況を捉えたイベントであることを確信している様子だった。
「国際コンテンツ流通ビジネスはテレビ市場の中核にあり、今、トレンドワードの1つにあるのが、“ウィンドウ・フレキシビリティ”(=流通ウィンドウの柔軟性)です。今回、会場で何度も耳にした言葉でもあり、新たな収益源を見つけるための鍵になっています。どのように適応させるのか、その答えを求めて業界は進化を求めているのです」と、今回のMIPCOMカンヌイベントを振り返った。
トレンドワードである“ウィンドウ・フレキシビリティ”については初日のセッション冒頭、フランスGlanceのシニア・ヴァイスプレジデントのFrédéric Vaulpré氏による恒例のリサーチ報告セッションでも言及していた。Vaulpré氏によれば、業界のトレンドは「PLATFORMISATION=プラットフォームのトランスフォーメーション」と「SCHEDULWING=流通ウィンドウのスケジュール化」にあるという。
「PLATFORMISATION=プラットフォームのトランスフォーメーション」は昨年よりMIPCOMカンヌのトレンドワードとして浮上し、アメリカから欧州に広がるFASTの流れを汲み、「放送局の配信ストリーマー化」と「配信ストリーマーの放送局化」の動きを表したものである。
また「SCHEDULWING=流通ウィンドウのスケジュール化」は最適なマネタイズを求めて流通ウィンドウの柔軟性を表す。番組権利もプラットフォームとしての配信権もそれぞれの権利確保期間においても、利益を追求するために柔軟に対応することが重要になっている。
こうした業界トレンドの変化の背景は、最終日の24日(木)のセッションでAmpere Analysisのエグゼクティブディレクター兼共同創設者のGuy Bisson氏が説明していた。Bisson氏は「グローバル配信プレイヤーのコンテンツ戦略が業界トレンドを作り出している」と話す。
またMIPの新たな顔となりつつあるNY在住メディアカルトグラファーのEvan Shapiro氏も業界トレンドを押さえたワードを発信し、変革の過程にある業界の課題を捉えながら「データこそが視聴者のリアルな声であり、マーケティングデータありきのコンテンツ戦略の統合化が今後の生き残りの鍵になる」と、データイズムを主張した。
これらセッションの具体的な中身については後日、レポートしたい。変革の中で日本も新しい風を吹かせていたことも印象的だった。注目すべきMIPCOMカンヌ2024のトピックは続く。