取材源の記事化に価値見出す~FNN.jpプライムオンラインのマネタイズ術~(後編)
ジャーナリスト 長谷川朋子
開始1年半で月間4000万PVの規模に急成長したFNN28局による総合ニュースサイト「FNN.jpプライムオンライン」。戦略と仕組みについてこれまで前編、中編でお伝えし、機動力を活かしたライブストリーミング配信を売りに成長してきたことがわかったが、テレビ局が運営する総合ニュースサイトとして勝ち組になりつつある理由は実は他にもある。それは報道が持つ価値の掘り起こしだ。引き続き、運営するフジテレビジョン総合事業局コンテンツ事業室の寺記夫氏、報道局マルチメディア推進部の瀬井貴之氏、技術局デジタル技術運用部の小西孝英氏の3人に話を聞いた。(本文以下、敬称略)
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■動画ではなく、テキスト主体が月間4000万PVの原動力に
――7月からプログラマティック広告サービスの本格運用を開始するなど、事業として収益化させていく施策も積極的に展開させていくのでしょうか?

寺氏:最新の広告サービス「FLUXヘッダービディングソリューション」なども導入し、サイト規模の拡大と共に、収益面もほぼ比例して上がる仕組みが作れたところです。個人的にはGoogle1社に依存しがちな広告サービスは公平な競争の場を生み出しにくいと思っているので、オープンソースを基盤としたヘッダービディング等のアドテクノロジーは、より収益面でも期待できるものだと考えています。

報道というカテゴリにおいては儲けを優先に考えるべきではないのですが、結果として採算が取れることも継続するために必要なことです。最初に設定したコンセプトがうまくいき、サイトが拡大していることも広告サービスの導入に至った背景として大きい。実は動画ではなく、テキスト主体の記事が月間4000万PVの原動力になっているのです。
――動画であれば放送用の素材を活かすことができます。映像とは離れたテキスト主体の記事を作るという発想そのものに抵抗はなかったのでしょうか?
寺氏:テレビ局が初期設定の段階で動画を中心としない方針に舵を切るのはそう簡単なことではないのですが、報道の幹部と一緒に半年間に渡ってサービス設計の認識合わせを行いました。例えばストレートニュース動画を再生するよりも、記事でさっと要点だけ摘まみたい。それがユーザーニーズであると判断したのです。

瀬井氏:むしろ、報道局にある一次ソースは貴重な財産であることに改めて気づかされました。裏山にこれだけの筍があったのかと。報道局の取材部内でも徐々にそれを認識し始め、取材ソースをネットで記事化することに積極的な記者もいます。前身の「ホウドウキョク」からはじめていたことが数年かけてゆっくり浸透していきました。
寺氏:せっかく取材しても地上波では30秒の尺に収まらない情報も多いのですが、「野党は徹底抗戦の構えです」といったフレーズでは伝えきれない文脈を記者が直接表現する事も増えてきました。ストレートニュースだけでなく、背景を解説するような記事は、実はよく読まれています。

小西氏:時短主義の世の中では、自分のペースで読める記事は時間軸から解放されます。警視庁にも霞が関にも海外各地にもいる担当記者は現場にしかわからない情報を持っています。記事をきっかけに、次のスクープに繋がることもあるようで、種が撒かれる良い循環も生み出しています。
寺氏:報道だけでなく『めざましテレビ』や『とくダネ!』などの情報番組も、その日の午後には記事化し、配信しています。また『直撃!シンソウ坂上』といった情報バラエティも報道の目線から記事化を行っています。このような番組の記事化もサイトのグロースに寄与していった感覚があります。もともと発信していたコンテンツをネット向けに活用できる余地はまだあるはずです。そういう考え方で首尾一貫してやっています。
■FNNローカルネタからヒットも、打倒は「文春オンライン」
――先日の高知さんさんテレビの「よさこい祭り」2日間連続9時間ライブ配信など、全国FNN各局の動画、記事化も「FNN.jpプライムオンライン」ならではの取り組み。反響はいかがですか?

今年も全国各地から207チーム、約18,000人の踊り子が高知の街を舞台に乱舞
瀬井氏:FNN各局のネタをまとめた特集枠「FNNピックアップ」からもヒットコンテンツが生まれ始めています。ローカル枠のみで発信されていたコンテンツが全国に配信される場になり、これをチャンスと捉えるディレクターもいます。オリジナル記事もあり、沖縄県知事選の基地問題関連はウェブだけで配信されています。
小西氏:各局制作のローカル番組は山ほどあります。FNNすべての局が取り組み始めたら、バリエーションある記事が集まります。ローカル枠の番組の一コーナーやお祭り企画、ラーメンなどいろいろな展開の可能性がある。他局にはない取り組みになります。
――成長路線に乗り、テレビ局の強みを活かしたニュースメディアを展開していますが、ライバルだと感じている競合相手はありますか?
寺氏:ずばり「文春オンライン」です。雑誌からオンラインメディアに参入し、ネットオリジナルも売りにした「文春オンライン」は「FNN.jpプライムオンライン」とコンテンツのバランスが似ているからです。一歩先行く先生として勉強させてもらっています。
瀬井氏:民放各局のニュースサイトとは違う方向に進んでいると思います。
瀬井氏:テレビ局が運営するウェブサイトはどうしても動画寄り。動画ありきでスタートしていますが、それとは差別化した路線が「FNN.jpプライムオンライン」のやはり強みでしょう。
■デジタルファーストを浸透、マネタイズの可能性を追求
――最後に、総合事業局、報道局、技術局に所属するそれぞれの立場からみた、今後の課題と展望を教えてください。

寺氏:課題のひとつはサイトのブランディング。広告出稿を成立させるサービスとしては、まだまだサイトのカラーや輪郭がぼやっとしているところがあります。総合ニュースサイトとして扱うコンテンツは多様なままカラフルで良く、局所的に熱狂的なファンがつくような展開が、今の時代に求められているのではと考えています。
小西氏:この1年半で有難いことに成長したがゆえに、無駄の多さも感じています。システム改修はまだ山ほどあり、マネタイズできる要素もまだまだある。セキュリティ対策やサイトの読み込み速度、新しい動画広告など、テクニカルな面が日々目まぐるしく変わっていますから、役割分担をしながら、専門的な技術メンバーのトータルの力で、「FNN.jpプライムオンライン」を支えていきたいと思っています。
瀬井氏:地上波でもネットでもどちらを先にしてもいい。報道局のなかでそんな考え方を持つ方向に持っていきたいです。その日の夕方のニュースまでに貯めずに記事化できるネタはたくさんありますから、デジタルファーストの可能性を広げていければと思います。
前・中・後編の3回にわたって、「FNN.jpプライムオンライン」の成長の理由をお伝えした。ここにきて結果に表れているのは、ニュースウェブメディアで収益化を追求することへの真剣味が増し、総合力に切り替えた部分も大きいのではないか。テレビ局の資産を活かすやり方のひとつとして認識が進むことで、新たな展開にも期待したい。