中国でも話題の『おっさんずラブ』『72時間』~MIPCHINA現地インタビュー後編
ジャーナリスト 長谷川朋子
先月6月に中国浙江省杭州市内でコンテンツビジネス国際ミーティングイベント「MIPCHINA」が開催された。日本からはNHK、テレビ朝日、テレビ東京、関西テレビ放送、トムス・エンターテインメント、アニメ制作スタジオのピコナが参加し、中国メディア企業とドラマやバラエティー番組の共同制作や番組開発などを視野に商談が行われた。前編の総務省情報流通行政局放送コンテンツ海外流通推進室・三原祥二室長によるコンテンツ支援策の報告に続き、後編は主催者リードミデム社マーケット開発ディレクター、テッド・バラコス氏に聞いた開催の目的と、参加各局の中国市場との取引状況をお伝えする。

中国・杭州で2日間の全ミーティング数1,434件
世界第2位のコンテンツ市場規模に成長している中国メディア企業が、海外との取引も広げようとしている。この動きが高まっていることを受けて「MIPCHINA」が昨年に続き今年も開催された。前編で伝えた通り、参加は中国企業は222社、海外企業は37社という小規模なBtoBイベントではあるが、主催のリードミデム社がフランス・カンヌで開催するテレビ見本市「MIPTV/MIPCOM」や、中国・上海で毎年6月に開催される「上海国際映画祭」などの大規模な場とは異なる役割が求められているようである。リードミデム社マーケット開発ディレクターのテッド・バラコス氏がその理由を説明してくれた。
「数年前と比べると、中国市場が海外コンテンツを受け入れる動きは活発化しています。海外パートナーを求め、共同制作や共同開発を進めている中国メディア企業が増えています。一方で、海外との取引を始めたばかりの中国企業も多く、情報が開かれていないところもあります。『とにかく会ってミーティングをしたい』という中国企業の強い要望もあり、独自開発したマッチングシステムを導入し、参加者同士の一対一のミーティングをセッティングする新しいビジネスイベントを昨年から始めることにしました」

2日間にわたり集中して行われた全ミーティング数は1,434件に上った。昨年のミーティング数の882件よりも500件以上も上回り、「中国メディア企業の満足度は高い」という。また開催地の杭州市には世界遺産に登録されている西湖があり、中国では「この世の天国」と称される風光明媚な人気なスポット。「MIPCHINA」の会場からもその西湖が臨めた。おおよそ上海からは東京~静岡間、北京からは東京~沖縄間ぐらい離れており、アクセスのしにくさはネックになりそうだが、杭州市内で開催する理由についてもバラコス氏に尋ねた。

「メディア企業の多くは北京を拠点にしていますが、売上実績トップ100の中国メディア企業の約4割が杭州市に拠点を構え、クリエイティブ産業が盛んな都市です。北京や上海などの大都市は交通の便はいいですが、小規模なビジネスイベントはコミュニティを築くことが重要。大都市で開催されるイベントとは差別化した企画を立てやすいメリットもあります」

参加者全員が同じホテルに泊まり、食事の時間も懇親の場が作られるオールインクルーシブのスタイルのため、参加者同士が朝から晩まで顔を合わす機会は増える。そんなMIPCHINAに日本から初参加した放送局の担当者にもどのような商談が行われたのか、聞いた。
NHK「配信プラットフォームの購買意欲は強い」
ひっきりなしに商談を重ねていた様子のNHKは、2日間で中国メディア企業24社とミーティングを行ったという。商談内容の傾向について同局の展開戦略推進部坂牧麻里氏が説明してくれた。

「テンセントやビリビリ、HUAWEIなど配信系企業の購買意欲は強く、勢いを感じました。番組制作会社やテレビ局は、完成番組よりもフォーマットや共同制作を求めていました。ニーズの高かったジャンルはバラエティ番組。『おやすみ日本 眠いいね!』などの番組が引き合いに出ました。4Kコンテンツについては配信系では始まっていますが、放送局はまだこれからです」
現在、中国で展開されているNHKのフォーマット番組は『ドキュメント 72時間』がある。今年6月からテンセントの動画配信プラットフォームで中国版『72時間』がスタートした。

「以前はアニメが中心でしたが、最近はドキュメンタリーのニーズも高まっています。テンセントのほか、中国の若者に人気があるビリビリにも科学技術や自然番組、日本文化紹介といった幅広いジャンルのドキュメンタリーを毎年100時間以上提供しています」(坂牧氏)
テレ朝『就活家族』、カンテレ『ヤバ妻』を中国でリメイク
テレビ朝日は、中国とドラマのリメイク展開に力を入れ始めている。中国で展開される初のリメイク作品として『就活家族~きっと、うまくいく~』の制作が進んでいるところだ。MIPCHINAでは期間中、ドラマリメイク案件に絞って、計14社とミーティングを行ったという。同局総合ビジネス局国際ビジネス開発部坂本道子氏がその内容について教えてくれた。
「ヒットドラマの必須条件として、とにかく面白いストーリーを捜しているという印象が強かったです。またトレンドの変化も感じました。“面白いコンテンツは海外から”というこれまでの流れから、中国発のIP(独自コンテンツ)を海外へ発信する動きも活発化しています」
またこの4月クールに放送され、注目を集めたドラマ『おっさんずラブ』は中国現地でも認知度が高く、商談の場でも話題に上ることが多かったという。

「『おっさんずラブ』は台湾や香港、韓国でも人気を得て、現地ファンの間で牧派(牧凌太役・林遣都)と部長派(黒澤武蔵役・吉田鋼太郎)に分かれて議論が白熱するほどです。中国では番販、リメイクに関しては残念ながらまだ現状は取引できていません。ただ、ドラマそのものは話題になっているので、田中圭さん、吉田鋼太郎さん、林遣都さん出演の他のドラマも注目されています」
関西テレビ放送も中国向けにドラマのリメイク展開を探っている。同局は自社制作ドラマ『僕のヤバイ妻』のリメイク権をアリババグループの「YOUKU」に販売した実績を持つ。現地で約20社とミーティングを行った同局コンテンツビジネス局東京コンテンツ事業部佐藤一弘氏にも話を聞いた。
「商談中、『このドキュメンタリーのコンセプトは面白いから、ドラマで展開したい』という声も上がり、他国にはない自由な発想と勢いを感じました。また『都市部に住む、経済的に成熟した女性層』を狙った作品に対するニーズが高いことも印象的でした。日本の民放局はこれまでF1、F2層の数字(視聴率)を強く意識してきたわけで、中国市場でも日本の得意分野を活かすことができるのはないかと思いました」
実際に中国で人気を得ている女性を題材としたドラマのひとつに、『東京女子図鑑』(Amazon Prime video)のリメイク版がある。「YOUKU」で『北京女子図鑑』『上海女子図鑑』がヒット中という。これまで中国でヒットした日本のドラマと言えば、『孤独のグルメ』や『深夜食堂』といったグルメを題材したものが代表例に挙げられていたが、求められるジャンルの幅が広がっている。またドラマやアニメだけでなく、バラエティーやドキュメンタリーの取引も求められている様子が今回の取材からもわかった。引き続き注目される中国市場の動向についてMIPCHINAを通じてまたお伝えしたい。