放送コンテンツの海外展開 次の一手は配信か?INTER BEE CONNECTED 2019事前レポート
編集部
2019年11月13日(水)〜15(金)の3日間幕張メッセで開催される『InterBEE 2019』。放送と通信の融合を提案し、新しいビジネスモデルを発信する『INTER BEE CONNECTED』では、毎年数多くの企画セッションが行われている。
今年も充実のラインナップで予定されているが、そのうち3日目の15日(金)14時より“展示ホール 7 CONNECTED内 オープンステージ”にてセッション「放送コンテンツの海外展開 次の一手は配信か?」が開催される。
すでに海外でも注目を集める日本の番組販売ビジネス。販売先の国では放送に加え、配信での展開が一般的となっているほか、販売形態もフォーマット販売(番組企画や演出などのフォーマットを販売し、販売先の各国で“アレンジ版”を制作する形態)など、番組販売以外にも多くの実績が上がっている。
本セッションでは、海外の番組ビジネス事情に詳しいパネリスト2名を迎え、国内で浸透してきた番組配信の海外に向けての次なる一手を聞く。
パネリストは佛教大学 社会学部教授の大場吾郎氏と、株式会社東京放送ホールディングス(TBS) 上級専門職 局次長待遇 メディア企画室 兼 総合マーケティングラボ ビジネス戦略部の薄井裕介氏。モデレーターは株式会社テレビ朝日 経営戦略局 経営戦略部 渉外担当部長 兼 インターネット・オブ・テレビジョンセンターの岩田 淳氏が務める。
本稿では、去る10月8日(火)に登壇者一同にて行われた事前打ち合わせの模様をレポートする。
■海外配信、考えなければいけないことは?
冒頭、薄井氏が海外におけるテレビ番組のSVOD(Subscription Video On Demand:定額制見放題サービス)の実例を紹介。イギリス国営放送BBCワールドとイギリスの民放ITVがBritboxというSVODサービスをアメリカで数年前にローンチした。
日本では、NHKテレビ番組の常時同時配信が認められる方向で大きなニュースとなったが、そこでも「海外における対応」は議題にあがった。
岩田氏「いきなり海外展開、というよりは、在外邦人に向けてどんなサービスをするか、という点が焦点になるかもしれない。いまも(テレビ局に無許可で番組をネット配信する)違法なサービスが在外邦人向けのパンフレットに掲載され、宣伝されている現状がある。これを踏まえても、具体的なスケジュールを早急に決め、そこを目指して具体的に展開を進めていく必要がある」
海外のケーブルテレビでも日本のテレビ番組を配信するチャンネルは存在する。海外展開の際、在外邦人は視聴者層として無視できない存在だろう。違法コンテンツを経由して見られることが多いという現状を、公式な海外配信は変えていくことができるのかもしれない。
もうひとつ、日本国内では特に問題がないコンテンツでも、海外では国ごとの様々な理由などからNGとされる表現もあると、薄井氏は話す。
薄井氏「中国では政府当局によるシナリオチェックがあり、これを通過したものでなければメディアに出すことができない。たとえば『現代の医者が江戸時代にタイムスリップし、歴史を書き換える』というようなストーリーのドラマは『時代を書き換える』という要素がNGとされてしまう」
国内向けコンテンツをそのまま海外に出す、というアイデアのみだと問題が生じることも示唆する発言だ。異なる文化圏でも楽しめる番組作りという新たなノウハウも求められることになりそうだ。
■プラットフォーム、どう棲み分ける?
いっぽうでパネリスト陣からは、Netflixなど既存の大手SVODプラットフォームを通じた番組配信についても議論があがった。
薄井氏「(配信網の国際化によって)コンテンツの制作国があまり問われない土壌になってきているようにも感じる。『テラスハウス』(フジテレビ)のように出演者たちのネームバリューによらずヒットを叩き出している作品もある。『テラス…』でMCを務める山里亮太さんはこの番組がきっかけとなってアメリカのラジオ局に『日本の恋愛マスター』として出演依頼されたりしている(笑)。こういった流れは(これまでのテレビ業界では)なかったのではないか」
大場氏「需要を掘り起こすことができれば、『どこが製作国か』なんて気にせず(世界の視聴者は)見てくれる。現在日本作品でヒットしているものも、世界的俳優が出演しているならともかく、キャスティングが要因というわけではきっとないはず。『名前は知らないけれど、なんか面白い人が出ている』と受ける、そういうワールドフェアな場はこれまでなかった。しかもNetflix(での配信)がプレミアな品質の保証にもなっている。どこの国で製作されたかよりも、むしろこちらのほうが大事」
岩田氏「海外の放送局では『自前でコンテンツを配給するより、Netflixなどの国際的なSVODプラットフォームに乗ったほうが収益も期待でき、効率的』という考えになっているような気がする。最終的な目標は一緒だと思うが、日本の放送事業者はテレビ局同士で連携して(共通のプラットフォームで海外向けに配信して)いこうという流れにはまだなっていないと思う」
すでに国際的な展開をしているSVODサービスに乗っかることにより、コンテンツの収益化や国外ファン層の獲得を狙う動きがあるという点は興味深い。いっぽうで、国内の事業者たちによってドメスティックなコンテンツを一箇所に集約して発信する、という試みも生まれているようだ。
薄井氏「これまで(UKのテレビ局やプロダクションが)Netflixに対してUK発の番組を売ってきたことで、それが(UKにおける)Netflix伸長の理由にもつながっていたが、そういった部分に対抗して、UK内でもBritboxというSVODをローンチ。これはUK内の視聴者に向けたUKコンテンツを集めることでNetflixへ(コンテンツを)出す量を減らすという反撃の意図もあると(関係者は)話していた」
国内コンテンツを集約する、という考えは日本のキャッチアップ(見逃し配信サービス)である「TVer」や「Paravi」などにも通じるところがある。前者は無料、後者は有料(+独自コンテンツ)という棲み分けがなされているが、同じような形態は海外でも存在するのだろうか。
薄井氏「イギリスのキャッチアップ配信期間は30日。いわゆるロングテール(少数派のファン)に向けても長く視聴の機会を提供することで、広告への接触を増やせるという考えのようだ。いっぽうで(SVODとしての性格も持つ)有料のキャッチアップサービスでは、(無料キャッチアップでの)公開期限が切れた過去の番組を重点的に配信していく流れができている」
■海外配信と相性のよいコンテンツは?
海外向けに配信するのは、エンターテインメント以外のコンテンツのみが主軸となっていくのだろうか?
大場氏「在外邦人向けの番組配信ビジネスというのは縮小傾向にあると思う。これまでは福利厚生的な意味合いもあったが、90年代以降は日系人が日本から離れ、邦人の海外への駐在が減っている。これまで在外邦人向けチャンネルといえば『テレビジャパン』と『JSTV』(NHKコスモメディアがそれぞれ北米および欧州などで展開)くらいでしか日本のコンテンツを海外で見る手段がなかったが、いまはネットもふくめて視聴手段がたくさんある。むしろこうした媒体にはニュースのような公共性が高いコンテンツが良いのでは」
岩田氏「現在ニュースの海外配信は『NHK WORLD』(NHKが運営する国際放送)が大きく担っているが、こちらだけに任せて民放は何もしないでよいとも思わない」
薄井氏「TBSでは東日本大震災の際、自社のニュース専門チャンネル『TBSニュースバード(現TBS NEWS)』をインターネットで同時配信した。この際、海外からのアクセスがダントツで多かった。ニュース素材はエンターテインメントコンテンツに比べて比較的権利関係がクリアしやすいメリットがある」
海外向けにどんなコンテンツを送り出していくべきなのか── こうした議論について岩田氏は「まだ(議論の)土壌が育っていないように感じる」と話す。
試行錯誤の多い段階で、明確な方法論の確立はこれから── いまは判断材料集めの最中といった状況を感じさせる今回の打ち合わせだったが、このなかから「次の一手」としてどんなアイデアが飛び出すのか。セッション当日の議論に注目したい。
聴講の予約はInterBEE公式サイトより
https://reg.jesa.or.jp/?act=Conferences&func=Detailed&event_id=11&conference_id=1045