ソニー4Kシアターで語った、カンテレのNetflixオリジナルドラマ制作秘話~MIPTV2018レポート前編
ジャーナリスト 長谷川朋子
関西テレビ放送制作のNetflixオリジナルドラマ『僕だけがいない街』がフランス・カンヌのテレビ見本市MIPTV2018でフォーカスされた。ソニー提供の4Kカンファレンスに登壇した関西テレビ放送コンテンツビジネス局の岡田美穂局長とコンテンツビジネス局東京コンテンツ事業部佐藤一弘氏が4K制作やNetflixと組んだ理由について語り、世界のテレビ業界関係者から関心を集めていた。
MIPTV2018レポート前編は関西テレビ放送のソニー4Kカンファレンスを現地取材した模様をお伝えする。

■KADOKAWA、Netflixとカンテレの3社がコラボ、世界190か国以上で展開
今年も4月に開催された世界最大規模のテレビ見本市MIPTVでソニー提供のカンファレンスがソニー4K/ULTRA HDシアターで企画された。番組バイヤーやセラー、プロデューサーらに向けて4Kコンテンツを促進することを目的に、ソニーが提供するMIP恒例のカンファレンスとして定着するもので、各国注目の4K制作事例が紹介されている。今回、日本からはNetflixオリジナルドラマ『僕だけがいない街』を4K制作した関西テレビ放送がその機会を得た。
Netflixオリジナルドラマ『僕だけがいない街』(全12話)は昨年12月15日から配信が開始され、現在190か国以上で展開中である。日本の放送局が制作したNetflixオリジナルドラマに関心を寄せたMIPTV参加者は多かったようで、入場開始まもなくして定員80席の会場は満席状態になった。

冒頭、関西テレビ放送コンテンツビジネス局の岡田美穂局長が登壇し、「この作品はKADOKAWA、Netflixとカンテレの3社がコラボレーションして制作したものになります。4K制作を進めることによって、舞台となる美しい北海道の雪景色やノルタルジックな映像表現を追求できました。四季折々の日本らしい風景もお楽しみいただけると思います」と挨拶した。
挨拶の通り、同作の映像美へのこだわりは、全話通じて楽しめる内容となっている。三部けいによる同名漫画の原作通りに北海道・苫小牧で撮影されたほか、原作にはないが、日本の情景を象徴する富士山の風景なども取り入れている。ではなぜ、Netflixで4Kオリジナルドラマが制作されることになったのか。続いて関西テレビ放送コンテンツビジネス局東京コンテンツ事業部佐藤一弘氏が登壇し、ソニー4Kカンファレンスの司会を務める、イギリス在住のジャーナリストで業界コンサルタントのクリス・フォレスター氏と共にトークセッションが行われた。

■1本の映画を12分割するようなイメージで“一気見”視聴を想定したドラマ作り
まずはフォレスター氏が「Netflixのオリジナルドラマを4K制作して、いかがでしたか?」と尋ねると、佐藤氏は「Netflixのドラマ作りは我々にとって新しい経験でした。というのも、普段、制作している地上波のドラマシリーズとは制作プロセスに違いも多かったからです」と答えた。
地上波ドラマとNetflixドラマの制作プロセスの違いは、クランクインの段階で全話の台本が完成していることや編集時間の差も大きい。『僕だけがいない街』のポスプロ作業は撮影が終了した昨年4月から12月の配信まで、約8か月間にもわたったという。同作について、プロデューサーの関西テレビ放送コンテンツビジネス局東京コンテンツ事業部の池田篤史氏に伺った際、「“一気見”視聴を想定して、前半に引きのあるカットを集中させました。テンポも重視しました。1本の映画を12分割するようなイメージで、画を繋ぎながら、台本と変更することもありました」と話していた。
また4K制作について佐藤氏は「新しい技術を使った4K制作も我々にとって、新しい経験でした。カメラやレンズなど細かな撮影設備についてNetflixからの細かい指示リストに沿って進めました。RAWデータで撮影し、将来のリマスター版を想定して、全ての映像フッテージを提供しました」と説明した。
続いて、フォレスター氏は「Netflixは良いパートナーだったんじゃないですか? Netflixはアメリカでは圧倒的なシェアを占め、今ではヨーロッパでも普及しています。アジアではどのような状況でしょうか?」と佐藤氏に質問した。
「関西テレビ放送は日本のローカル放送局です。Netflixと組むことの利点は世界展開にあります。私は番組を海外に売る立場にもあり、制作したドラマが190か国以上で展開できることは大変、魅力的に感じます。Netflixは日本においてもグローバルマーケットの入口として存在していると思います」(佐藤氏)
関西テレビ放送は当初、『僕だけがいない街』を地上波で展開することも十分に検討していたが、KADOKAWAとNetflixとの話し合いの中で、最終的にNetflixのオリジナルとして実現するに至ったという。またNetflixがサービス展開していない中国ではテンセントでほぼ同時期の昨年12月から配信開始されている。中国マーケットで人気を得ている古川雄輝を主演にキャスティングしたことが中国市場での実現に大きく影響したようだ。
最後にフォレスター氏は日本の視聴習慣について質問も投げかけた。
「日本はよく働く国として世界的に知られています。欧米では土日にゆっくり12話のドラマを一気見視聴することが習慣になりつつありますが、忙しい日本人もそんな視聴習慣が広がっていますか?」(フォレスター氏)
「確かに日本人はよく働く国民かと思いますが、地上波のドラマも含めて、ドラマが話題に上ることは多く、ドラマ好きな国民でもあるかと思います」(佐藤氏)
トークセッションの後は、北海道・苫小牧の情景が広がる第2話の4K上映も行われた。夕焼けを背景に工場の煙が立ち上る風景や雪景色が広がる映像などが流れ、高精細に加えて、色域や明暗表現の広がりも確認できた。
■ソニー4Kカンファレンス参加者は50か国から約700人

ソニー4Kカンファレンスへの全来場者数は、この関西テレビ放送の回を含めて、延べ約700名に上り、国数は50か国以上に及んだ。ソニー4Kカンファレンスを統括するソニーブランドデザインプラットフォームUX事業開発部門UX企画部コンテンツ開発課シニアプロデューサーの中田吉秋氏は「カンヌで開催する4Kカンファレンスは2013年のMIPTVから始めて今回で11回目を数えました。放送局や制作会社などが集う4Kコンテンツ業界の情報交換の場として認知されています。各セッションはほぼ毎回満員かそれに近い観客を動員していますが、最近はWebやSNS にもセッション動画やインタビュー動画をアップロードし、積極的に4Kコンテンツの最新情報を発信しており、これも好評を博しています」コメントする。
また今回の関西テレビ放送の回は、来場者数が定員80名を超える、110名が来場したことがわかった。「フランス、イギリス、ロシア、イタリア、韓国、中国など約35か国から来場があり、日本人以外の海外の方々の姿が多く、目立ちました」(中田氏)

関西テレビ放送は今回、MIPTVで初のブース出展も実現し、現在地上波で放送中の連続ドラマ『シグナル~長期未解決事件捜査班』(フジテレビ系)などを並べ、商談を進めていた。
こうした出展やソニー4Kカンファレンスの登壇の機会を利用し、次の制作に繋げていくことも狙っているようにみえた。番組の世界展開を見据えた日本の取り組みについてさらにお伝えしたい。後編は『Mother』や『anone』などのドラマを手掛けた日本テレビの次屋尚プロデューサーが韓国とインドの放送局/プロダクションと登壇したセッションを中心にレポートする。