「72時間ホンネテレビ」の衝撃と動画配信プラットフォームのこれから~Inter BEE「配信新時代 ~キー局とプラットフォーム~」
編集部
2017年11月15日~17日に幕張メッセ(千葉市美浜区)で、音と映像のプロフェッショナルが集う国際放送機器展「Inter BEE 2017」が開催された。3日間で過去最多となる出展者数1,139社・団体と38,083名の登録来場者数を記録するなど、今年も大きな盛り上がりを見せていた。
本項では注目を集めた基調講演の中から、「配信新時代 ~キー局とプラットフォーム~」をレポートする。
(モデレータ)
・塚本 幹夫 氏
株式会社ワイズ・メディア 代表取締役 メディアストラテジスト
(パネリスト)
・太田 正仁 氏
日本テレビ放送網株式会社 インターネット事業局 インターネット事業部 部次長
・大場 洋士 氏
株式会社テレビ朝日 総合ビジネス局 デジタル事業センター長
・茂川 博史 氏
株式会社東京放送ホールディングス 総合戦略局 総合戦略部長
・蜷川 新治郎 氏
株式会社テレビ東京ホールディングス コンテンツ戦略室部長
・野村 和生 氏
株式会社フジテレビジョン 総合事業局 コンテンツ事業センター コンテンツデザイン部 部長職
■AbemaTV「72時間ホンネテレビ」の衝撃は?

毎年人気を集める基調講演。今回は、モデレータを努めた塚本幹夫氏(株式会社ワイズ・メディア)が、「各局の配信事業戦略というよりも、プラットフォーム戦略について伺いたい」と口火を切ることにより、より焦点が絞られたものになった。
まず、11月2日~5日の72時間で7,400万超の総視聴者数(AbemaTV調べ)を記録したAbemaTVの「稲垣・草なぎ・香取3人でインターネットはじめます『72時間ホンネテレビ』」について触れた。

「積み上げだとはいえ、視聴者数はかなり予想を上回ってすごいこと。」(日本テレビ放送網株式会社・太田正仁氏)

「以前の『亀田興毅に勝ったら1000万』の時が1,200万くらいだったので、日数分と話題性を考えたら、だいたい予想はついていました。事前に出演者を使う番組宣伝の仕方には非常に注目する点がありました。」(株式会社東京放送ホールディングス・茂川博史氏)

「インターネットのムーブメントを起こすためのツールをふんだんに使ってリアルタイムでやったのが上手いなと感じました。」(株式会社テレビ東京ホールディングス・蜷川新治郎氏)

「お金も含めて、ここまでかけるパワーがすごいと感じました。7,400万という数字も、観る環境や回線の速度が整ってきたということで、こういう時代が来たのかと実感しました」(株式会社フジテレビジョン ・野村和生氏)

以上のような評価を受けたうえで、AbemaTVのパートナーである株式会社テレビ朝日の大場洋士氏は「話題性もあり反響も大きかった。一方でAbemaTVはまだ開局から2年も満たないですし、WAU1,000万という当面の目標に向けて、まだ道半ばとの認識です」と述べた。
■各社のプラットフォーム戦略は?

続いて、各社によるプラットフォームに対する取り組みのプレゼンテーションに移った。
日テレのサービスプラットフォームは、ADVOD「日テレ無料TADA!」、TVODの「日テレオンデマンド」、SVOD「hulu」だ。太田氏は「これらが連携することで、見逃し配信などを入り口に地上波への還元や有料VODへの誘導を可能しています。配信の広告売上は単年で黒字化を達成し、Huluのコンテンツ数、ユーザー数も順調に規模を拡大しています」と述べた。

テレビ朝日は「テレビ朝日360° 2017-2020」という経営計画を進めている。大場氏は「Television、Satellite(BS)、Satellite(CS)、Internet、Media Cityのすべての価値の源泉はコンテンツで、この中で動画配信は何をすべきかを考えている」と述べ、「テレビ朝日のコンテンツに触れてもらい好きになってもらうために、新しい事業展開を行っています」と語った。


TBSは動画配信が非常に伸びているなか、PPJ(株式会社プレミアム・プラットフォーム・ジャパン)を設立した。株主比率はTBS-HD31.5%、日本経済新聞社16.6%、テレビ東京HD14.9%、WOWOW14.9%、電通14.8%、博報堂DYメディアパートナーズ7.3%となっている。茂川氏は「最後発ながらもパートナーの連携によりユーザーに楽しんでもらえるサービスを目指します」と意気込みを述べた。なお、PPJは社名であり、サービス名称はまもなく発表になるという。

テレビ東京の蜷川氏は、「『テレビが100%リーチではなくなった』『新聞のラテ欄に代わるプロモーション』『デバイス・サービスへの最適化』『データが不足している』といった課題に対し、各社とのパートナーシップを結び協調することで、テレビ東京のコンテンツはどこにでもあって、ネットで一番愛されるテレビ局になることを目指す」と語った。

フジテレビはフジテレビオンデマンド(FOD)の顧客誘導の導線を整理した。野村氏は、「ADVOD、SVOD、TVODの配信による導線をFODに一本化し、会員獲得だけではなく、客単価を上げることを狙っています。FODの特長となる『雑誌やマンガも読める』動画配信プラットフォームであること、名作ドラマやバラエティ番組が独占見放題であることなどの強みをさらに活かしていきたい」と語った。

■放送同時配信に対する見解は?
続いて行われたディスカッションでは「各局がプラットフォームに積極的に参画する意味」「サードパーティのプラットフォームへの対応」「無料広告見逃し配信の今後」「系列局への対応」「放送同時配信に対する見解」について意見交換が行われた。
ここでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前にして注目が集まっている放送同時配信について、ディスカッションの様子をお伝えする。
日本テレビの太田氏は、「現状の技術では、デバイスごとで数十秒ほどのずれは避けられない。その中で『同時』という定義にこだわるのは疑問です。それと地上波の『同時配信』と、コンテンツのリニア配信は別のものだとちゃんと定義すべき」と語り、テレビ朝日の大場氏は「AbemaTVの編成と地上波の編成は違うように、ユーザーにとっての同時配信の意味合いも考えるべきだ。」だという見解を示した。
TBSの茂川氏は「権利問題に対してどう対応していくかが前提としての問題となります」と指摘し、テレビ東京の蜷川氏は「ユーザーとしては、いつでも観られた方がいい。今のサービスに加えることが重要かと思います。」と語った。
そして、フジテレビの野村氏は、「あくまでもサービスとして展開すべきで、マネタイズを考えるから話がややこしくなるのではないでしょうか。」と述べるなど、各社ともに厳しい見解が出ていたが、2020年に向けて今後もさまざまな動きが出てくると予想され、目が離せないテーマであることは確かだ。
「ネットオリジナル番組」による社会的規模のムーブメントがついに起こった2017年秋。本基調講演は予定時間を大きく延長するほどの熱いプレゼンテーションと議論が行われた。動画配信プラットフォームに対する各局の意識の強さから、コンテンツ制作の新たな潮流の誕生を予感させられた。