NHK放送技術研究所、千葉大学、京都大学と共同で発電できる有機ELディスプレーデバイスを開発
編集部
開発したデバイスの発光の様子(発光部3mm角)
NHK放送技術研究所(技研)は、千葉大学先進科学センターの深川弘彦特任教授、京都大学大学院理学研究科の畠山琢次教授と共同で、一つの素子で「発光」と「太陽光発電」を切り替えて使用できる「発電できる有機ELディスプレーデバイス」の開発に成功した。発光と発電を両立したデバイスで青色の発光を実現したのは世界で初めてとなる。
将来、発電機能を備えた有機ELディスプレーが実現すれば、ディスプレー部で発電した電力を再利用し、災害時など電源がない環境でも映像を表示できるようになることが期待されている。
これまで、電気を与えて光を放つ「発光」と、光を受けて電気を得る「太陽光発電」は逆過程であるため、これら2つの機能を一つの素子で両立させるのは困難であった。
しかし今回、高い発光効率と強い光吸収特性を兼ね備えた「MR-TADF材料」を用い、素子内部のエネルギーを精密に制御することで、発光と太陽光発電を切り替えて使用できるデバイスを実現した。ディスプレー応用に向けて赤、緑、青の3色の発光に成功しており、特に青色の発光と発電の両立は世界初の成果となる。
◼︎開発したデバイスの詳細
半導体の性質を持つ有機物は有機半導体と呼ばれ、有機半導体を用いて、発光機能をもつ有機ELや発電機能をもつ有機太陽電池の開発が一般的に広く進められている。有機ELと有機太陽電池はデバイス構成が類似しているものの、動作原理が異なる。
・有機EL:電極から流れ込んだ電荷(正孔と電子)を結合させて発光する。
・有機太陽電池:外部からの光を吸収することで生成した電荷を分離させて発電する。
発光と発電にはそれぞれに適した材料とデバイス設計があり、これらはトレードオフの関係にあるため両立は非常に困難であった。
本開発では、デバイスの中で発光および発電の中心となる活性層材料として高い発光効率と強い光吸収特性を兼ね備えたMR-TADF材料を活用し、内部に流れる電荷などの動きを精密に制御することにより、発光効率と発電効率を世界最高値となる高いレベルで両立することに成功した。
また、本デバイスは青色から赤色、白色に至る全可視光領域での発電が可能となっている。
◼︎開発の経緯と今後の展望
本デバイスには、技研がこれまで研究開発を進めてきたフレキシブル有機ELディスプレーの技術が応用されている。MR-TADF材料については京都大学、動作原理の解明については千葉大学と共同で研究を進めてきた。
技研が研究するフレキシブル有機ELディスプレーは、軽量性、収納性、衝撃耐性、可搬性などの優れた特徴により、ディスプレーの利便性やデザイン性を向上させ、さらには没入感・臨場感あふれる将来の新しい視聴スタイルを生み出すことが期待されている。フレキシブル有機ELディスプレーの研究開発の中で、ディスプレーの長寿命化を解決するため、柔軟なプラスチックフィルム上でも安定した発光を可能とする技術の研究に取り組んできた。
今回、有機ELを安定して動作させるために技研が培ってきた電荷注入材料とデバイス作製技術を応用して、これまで実現が困難だった「発光」と「発電」を両立したディスプレーデバイスの開発に成功した。
この研究成果は、2026年1月20日に世界的な学術論文誌「Nature Communications」に掲載された。今後も、発光と発電のさらなる高効率化や耐久性の向上を進め、省エネルギーや災害時の情報提供に役立つ消費電力の少ないディスプレーの実用化を目指していく。
■用語解説
1)有機EL(有機エレクトロルミネッセンス):ある種の有機化合物に電流を流すと発光する現象。
2)MR-TADF材料(多重共鳴型熱活性化遅延蛍光材料):ホウ素(B)や窒素(N)などの原子が特徴的な位置に交互に配置された構造の材料。高い発光効率と色純度を持ち、有機EL材料として実用化されている。