日本、韓国、インドのプロデューサーが語る世界展開、日テレ次屋氏登壇~MIPTV2018レポート後編
ジャーナリスト 長谷川朋子
ドラマ『Mother』『Woman』『anone』の3部作を手掛けた日本テレビ次屋尚プロデューサーがフランス・カンヌのテレビ見本市MIPTVで企画されたカンファレンスに登壇した。韓国の放送局SBSとインドの制作プロダクションOne Life Studiosのプロデューサーと共に語ったのはアジアドラマの優位性だった。今、番組の国際流通市場ではアジアに目が向けられているが、それは何故か。後編はMIPTV2018で開催されたアジアドラマカンファレンスを中心にレポートする。
■韓国ドラマはアメリカでリメイク、インドのドラマは東南アジアで展開
日本テレビ次屋尚プロデューサーがアジアのプロデューサーを代表して登壇したのは4月10日にMIPTVで企画された「ASIA:New Producers to watch」というプログラム名のカンファレンスだった。韓国SBSのプロデューサーInSoon Kim氏とインドOne Life StudiosのファウンダーSiddarth Kumar Tewary氏と並び、米エンターテインメント雑誌World ScreenのエディターMansha Daswani氏が司会進行を務めた。

プログラム名は「ASIA:New Producers=アジアの新しいプロデューサーたち」とあるが、日本テレビも韓国SBSもテレビ市場において決して新興勢ではない。インドのスタジオは2007年に設立された比較的新しいプロダクションだが、主に制作しているのはインド国内向けのドラマである。しかし、敢えて「新しいプロデューサー」と紹介されたのには理由がある。
まずは韓国、インド、日本のプロデューサーがそれぞれ何を語ったのか、紹介していきたい。

韓国SBSは海外展開が成功している自局コンテンツを次々と並べて紹介した。例えば、ミステリードラマ『God's Gift – 14 Days(神の贈り物―14日)はアメリカでリメイク版が実現。歌番組『Fantastic Duo』はスペインで、育児リアリティショー『OH!MY BABY』はベトナムで、バラエティー『Running Man』は中国でローカライズ版が制作されてヒットしたことなどを報告した。つまり、これは販売地域の幅広さに加えて、ドラマからバラエティーまで世界で売れていることを強調するもの。Kim氏は「国内でヒットした番組が海外でも可能性を広げています。その勢いはますます強まっています」と語っていた。

またインドのOne Life Studiosは敷地面積200万平方メートルものスタジオ設備を有し、200人のVFXクリエイターを抱え、作品の企画・演出・撮影から編集、ポスト・プロダクションまで一貫体制を敷く。さらに配給事業まで手掛ける。最近のヒット作はドラマ『Mahabharat』。124話にわたってハスティナプラ家の王位の闘争を描くストーリーが展開されるもので、インドの国内向けに制作したものだが、他の国でも成功しているという。タイ、スリランカ、カンボジア、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、ラオス、ミャンマーと東南アジアを中心に販売地域が広がっている。Tewary氏は「『Mahabharat』のヒットを受けて、我々のコンテンツ力を再認識し、世界にも目を向け始めました」と話していた。
■日テレ、ドラマ『Mother』がトルコでヒットした理由

続いて、日本テレビ次屋プロデューサーが登壇した。日本テレビの世界展開と言えば、世界35か国に販売、放送されているリアリティショーの『¥マネーの虎』がまず挙げられる。このほか『欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞』やアニメでは『デスノート』、『HUNTER×HUNTER』なども海外でも人気があることや、自局の海外チャンネル『GEM』を通じて日本テレビの番組が海外展開されていることも報告した。すると、次屋プロデューサーは日本以外の国でも番組のニーズがあることの理由について自身の考えを述べた。

「カンヌに向かう飛行機から地上を眺めていると、どこからヨーロッパでどこまでがアジアなのかはわからないと思いました。国境はあるようで、ない。これは万国で共感できるストーリーがあることにも通じることです。僕自身のことを話すと、幼い頃からイソップ物語やアンデルセン童話、シェイクスピア戯曲などを読みながら育ち、その時はどこの国の物語かなんてわかりませんでしたが、影響を受けたことは確かです。その頃に読んだストーリーが心の中に住み続け、それがベースとなってドラマを作っています」
つまり、ドラマの中に「万国共通のストーリー」があれば、世界展開はどの番組にも可能性があるということだ。
次屋プロデューサーの代表作である『Mother』はトルコ版が作られており、2016年10月から放送開始されると、占拠率25%、視聴率1位を記録する大ヒットとなった。この勢いで『Woman』トルコ版も作られ、これまた高い人気を得ている。新たにウクライナでロシア語版の制作が決定し、ロシアなど旧独立国家共同体(CIS)全域で今後放送される上に、フランス、インド、他から続々とリメイクオファーが来ている状況という。トルコ特需が巻き起こっている。
『Mother』は韓国でもリメイクされ、韓国版は「MIPTV2018」で初開催されたカンヌ国際ドラマ祭「Canneseries」メインのオフィシャル・コンペティション部門でノミネートされるまでに至った。
『Mother』『Woman』の海外展開の成功例が語られる一方で、「はじめから世界展開は狙っていなかった」と次屋プロデューサーは明かした。

「多くの国でリメイクされ、韓国版のノミネートも大変光栄に思います。脚本家と向き合いながら、ストーリー展開を悩み、そんな日々から台詞が生まれ、こうした展開に繋がっていることはとても嬉しいことです。日本で作っていた時、世界に目を向けていたわけではありませんでしたが、日本であろうが、韓国であろうが、インドであろうが、人間愛に変わりはありません。『Mother』や『Woman』に限って言えば、母親の愛情の強さ。(世界展開は)こうした万国共通のテーマがあったことに尽きると思います」

それぞれ3人のプロデューサーの話を聞いたところで、実は共通するものがあることに気づいた。次屋プロデューサーの言葉からヒントを得た通り、国内マーケットを第一優先して作り出すドラマにも世界展開の可能性があるということだ。海外展開を見据えて作るドラマの成功例が扱われることが多いなか、意外なことでもあったが、それが「アジアの新しいプロデューサー」として紹介された理由の答えにもなる。
インドのTewary氏は「国内向けに制作することは欠かせないステップ。その先に世界展開がある」と言い切り、SBSのKim氏は「SBSのクリエイティビティが国際トレンドを作っている」と話していた。
今、世界のコンテンツ市場では「Netflix」などが台頭するなかで、既存の放送局や制作プロダクションは生き残りをかけて、これまでの手法に変革が求められている時期にある。だから、アジアのプロデューサーから得ることができるヒントはないのかと、そんなことも探る上でも、注目されたセッションになった。