テレビの未来を創造するオープンイノベーションプログラム~中京テレビ「テレビ×デジタル」の取り組み(後編)
編集部
データ放送の可能性を検証しながら、「テレビ×デジタル」の実現に挑戦し続けている中京テレビ。昨年11月からは、起業家支援事業を行う株式会社サムライインキュベートと共にテレビの未来を創造するオープンイノベーションプログラムに取り組んだ。データ放送を活用したCMやゲームから「テレビ×デジタル」の未来を聞いた前編に続き、後編ではその「CHUKYO-TV INNOVATION PROGRAM」の取り組みに迫る。

ローカルテレビ局とインキュベーター、そしてスタートアップ企業が協業することで何が生まれるのか? チームの一員となってプロジェクトを推進した、中京テレビビジネス推進局ビジネス開発部の鬼頭尚也氏に話を伺った。
■テレビの未来を創るためのオープンイノベーションプログラム
来年開局50周年を迎える中京テレビは、“地域の信頼と共感を育み、豊かな社会の創造に貢献する”というグループ理念のもと、テレビを取り巻く環境変化に合わせて、テレビ局からの拡張を目指しさまざまな取り組みを推進している。
そのひとつとして昨年11月から始められたのが、「CHUKYO-TV INNOVATION PROGRAM~ユーザー体験に革命を起こすテレビの未来~」。このプログラムは新しいテレビの未来を創るため、中京テレビとサムライインキュベートがスタートアップ企業の参加を募って“未来のテレビ”“未来のテレビ局”“未来のコンテンツ”のカタチを追求するものだ。

スタートアップ企業の募集は、「コンテンツのリッチ化」「映像の利活用」「生放送2.0」という3つのテーマで行われた。求める技術は位置情報や音波、デバイスなどで、中京テレビが持つ映像ライブラリー、放送設備、ヘリ空撮技術、電波技術、アナウンサーといったテレビ局が持つアセットを提供するという、非常に魅力のあるものだった。

「昨年12月の締め切りまでに30~40社の募集をいただき、書類選考をしたうえで年明けには面談を行い、2月には5社を選定しました」と鬼頭氏が語るように、かなりのスピード感を持って進められたことも特徴的だ。
■熱意あるスタートアップ企業5社が選ばれ、共創活動が進められた
スタートアップ企業として選ばれたのは次の5社。

・パロニム株式会社(PARONYM):動画にタグなど情報を埋め込む技術を持つ
・株式会社Voicy(Voicy):インターネットラジオのプラットフォームを保有
・レイ・フロンティア株式会社(rei frontier):位置情報のデータ収集を行う
・株式会社CAMPFIRE(CAMPFIRE):クラウドファンディングのプラットフォーム
・株式会社アイデアクラウド(iDEACLOUD):AR、VR、MRの技術を取り扱う

企業の選定において重視されたのは、中京テレビのクリエイターに刺さる、想像力がかき立てられるような提案があるかどうかという点。さらに、鬼頭氏は「技術が高いのはどこも同じでしたが、その中でも熱量が高いプレゼンを行うなど、熱意を持ったスタートアップ企業が選ばれる傾向が強かったと感じました」と語る。
以上の5社と行うプロジェクトには中京テレビの社員が各部署から総勢30人前後投入されるという、非常に力の入った活動だ。5月までの約3カ月で各社と共創が進められ、成果発表会を経たうえで、独自の映像に触れることができるインタラクティブ動画技術を活用したパロニム株式会社が最優秀賞を受賞した。

■テレビ局からの拡張を目指す取り組みは続く
このプロジェクトの背景には、中京テレビの中期経営計画において目指すところとして掲げられた「テレビ局からの拡張~地域に愛される 情報産業のトップランナーになる」という施策がある。
鬼頭氏は、「まだ変わっていないビジネスモデルやコンテンツのデリバリー方法に関して、我々ローカルテレビ局はリソースも限られているので、外部とのアライアンスを行い、テクノロジーを持っている会社と手を組んで技術を採り入れる必要がある。逆にスタートアップ企業にはテレビのアセットを存分に活かしてもらいたいのです」と、プロジェクトの狙いを語る。
そして「現状、まだどの社との取り組みも収益化には至っていない」としながらも、「それぞれのスタートアップ企業と組んだチームが新しい刺激や視点をもらったことが有意義でした。今後は今回選ばれた会社との取り組みを精査し、ある程度の成果を生み出したうえでフィードバックさせ、また別の新たな取り組みにつなげていきたい」と続けた。
この中京テレビの「CHUKYO-TV INNOVATION PROGRAM」は、ローカルテレビ局の強みをいかし、常にスピーディにプログラムが展開されたという印象が強い。これはインキュベーターやスタートアップ企業の持つスピード感と同じく、新たな時代に即した変化には必要不可欠なものだろう。この取り組みが実を結び、中京テレビから新しい波が起こってくることを期待したい。