メディア接触環境の変遷から読み解く「新時代のテレビドラマ」(後編)~テレビとインターネットの連動がさらにテレビドラマを面白くする!~
編集部
「テレビドラマ」の今後のあり方について、生活者のメディア接触の移り変わりから検証するディスカッションを2017年末に開催。前編では、メディア接触環境の変遷データから、テレビ離れは進んでおらず、視聴スタイルが変わったという検証が。続く中編では、FOD見逃し配信の現状と視聴状況から、キャッチアップ配信は若者との相性が非常に良く、今後も視聴は増加する見込みが予見された。そして最終回となる今回は、メインテーマでもある「新時代のテレビドラマ」はどうなるのかに焦点をあて、ディスカッションが行われた。
■モデレーター
藤田真文氏
法政大学社会学部教授
■パネリスト
藤原将史氏
株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ
メディア環境研究所 メディア生活研究グループ グループマネージャー
野村和生氏
株式会社フジテレビジョン
総合事業局 コンテンツ事業センター コンテンツ事業室コンテンツデザイン部 部長職
■SNSとの連動、タッチポイントの多さがテレビドラマヒットの鍵に!
前編、中編と、メディア接触環境および接触行動の変遷や現状について語られたわけだが、テレビドラマの視聴スタイルが変化したならば、当然、供給する制作側も変化せざるを得ない状況にある。そういった意味でも新時代のテレビドラマを考察する上で「これまでのスタイルを再考する時期にきている」とそれぞれが口を揃えた。
そこでまず注目したのは、SNSとの連動がテレビドラマの視聴に大きく関係しているという点だ。藤田氏より、「近年、人気のあったフジテレビの月9ドラマでは、ツイートされやすい要素を随所に散りばめていた」と視聴者の関心を引き寄せる制作側の意図に着目。他にも、ツイキャスと連動しながら出演者が語る演出があった例などを挙げ、「そうしたコンテンツの仕掛けも大事」と提言。藤原氏から関連資料として、テレビドラマのツイートの発信件数と視聴率の相関などを分析した結果が伝えられ、SNSとの連動は視聴行動にも関係していることが感じられた。
また、「仕掛けるという意味では、NHKの連続テレビ小説の番宣の仕方が変わった」と藤田氏。視聴者の番組関連ツイートは初回の始まる前が期待感からもっとも盛り上がる傾向があるが、NHKは番宣ツイートによって放送後もきめ細やかな広報活動を続けたことで人気を維持していると指摘。加えて朝ドラの視聴率が高いのは、「15分という短い尺にある」とし、2017年春から開始されたテレビ朝日の『帯ドラマ劇場』が好調なことも例に挙げ、「動画サービスが好まれる現代にマッチした時間」とコメントした。加えて、NHKに至っては、一日に何度も再放送している点や複数チャンネルを利用して、テレビデバイスの中でタッチポイントを増やしている点も大きいだろうと続けた。
野村氏の統計によると、FODの平均視聴時間は25~26分とされており、藤田氏の見解に同意を示す一方、「制作側としては15分にまとめるのは制約が多い」と発言。毎日放送される連続テレビ小説だからこそできることであり、地上波で放送する可能性があることを考慮すると、やはり30分、60分という枠での制作になる現状が伝えられた。
■ドラマとの新しいタッチポイントの作り方
他にも、視聴者の関心を引き寄せる取組みができないかという話題になり、視聴者があえて番組名をフリーワード検索から探して視聴する人は少ないという日本人特有の視聴行動を指摘し、「利用者の多くはスマホでスクロールできる画面の中にあるリコメンドしか見ないし、その中で見たいものがなければ、他のプラットフォームに行ってしまう。だからこそチャンスが訪れたときに自社のコンテンツを視聴してもらえるような質の高い番組、リコメンドロジックを作る必要がある」と続けた。
また、藤田氏は「リコメンドのように、操作性が簡単であることも重要」とし、簡単な操作で切り替えられるようになると、視聴者の利便性も高まり視聴にもつながりやすいと述べた。
■新時代のテレビドラマと今後の課題
最後に、本ディスカッションの感想を一人ひとりに聞いた。
藤原氏:生活者には24時間様々なニーズがある。だからこそ、視聴行動データなどから生活者の状況をしっかりととらえ、それに合わせたコンテンツの作り方や提供の仕方をデザインすることが、これからの放送メディアには必要になるだろう。また我々もそれに従い広告コミュニケーションのあり方を再考する形で、お手伝いができることが増えると思う。これまで、生活者のテレビ接触時間は平均数時間だったが、スマホやデジタルサイネージの浸透によって、さらにコンテンツ接触機会が増えると考えると、我々にとって今後は、むしろチャンスの時代と言える。またテレビのインターネット結線やSNS連動の機会が増えることで、生活者にとってテレビやドラマが今よりも、もっと楽しめるものになるとよいと思う。
野村氏:地上波は最大公約数に向けて、配信は最小公倍数に向けての制作が鍵だと思う。だから、ノルウェーで大人気の高校生ドラマ『SKAM』のような試みをFODでもやってみたいし、地上波で既に始めている副音声を利用した演出や、深夜帯でのドラマ放送など、これまでとは異なる新たな取組みをどんどんしていきたい。視聴率だけにとらわれず、色々な視点を持ちコンテンツ制作に役立てることが大切だと今回のディスカッションで感じた。
藤田氏:今回、ディスカッションを行い、テレビドラマがもっと盛り上がるチャンスはまだまだありそうだと感じた。ドラマの制作環境やマネタイズのことはわからないが、総合視聴率でトータルにオーディエンスの番組接触を分析し、見逃し配信や動画配信に誘導するといった、視聴者のニーズに合わせたデバイスやプラットフォーム作りも重要になると思う。だから制作側は、これまでの概念や制作の意識を変えて、コンテンツの尺を生活者のニーズに合わせたり、受け身な生活者に対し、情報をどんどんプッシュするように、広報セクションのボリュームを上げてリコメンドや番組情報を送り込んだりできると、もっとテレビドラマは盛り上がると思う。
生活者のメディア接触の変遷から新時代のテレビドラマを考える本ディスカッションは、それぞれの立場や視点、アイデアを交換する有意義な場となった。いまだに4割の世帯がテレビを付けて見るテレビドラマがあるのは、コンテンツの質の高さはもちろんのこと、今の放送局がもっている知識や経験があるからこそ実現することである。一方で時代の流れと共に生活者の視聴スタイルは変化しているが、そうした動きにも寄り添いながらデジタル環境を前提とし、データを活用しながらコンテンツ制作や視聴をうながす仕掛け作りを開発してくことが、これからのテレビドラマの課題と言えるだろう。