「TVerショート」や「高精度広告」などで全方位進化するTVerの最新戦略 〜TVer Biz Conference 2025レポート(1)
ライター 天谷窓大
10月24日、株式会社TVerによるオンラインカンファレンス「TVer Biz Conference 2025」が開催された。
本記事では、株式会社TVer 取締役 佐竹正任氏による「TVerサービスの現状」、株式会社TVer 広告事業本部 本部長 増村信也氏・株式会社TVer 広告プロダクト本部 本部長 大野祐輔氏による「TVer広告について」の2セッションをレポートする。
月間ユーザー数(MUB)が歴代最高の4120万を突破し、日本を代表する動画プラットフォームとしてますます存在感を高めているTVer。世の中のニーズをどのように見据え、新たな展開を仕掛けていくのか。サービス、広告の両面から、その展望を探る。
■8500万DL、CTV比率38.6%、そして「TVerショート」へ。数字と新機能で見るTVerの進化
最初に、株式会社TVer 取締役 佐竹正任氏が「TVerサービスの現状」と題してプレゼンテーションを行った。
TVerの累計アプリダウンロード数は8500万を突破し、直近5ヶ月で新たに500万増加。再生数やMUB(月間ユーザー数)も右肩上がりの成長を続けている。
佐竹氏は「ずっと成長を続けているのが今のTVerの状況」と述べ、「この成長は、ユーザー層の広がりによって支えられている」と分析。かつては若年層や女性が中心だったが、バラエティやスポーツコンテンツの強化によって男性利用者が増加し、さらに高年齢層の利用も進んでいるという。
「TVerのデモグラフィックは、非常にバランスのとれた円グラフになっている。利用地域も全国に広がり、ほぼ人口動態に近い形で利用されるプラットフォームへと進化した」
サービスの成長を牽引する最大の要因として、佐竹氏はコネクテッドTV(CTV)での利用拡大を挙げた。
「CTVでの再生割合は全体の38.6%に達し、その成長率は他のデバイスを大きく上回っている。各メーカーのテレビリモコンや『Amazon Fire TV Stick』のリモコンに『TVerボタン』が標準搭載される状況が、その普及を後押ししている」
ゲーム機として初となる「PlayStation 5」への対応など、新たなデバイスへの展開も積極的に挑戦。その一方で視聴体験の向上にも注力しており、「連続再生機能」が、1ユーザーあたりの再生回数と平均視聴番組数の向上に大きく貢献していると述べた。
コンテンツ面では、放送局との連携を深化させ、TVerならではの価値を提供している。
「東京2025 世界陸上」では、TBS系での地上波放送に加え、TVerでの全競技ライブ配信を実施。また、TBS系の朝帯バラエティ番組『ラヴィット!』では、GP帯以外で初となるレギュラー番組のリアルタイム配信を開始した。
さらに、人気ロックバンド「Mrs. GREEN APPLE」によるエンターテインメントショーのライブ配信を実施し、1年間にわたって独占無料配信を実施。放送局由来のコンテンツ以外にも幅を広げ、新たな視聴シーンの創出に取り組んでいる。
今後の注力領域として、佐竹氏は2つの大きな取り組みを挙げた。
一つは、縦型ショート動画サービス「TVerショート」。TikTokやInstagramのリールのようにスワイプ操作で視聴でき、本編再生へのスムーズな誘導を図る仕組み。佐竹氏は「若年層に非常に良い親和性の高い新たな見方なのではないか」と期待を寄せる。
もう一つは、2026年に開催されるミラノ・コルティナ冬季五輪。TVerでは、パリ五輪に続き、ほぼ全競技のライブ配信を実施する計画だ。今回は、ライブも含めた全コンテンツをCTVでも配信するという。
プレゼンテーションの最後に佐竹氏は、今後、プロ野球日本シリーズの全試合配信、「視聴数で過去最高を記録しているのではないかと聞くほどに好調」な10月期ドラマ、年末年始の特別番組、そして優れたコンテンツを表彰する「TVerアワード」と、多彩な重量級コンテンツが目白押しであることを強調。
「日本にTVerがある幸せ」とスローガンを掲げつつ、「各方面の方々と一緒にこれからもTVerを強く大きくしていきたい」と力強く述べた。
■TVer広告は売上昨年比221%増 認知獲得とミドルファネル促進に高い効果を実証
「TVer広告について」では、まず株式会社TVer 広告事業本部長の増村信也氏が登壇。動画広告市場におけるTVer広告の立ち位置を踏まえながら、大幅な売上増の背景にある各ソリューションの有効性について解説した。
電通が発表した「2024年 日本の広告費」によれば、TVerの属する「テレビメディア関連動画広告費」市場は、前年比147%増の653億円に到達。
増村氏は、「市場は順調に成長しているものの、8439億円におよぶ動画広告市場全体から見れば、テレビメディア関連動画広告市場はまだ小さい」と述べ、「TVer広告にはまだまだ伸びしろがある」と、今後の売上拡大に強い意欲を見せた。
「かつては複雑とされた広告商流だが、現在は放送局各社が販売する予約型広告と、TVer社が提供する運用型広告『TVer広告』、提携DSP経由で販売される『TVer PMP』などに整理された」と増村氏は語り、KPIや目的に応じて使い分けることの重要性を強調。
TVer広告の2024年度実績は、売上高で前年比221%増、広告主数は前年比187%増の2138社に達するなど、市場全体の成長率を大きく上回る躍進を遂げた。2025年度についても堅調に成長しており、上半期の時点で昨年同時期比206%の成果を上げている。
急成長の要因について増村氏は、「TVerサービス自体の成長によるリーチと広告在庫の拡大をベースとしながら、特にパートナープログラムの進化と、広告主が自ら入稿を行える『セルフサーブ機能』の利用拡大が大きく貢献した」と分析。
2023年6月に提供を開始した「セルフサーブ機能」については、2024年度に売上が前年比524%増と爆発的に伸長。TVer広告全体の成長を強力に牽引していることをデータの面でも示した。
TVer広告では、効果計測ソリューションの拡充にも注力。ブランドリフト、サーチリフトに加え、ビュースルー(別ルートでの来訪によるコンバージョン)を含んだサイト来訪計測や、購入領域における来店計測や購買分析まで、ファネル全体をカバーする多角的な効果計測体制を整備している。
「複数の動画プラットフォームにおけるサイト来訪効果を比較した調査結果では、TVerが他プラットフォームと比較して高いリフトアップを示した」と増村氏。「認知獲得だけでなく、ミドルファネルの促進にも高い効果があることを示せた」とアピールした。
■外部DMPとの連携が大幅に拡充 一時停止画面に表示する「ポーズ広告」も開発中
後半では、株式会社TVer 広告プロダクト本部 本部長の大野祐輔氏が登壇。今後のプロダクトアップデートについて説明した。
「セルフサーブ機能」はシステムをリニューアルし、今後新たなターゲティングメニューを追加予定。さらに外部データ連携先として、従来のインティメート・マージャーに加え、ロイヤリティマーケティングとの接続が完了した。
さらに、博報堂DYメディアパートナーズの「AudienceOne」や、Supershipの「Fortuna」とも接続予定。これにより、TVerのファーストパーティデータだけでは実現できなかった、より高度なターゲティングが可能になるという。
さらに大野氏は、新たな広告フォーマットとして「ポーズ広告」を開発中であると発表した。
「ポーズ広告」は、ユーザーが本編視聴中に一時停止した際、画面上の空きスペースに広告を表示するもの。「半数以上のユーザーが利用する一時停止機能に着目した新しい試み」と大野氏は述べ、「来年のできるだけ早いタイミングでのリリースを目指している」と語った。
最後には再び増村氏が登壇し、「TVerはテレビの信頼性とデジタルの柔軟性を兼ね備えた、まさに唯一無二のプラットフォーム」と改めて強調。
「広告主のマーケティング活動に貢献するため、今後も尽力していく」と述べ、セッションを締めくくった。