“特化型チャンネル”でCTV価値最大化 「FASTチャンネル」が掘り起こす視聴ニーズ
編集部
BBM株式会社 代表取締役CEO 福崎伸也氏
コネクテッドTV向けプロダクトやコンテンツ開発を手掛けるBBM株式会社の関連会社・FAST株式会社による広告収益型の無料映像配信(FAST:Free Ad-Supported Streaming Television)サービス「FASTチャンネル・V FASTチャンネル」(以下、「FASTチャンネル」)が注目を集めている。
コンテンツ提供者の参画は無料で、挿入される広告収入を分配するビジネスモデル。従来の総合編成型とは一線を画し、ライフスタイルにおけるさまざまな専門性に特化したチャンネル編成が特徴だ。「キュレーター」と呼ばれるコンテンツ配信者には北海道、東海、九州のローカル局をはじめ、大阪ガスなど非放送局系の企業も含め、多様なプレイヤーの参画が進んでいる。
国内では異色の独立系FASTプラットフォームとして、勝機をどこに見出しているのか。「検索したくない時代に寄り添う」という志向の背景とは。今回はBBM株式会社 代表取締役CEO・福崎伸也氏に、サービス立ち上げの経緯から、チャンネル編成の座組、視聴体験を通じた狙いを伺った。
■会員サービス企業向け「専用コネクテッドTV」事業が母体
——BBM社の事業内容、FAST社設立の背景についてお聞かせください。
福崎氏:FAST社の母体であるBBM社は、2017年にアクセンチュアの映像配信特化部隊から独立した企業です。主にGoogleからライセンスを取得し、各事業者様向けにAndroid TVやGoogle TVなどをカスタマイズしたサービスを提供しています。
BBM社ではこれまでにホテルやケーブルテレビ、不動産会社、エネルギー会社といった会員基盤を持つビジネスパートナー様向けに専用のセットトップボックスを開発して導入し、それぞれのサービス利用者に向けたポータル機能つきのコネクテッドTVサービスや、提供サービスに付帯したSVODサービスの視聴権提供の仕組みなどを構築してきました。
当社の事業マップでは、映像配信やEコマース、ホームIoTといった既存のサブスク型サービスと並んでFASTを位置づけています。BBM社としてのサービスは、ユーザー課金による収益の一部をレベニューシェアするモデルですが、FAST社はユーザー課金ゼロで、広告収益を原資としてパートナー企業やコンテンツホルダーに還元します。ビジネスモデルが根本から異なるため、広告型に特化した専門会社としてFAST社を分社化しました。
——FAST事業参入の経緯についてお聞かせください。
福崎氏:スマートフォンやPCの世界ではCookie規制などで個人特定が難しくなり、広告単価が下落傾向にあるなか、ユーザーの地域や属性が特定でき、大画面で複数人に視聴されるコネクテッドTVに大きな可能性を感じていました。
直接的なきっかけは、2023年ごろに参加した「Google TVサミット」です。米国ではジャンル特化型のFASTチャンネルが視聴シェアを獲得し、放送局のテリトリーに食い込む動きが活発化しているという現状を知りました。
その際、Googleの関係者から、「君たちはしがらみのないベンチャーだから動きが早い、技術供与するからサービスを作ってみたら?」と提案を受け、まずはチャレンジしてみようと参入を決めました。まだ知見がない状態からのスタートでしたが、膨大な技術書を必死に読み込み、1年かけてサービス構築に漕ぎ着けました。
■FAST先進の米国にならい、特化型チャンネルの「共和国制プラットフォーム」を志向
——「FASTチャンネル」ではコンテンツ提供者が「キュレーター」と位置づけられています。どのような背景からこの形式に至ったのでしょうか。
福崎氏:すでに数千のFASTが乱立する米国において、日本のような総合編成型のチャンネルは全く流行っていません。チャンネル数が膨大だからこそ、「特化型チャンネル」でなければ絶対に受け入れられないと、Googleの担当者にも助言されました。
FASTの真髄は「ながら視聴」にあると考えています。たとえば、「食事の時に少し寂しいからつけておく」「自分の好きな世界観に部屋を浸らせる」といったニーズです。キャンプが好きな人が、部屋の中でチルアウトするためにキャンプ番組をつけておけば、ずっとキャンプの世界観をエンジョイできるというわけです。
もしこれが総合チャンネルで、バラエティの後に突然アニメやニュースが始まれば、ユーザーはチャンネルを変えてしまいます。それをさせないためにも、完全に特化された心地よいチャンネルを流し続けてもらい、そこに自然に広告を挿入して収益化するモデルが必須だと考えました。
そうなると、ジャンルを極めた「プロのキュレーター」が必要になります。例えば旅行ジャンルにおいて、当初はCSの旅行専門局なども検討しましたが、「もっとプロがいるのではないか」と考え、JTB様にお声がけしました。もともと同社では旅行系YouTuberへの支援を通じて非常に質の高い映像資産を豊富にお持ちであったこともあり、「ぜひやりたい」と参画が決まりました。
このように、CS局などの既存の放送事業者に留まらず、映像に力を入れているジャンル特化型の企業様から広くコンテンツを募っています。
例えばメ〜テレ(名古屋テレビ)様が手がける「キャンプチャンネル」では、キャンプ好きが集まる他社の優れた作品も巻き込んで編成いただくなど、そのジャンルにふさわしいものを集約する「プロフェッショナルなキュレーター」に立っていただく方針をとっています。
■独立自治のチャンネルを束ねる「共和国制」 オウンドメディア感覚で番組編成
——番組配信にあたっての編成や権利処理などはどのように行われているのでしょうか。
福崎氏:「FASTチャンネル」における当社は、プラットフォームの仕組みとマネタイズのための広告システムを提供することに特化しています。契約上、各チャンネルはすべてキュレーター企業様が独自運営する自社チャンネルという位置づけであり、編成や権利処理なども、各社様で行っていただくことを前提としています。
国内における他のFASTサービスでは、配信される番組の著作権をプラットフォーム側が一括して管理するイメージですが、FASTチャンネルの場合、各チャンネルの編成権や著作権は当社で保有せず、完全にキュレーター企業様の自治となっています。我々はこれらを束ねるプラットフォームとして広告収益を分配する、いわば「共和国制」のビジネスモデルを採用しています。
——FAST株式会社はあくまでインフラに徹し、コンテンツのマネージメントと明確に分離しているのですね。
福崎氏:まさにその通りです。我々は独自のCMSを各社に開放しており、自由に編成作業を行っていただけるようにしています。
担当者様はシステムにログインし、自社の映像素材をドラッグ&ドロップで編成表に貼り付けていくだけで、簡単に「6時からはこの番組、7時からはこれ」と24時間の放送枠を組むことができます。「広告を何分ごとに入れるか」といった設定も、ボタン一つで可能です。
この手軽な編成ツールこそが当社の大きな強みです。各社様も「これなら大きな工数をかけずに運用できる」と納得いただき、今ではすべて内製されています。専門の編成会社を挟んで多大なコストをかける必要はありません。
実際に、チャンネルの担当者様がすべて一人で編成を手掛けられているというケースもあります。その方いわく、「自分自身、提供するジャンルを愛しており、ユーザーの気持ちが分かるから、自分で編成するのが一番早い」とのことでした。この手軽さがあるからこそ、次々と新しいチャンネルが開設されているのが現状です。
——WEBの世界ではオウンドメディアの構築がブームになりましたが、現在はその動きがそのままFASTへと移行しているということでしょうか。
福崎氏:そうですね。北米のコネクテッドTV市場の隆盛をウォッチし、YouTubeやTikTokで自社チャンネルを運用しつつ、次の時代の資産として、いち早くこの領域に乗り出そうという先見性のある企業様が手を挙げてくださっています。
■「検索したくない」というニーズ──ただ心地よく眺めていられる空間を作る
——大手の動画プラットフォームが存在する中で、「FASTチャンネル」独自の魅力はどこにあるのでしょうか。
福崎氏:一言で言えば「テレビ画面であること」に尽きます。スマートフォンやPCで能動的に視聴するのではなく、リビングの大画面で、かつてのテレビのように放送型で「つけっぱなし」にして流れてくる。この空間の演出力こそが最大の魅力です。
オンデマンドで能動的に見るならスマホの方が利便性が高いですが、リビングという特別なスペースで流しっぱなしにする心地よさは、テレビならではと言えるでしょう。多くの企業様が、この「リビング空間を押さえられる点」に強い魅力を感じてくださっています。
——ユーザーが能動的に選ぶ場所ではなく、生活空間に溶け込む場所にアプローチできるという点が肝なのですね。
福崎氏:まさにその通りです。我々は日々、文字入力やクリックで情報を調べていますが、それはあくまで、必要に駆られた目的意識がある時の行動です。そこまで集中して見たいものを能動的に探すエネルギーは、生活のほんの一部に過ぎません。映画や最新ドラマを本気で楽しむ時は、リソースを集中させてNetflixなどのSVODを発動させますが、「ながら視聴」の時は、そこまでの労力を割きたくないでしょう。
ソファーの背もたれに体を預ける姿勢を、Googleの担当者は「リーンバック(Lean back)」と呼んでいました。仕事から帰ってきて、ソファーにバタンと倒れ込み、「あぁ、疲れた」と言ってリモコンをポチッと押した時に流れてくる、そのシーンに寄り添うものこそがFASTである、という思想です。
検索ができない、あるいは検索したくない時に、ただ心地よく眺めていられる空間を作る。これこそがFASTの神髄です。Googleという検索の巨人が「みんな検索なんてしたくないはずだ」と語るのは非常に面白いパラドックスですが、実のところ、これが本質なのだと思います。
■放映1分前に入札 国内初のリアルタイムプログラマティック広告を実装
——プラットフォーム機能として大きな特徴を持つものはありますか。
福崎氏:コンテンツをCMS上でタイムラインに配置して番組表を編成し、定期的にCMを自動挿入して24時間放送のストリームを作る配信基盤に加え、挿入される広告を従来の固定型ではなく、インターネット広告のオープンオークション(プログラマティック広告)とリアルタイムで完全連動させる仕組みを、国内でいち早く実用化しました。
システム側では、個人を特定しない形で端末の位置情報や地域・属性情報を瞬時に識別し、これをもとに配信されるCMの1分前に、バックエンドでリアルタイム入札が行われます。「この属性のユーザーであれば、どの広告が良いか」といった競り合いが裏側で瞬時に行われ、落札されたターゲティング広告がストリームに滑り込んで流れる。こうしたリアルタイムオークションによる広告挿入技術が、我々の基盤の核となっています。
——キュレーター企業側でも視聴データにアクセスできるのでしょうか。
福崎氏:各キュレーター企業様には専用のCMSダッシュボードを完全に開放しており、何時にどれだけのユーザーが流入し、どの番組がどれくらい視聴されたかがデイリーで可視化されます。このデータを元に、番組編成へのフィードバックと改善を高速で回せる環境も整えています。
——キュレーター企業からは、どのような反響や声が届いていますか。
福崎氏:データの透明性が高いため、非常に面白い発見があると喜ばれています。結論から言えば、予測のつかない数値の動きも多く、「なぜこの時間にこれほど伸びるのか」と。しかし、その正解が分からない試行錯誤のプロセスこそが、メディア運用の醍醐味だと盛り上がっています。
■ゴールデンタイムは17時〜20時 「SVODの前後にながら見」傾向が明らかに
——「FASTチャンネル」の視聴動向として特徴的なものはありますか。
福崎氏:当初、我々はテレビのゴールデンタイムと重なる20時〜24時ごろに視聴のピークが来ると考えていましたが、結果は予想に反して17時〜20時であることが分かりました。
さらに20時を境にして、ユーザーが一斉にNetflixやU-NEXT、Amazonプライム・ビデオといった有料SVODアプリ、あるいはTVerを起動していることが分かりました。夕食時の「なんとなくテレビをつけておく時間」としてFASTが視聴され、ご飯を食べ終わって本格的にエンタメを楽しむ時間帯になると、有料の映画や最新ドラマへと移行していくというわけです。
そして深夜、それらのコンテンツを見終えて集中から解放されたユーザーが、再びFASTの趣味チャンネルに戻ってきて、27時頃まで流しっぱなしにする。結果として、FASTチャンネルの視聴データは夕方と深夜に2つの山ができるという、非常にユニークなM字型のデータになることが明らかとなりました。
こうしたリアルな動向を踏まえ、キュレーター企業様も編成を工夫されているのが現在の面白い状況です。
■Google TVに専用リモコンボタン搭載 ケーブル局向け「有料ハイブリッド配信」も開始
——リビングという特別な空間にアプローチする中で、この「FASTチャンネル」の認知度をさらに高めるための、次なる戦略やアプローチについて教えてください。
福崎氏:実は、今秋からサービス名を「Free TV by FAST」へと刷新します。さらにGoogle社と完全な協業体制を組み、新しいGoogle TVに「Free TVボタン」が標準機能としてネイティブ実装されます。
Google TVの新しいリモコンには、Netflixなどと並び、青色の大きな「Free TVボタン」がオフィシャルで搭載されます。インターネット放送チャンネルがGoogleの純正機能として正式に格上げされて組み込まれることは、メディア環境的にも大きな転換点になると確信しています。
——今後の「FASTチャンネル」の次なるビジョンや、新たな展開についてお聞かせください。
福崎氏:現在、地方のケーブルテレビ局様に向けた、「有料チャンネル+FASTチャンネル」を統合したハイブリッド型の新しい配信事業計画を推進しています。
具体的には、配信権のある優良コンテンツを集約し、FASTチャンネルの仕組みを用いて24時間のリニアチャンネルとして再構築するものです。これにより、従来のケーブル放送に代わる「新・デジタルケーブル放送」が作れるのではないかと考えています。
FASTの仕組みを応用し、コンテンツのバリューを高めて有料化すれば、ユーザー体験としては従来のテレビ放送と何ら変わりません。もちろん、CS放送などと同様に、番組内には広告も挿入します。
これを当社の新しい「Google TV内蔵ホームスティック端末」とセットにして、「有料専門12〜15チャンネル+無料FAST20チャンネル+Netflix、U-NEXTの視聴権」といったパッケージに仕立て、地方のケーブルテレビ局様向けに極めて低コストな「次世代プレミアムパック」としてOEM供給する計画です。すでにケーブルテレビ局様からは「ケーブル放送のIP化を進める上でも、合理的で魅力的だ」と反響をいただいています。
この仕組みが導入されると、ユーザー画面には、従来の無料FASTチャンネルのタイムラインとともに、違和感なくプレミアムな有料専門チャンネルが並ぶことになります。一つのシームレスな「次世代インターネット放送群」として、優良な専門チャンネル群をFASTと同じ手軽さでザッピングできるようになります。
この有料ハイブリッド化によってコンテンツのクオリティが飛躍し、ユーザー数が爆発的に増えれば、挿入されるオープンオークション広告の価値も上がることにつながります。これによりコンテンツホルダーへの還元もさらに増えるという、強力な正のループを期待しています。
■キュレーターとしての参加料金は無料 必要なのは「24時間回せるコンテンツバリュー」
——「FASTチャンネル」の仕組みに参画したいと考えた場合、どのようなプロセスや条件が必要になるのでしょうか。
福崎氏:まずは当社の窓口へお問い合わせをいただければ、専門の選定・アライアンスチームが丁寧に対応させていただきます。
なお、参画にあたっては、特定ジャンルに特化した明確なコンセプトをお持ちであること、すでに運用されている他社様のチャンネルと内容が完全に重複しないこと、そして24時間365日の放送枠をストリーミングで回し続けられるだけの確固たるコンテンツのボリュームとバリューを担保いただけることが前提となります。
これらの条件を確約いただける事業者様であれば、ぜひ前向きに契約を締結させていただき、具体的なローンチ時期に向けて並走させていただきたいと思います。
また、配信を導入したいというケーブルテレビ局様や各種プラットフォーマー様に対しても、事業規模や展開エリアに応じた最適な導入プランをご提案する体制を整えています。チャンネルを開拓したいキュレーター企業様、出面を広げたいインフラ事業者様の双方に向けて常にオープンな窓口を設けておりますので、ぜひお気軽にご連絡ください。
■会社概要
FAST株式会社
https://fastv.jp/footer/company.html
「FASTチャンネル・V FASTチャンネル」
https://fastv.jp/