「フェイクニュース」と「ファクトチェック」時代のネットニュースへアプローチ~Inter BEE「テレビ局のネット報道はどうなっていくのか?」レポート
編集部
幕張メッセにて、2017年11月15日(水)より3日間、音と映像と通信のプロフェッショナル展「Inter BEE 2017」が開催された。2019年までの3年間は「コンテンツ」をテーマの中核に位置づけているInter Bee。「つくる(制作)」「おくる(伝送)」「うける(体験)」の領域を網羅し、メディアコミュニケーションとエンターテインメントの最新テクノロジーを集約した総合イベントへの発展を目指していく。
期間中は放送と通信の融合をプレゼンテーションで提案する「Inter BEE CONNECTED」が行われ、11月16日(木)には「テレビ局のネット報道はどうなっていくのか?」と題されたセッションが開催された。
モデレータを務めるのはNHK放送文化研究所メディア研究部・主任研究員の村上圭子氏。パネリストとして、フジテレビ総合事業局・ニュースコンテンツプロジェクトリーダーの清水俊宏氏、日本テレビ報道局・サイバー戦略部長の宇佐美理氏、NHK報道ネットワーク報道部・副部長の足立義則氏の三者が登壇した。
■テレビ局のネット報道の現状、確かな情報で信頼されるメディアに
冒頭、モデレータの村上氏からネット上での「ニュースメディア」の現状について、概要が説明された。成立軸(マスメディア系/ネットサービス系)と、内容軸(テキスト中心/動画中)で分類しているが、プレイヤーが多い。そんな中でテレビ局のネット報道サービスは存在感が薄れているのではないか、という一方で近年フェイクニュースが話題になるなど情報の「正確性」が重要視されてきており、テレビ局が提供するニュースへの信頼度は増しているともコメントした。
また、「正確に」ニュースを発信することと、同じくらい、「広く」ニュースを発信することも重要。そこで、分散型メディアにも積極的に展開している。しかし、「あれもこれもやっているのが現状で、どういう理念やコンセプト・戦略で提供しているのかわからなければ、ユーザーも何を選んでいいのかわからず、存在感を示せない」と村上氏は指摘する。それを踏まえて、パネリストに対して「それぞれのサービスの理念やコンセプトをキャッチコピーにして話してほしい」と投げかけた。
■各社のコンセプトと取り組み
日本テレビの宇佐美氏はまず、現状を「活字」を読まない、「文字の時代」と分析。その上で自社のサービスに「文字の時代のテレビニュース 『ライブ配信を拡張する』」というキャッチコピーをつけた。「ニュース番組制作において培ってきたパッケージの力とライブ映像はテレビ局の持つ強み」とし、これを最大限活かす取り組みが紹介された。まずは、CSで放送している「日テレNEWS24」のライブ配信を日テレのWEBサイト、Yahoo!、Huluで開始。2分程度の短尺動画や、インフォグラフィックを取り入れた動画など、ネット視聴を意識したコンテンツで構成された番組「the SOCIAL」もスタートする。さらに、12月には新アプリをリリース。新アプリではライブ配信でありながらニュース単位でスキップと巻き戻しができるなど、途中から見続ける必要があったワンセグの弱点を解消する機能を備えている。
フジテレビのニュースサイト「ホウドウキョク」の運営責任者である清水氏がつけたキャッチコピーは「テレビニュースとの自由な付き合い方」。「ホウドウキョク」は2016年10月にリニューアルし、PV数が50倍以上に伸びたが、その要因の一つが「届け方の重視」だ。速報性は重視しつつもライブ番組形式にこだわらず、短尺動画やテキストといったフォーマットから、例えばinstagramであれば若い女の子が好きそうなものにする、Yahoo!であれば少しかためなど、内容や見せ方を変えているなどの工夫を行っている。また清水氏はNewsPicksでの番組配信や、選挙特番でのTwitterとの連携についても言及し「自分のプラットフォームにこだわっていない」とも述べていた。
NHKの足立氏のつけたキャッチコピーは「『不安な国」で頼りになるメディア」。東日本大震災を契機にテレビでの情報提供に限界を感じ、必要な情報を必要な人に伝えることを目指して、自社のネット報道アプリを「パーソナルなメディア」と位置付けている。加えて、社内でソーシャルリスニングチーム「SoLT」を運営。情報の需給のミスマッチを防いだり、、情報の精査を行ったりしている。頼りになるメディアとして「ファクトチェックは、何をチェックするのか、正しい情報をどう拡散させるかが難しい」と足立氏は付け加えた。
■ネット報道が、放送に影響を与える存在に
続いてのディスカッションでは、次の3点のテーマがモデレータの村上氏から提示された。
1、編成型ライブ(同時配信を含む)と分散型展開のバランスは?
2、「ファクトチェック時代」 ネット報道に取り組むテレビ局の向き合い方は?
3、地域ニュースへの対応は?(ローカル局との関係性も含む)
まず、「編成型ライブ(同時配信を含む)と分散型展開のバランス」について、「編成型ライブ」の日本テレビ・宇佐美氏と「分散型」のフジテレビ・清水氏がそれぞれのマネタイズの現状と今後の展望に触れ、「まずは見てもらうことが大切」と意見の一致をみた。
続いて、「『ファクトチェック時代』ネット報道に取り組むテレビ局の向き合い方は?」というテーマに議論が移る。まず、村上氏から、今年6月、ネット上のニュースに携わるジャーナリスト、研究者、市民によって立ち上げられた「ファクトチェック・イニシアティブ」の活動を紹介。NHK・足立氏は「ファクトチェックが盛んに行われるのは、世界的な流れ」とコメント。日本テレビ・宇佐美氏は「テレビ報道自体がチェックされるのは当然で、どんどんやってもらえばいい」と話した。
最後に「地域ニュースへの対応は?(ローカル局との関係性も含む)」については、まず日本テレビ・宇佐美氏とフジテレビ・清水氏が、SmartNewsなど分散型メディアにニュースを出すローカル局へのノウハウの提供などは行って行きたいとしつつも、SmartNewsなど分散型メディアへ直接ニュースを提供するローカル局との距離感の難しさについて言及。NHK・足立氏は「地方にはネットのコンテンツを作る製作陣がいないので、こちらでやっている」とコメントした。さらに日本テレビ・宇佐美氏は「ネットコンテンツを作っていて、よく“頭で取れ”と言いますが、テレビニュースの現場でも同じようなことが言われている。テレビもネットも大切なことは同じだから、テレビの世界の人はネットにも対応できる」と加え、モデレータの村上氏が「ネット報道の取り組みが、結果的に報道そのものや考え方に対し、影響を与えることができれば、テレビ局のネット報道はさらに信頼されるものになっていくのでは」と結び、セッションは終了した。
それぞれのテレビ局がこれまで培ってきた強みや気づき、ネット報道に対する理念やコンセプトなどの理由から、異なる形に発展を遂げてきた「テレビ局のネット報道」。マネタイズを軌道に乗せることも重要だが、フェイクニュースやフェイクニュースを信じてしまうユーザーに向けたアプローチという難しい課題にこれからも向き合わなければならない。
ネットニュースは、まず目を通してもらうために様々なメディアで手広く展開し、際限なく拡散する傾向にあった。しかし、このように無数の情報が散らばる状況で、「テレビ局のネットニュース」がユーザーからの信頼を得るためにはどのような理念やコンセプトを提示するべきなのだろうか。各テレビ局にはアイデアが求められている。